―褐色矮星ハンターたちとっておきの 30 個の獲物―
ISO が近傍の分子雲に「星になり損ねた」褐色矮星を発見

【2001年10月26日 ESA News(10月25日)】

ヨーロッパ宇宙機関 (ESA) は、宇宙赤外線天文台 ISO(Infrared Space Observatory)による近傍の分子雲の観測から 30 個の褐色矮星を発見したと発表、写真を公表した。謎の多い褐色矮星の研究の手がかりになると期待されている。


ESA が公表したへびつかい座 ρ 分子雲の写真。右端中央近くの点をはじめ、写っている点状のものは自分で輝いている若い星や原始星である。褐色矮星までは普通の目には見えない(写真提供:ESA ISO / ISOCAM / Alain Abergel)

へびつかい座 ρ と呼ばれるこの領域は 540 光年彼方にある巨大な分子雲で、たくさんの若い星々が誕生している現場である。すでに数個の褐色矮星の存在は知られていたが、ISO 搭載の ISOCAM(ISO Camera)の高い集光力のおかげで 30 個もの褐色矮星が見つかった。

「ISO は実にたくさんの若い褐色矮星をへびつかい座 ρ にたくさん見つけてくれた。星になる前のこういった天体を、地上や宇宙の赤外線望遠鏡を使ってこれから将来にわたり探していかねばならない」と、ボルドー天文台の Sylvain Bontemps は語っている。彼は ISO でこの領域を観測したストックホルム大学の Lennart Nordh の国際研究チームの一員である。

褐色矮星とは、質量が小さいために星の中心で核融合反応を起こすことができず、したがって自分で燃えて輝くことができない恒星になり損ねた星であると考えられている。定義はあいまいで、褐色矮星の中でも質量の小さいものはむしろ巨惑星といったほうがいいのではないかという学者もいる。星が自分で輝くためには少なくとも太陽質量の 8%,言い換えれば木星の 80 倍の質量が必要で、これより軽いと星の中心で点火が起こらないのだ。

核融合反応は起こさないものの、若いものであれば形成過程で生じた余熱で輝いているため、比較的発見しやすい。ただし低温のため可視光はほとんど放たないことと、ダストの中に埋もれていることが多いという2点のため、発見のためには赤外線観測が有効だ。これは、低温の天体であっても、赤外線なら比較的明るいことと、赤外線は可視光に比べダストを貫通し易いという特徴を持つためだ。

へびつかい座 ρ 領域に見つかった褐色矮星の場合、軽いものは太陽質量の 5% ほど(木星質量の 50 倍)である。しかし、きっともっと軽いものがダストの中に隠れているに違いないと Bontemps は述べている。また、これらの褐色矮星の年齢が大体 100 万年と若く、そのおかげで比較的明るいので研究しやすいというのも好都合だ。

ISO は 1995 年 11 月から 1998 年 5 月まで、およそ 30,000 もの科学的観測をおこなった。その中には、カメレオン座 I や へび座領域といった、今回のものと同様、近傍にある星生成領域を観測したものもあり、やはり若い褐色矮星の存在が確認されている。これらの結果は、褐色矮星の本質とは?という疑問を解く手がかりになるだろう。