宇宙の暗黒時代の終わりを告げる銀河の光

【2002年5月8日 国立天文台天文ニュース(549)

ハワイ大学の天文学者を中心とした研究チームは、マウナケア山頂にある、すばる望遠鏡とケック望遠鏡で、宇宙が誕生したころに生まれた銀河の姿を捉えました。以下は、ハワイ大学のエスター・フー教授による発表英文の日本語意訳(一部)です。

(銀河団Abell 370と、重力レンズ効果で増光した銀河の写真)

銀河団Abell 370の写真。左上の矢印のところにかすかに写っているのが、今回見つかった重力レンズ効果で増光された銀河。クリックで拡大(写真提供:University of Hawaii)

ハワイ大学の天文学者を中心とした研究チームは、宇宙で星や銀河が形成され始めた時代の銀河を発見したと報告しました。 代表者のフー教授は「銀河が誕生し始めた直後の、宇宙の『暗黒時代』とこれまで考えられた時代に見つかったこの銀河では、星が連続的に誕生しています」と言っています。

宇宙はいまから140億年から160億年前に起こったビックバンからはじまり、それ以来、今日に至るまで膨張しながら冷えていったと考えられています。ビッグバンから50万年ほど経った頃、それまで宇宙を構成していたプラズマが再結合して中性のガスとなりました。ガスの主成分は水素で、わずかばかりのヘリウムが混じっていました。再結合が起こった頃の様子は、宇宙マイクロ波背景放射として観測されていて、宇宙の大規模構造を研究する手段として利用されています。暗黒時代と呼ばれている再結合後の5億年の間に、低温のガスが集まって最初の銀河が形成されはじめました。新しく生まれた銀河やクエーサーから出る光が再び周囲の中性ガスを電離させて宇宙の状況を一変させた時に暗黒時代は終わりを告げました。

これまでは、宇宙が出来た頃を探るにはクェーサーを観測していました。太陽の100万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールがエネルギー源だと考えられているクェーサーは、極めて明るく輝いているためです。生まれたばかりの銀河は、通常の銀河の1000分の1の明るさしかありませんが、星が形成されるときに放射される「ライマンアルファ」(*) と呼ばれる水素原子の輝線が比較的強いため、この輝線を利用します。生まれつつある銀河は、ほとんどライマンアルファ輝線だけで輝いているので、この輝線のみを通すフィルターで観測すると際だって見えます。他のフィルターでは、このような銀河はほとんど検出できません。

狭い波長域の光のみを通すフィルターを用いて検出感度を上げ、ライマンアルファ輝線の有無によって天体を特定し、遠方にある銀河を見つけ出す方法は、非常に有効です。研究チームは、光が地球に届くまでにおよそ153億年もかかるような、これまでに知られている最も遠い銀河を探すために、マウナケア山頂にあるケック望遠鏡を使いました。

研究メンバーは、より暗く遠方にある銀河を調べるため、『重力レンズ効果』を用いることにしました。彼等は、距離60億光年にあって、中心部に銀河数百個分の質量が集中している銀河団 Abell 370 が、距離155億光年の背後にある銀河の光を増光させている様子を観測しました。その後に、ケック望遠鏡によって得られたスペクトルから、この銀河が実際にライマンアルファ輝線を強く放射していることを確認しました。

今回発見された銀河の赤方偏移は6.56で、宇宙が誕生してからおよそ7億8千万年後に生まれました。つまり遠方にあるクエーサー(赤方偏移は6.28)よりも5000万年前、また宇宙の再電離があったとこれまで考えられていた時期 (赤方偏移は6.1以下) よりも8000万年前です。 このような銀河から届く光は、赤方偏移によってほとんど全部赤外線になってしまいます。研究チームは、マウナケア山頂にある すばる望遠鏡も用いて、星形成の割合を見積もるために赤外線による追観測を行ない、その結果、一年間に太陽40個分の新しい星が誕生していることが判りました。

画像と追加の情報 (英語) は、次のウェッブサイトにあります。
http://www.ifa.hawaii.edu/~cowie/z6/z6.html

本研究は、4月1日発行のアストロフィジカル・ジャーナル・レターズに掲載されています。

* 静止波長でのライマン・アルファ線の波長は121.6ナノメートルで、紫外域にあるため、通常は観測できません。しかし遠距離の天体は赤方偏移により波長が長い方にずれるため、地上で観測できるようになります。

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