銀河団内の暗黒物質

【2001年10月5日 国立天文台天文ニュース (482)

X線観測天文台チャンドラによる観測で、銀河団内の暗黒物質の分布について、さまざまな情報が得られるようになりました。銀河団の中には、光で見ることのできる物質の何倍もの質量の暗黒物質が含まれていると推定されます。

チャンドラが撮影した銀河団EMSS1358+6245のX線画像

宇宙には、光や電波では観測できない、つまり直接見ることができない多量の物質があると推測されています。この種の物質が存在することは、銀河の回転速度が外縁でも小さくならないこと、銀河団が分解しないでその形をおよそ保っていることなどでかなり以前からわかっていました。これらの物質はその重力作用で感知できるだけで、暗黒物質と呼ばれています。しかしその観測は困難であり、どんな物質であるか、またどのように分布しているかなどは謎に包まれたままです。天文学者はこれまで、宇宙背景放射のむらを調べたり、銀河の空間分布を解析したりすることからその存在量を推定していました。

今年の9月5日から7日にかけて、シンポジウム「チャンドラによる科学の二年間(Two Years of Science with Chandra)」がワシントンD.C.で開催されました。マサチューセッツ工科大学のアラバジス(Arabadjis,J.)たちは、チャンドラを使って、2000年9月3日から4日にかけ、EMSS1358+6245と呼ばれる銀河団を15.3時間観測し、その暗黒物質の分布を調査した結果を発表しました。銀河団に含まれる暗黒物質の量はX線を放射する高温ガスの圧力からわかり、それにハッブル宇宙望遠鏡による観測の光学データを組み合わせて、暗黒物質の分布が推定できるということです。銀河団 EMSS1358+6245に含まれる暗黒物質の量は目に見える物質の約4倍で、銀河団中心から約15万光年の範囲に、ほぼ一様に分布しているとアラバジスたちは述べています。その他の発表を含めて、今回のシンポジウムで、暗黒物質についての謎が解け始めたような気がします。

なお、チャンドラはNASAのX線観測天文台で、1999年7月23日に、スペースシャトル・コロンビアから空間に放出されました。現在はかなり伸びた楕円軌道で地球の周りを周回しています。またEMSS1358+6245は40億光年離れた「りゅう座」の方向にある銀河団、さらにEMSSはX線源のカタログ名で、EINSTEIN observatory Medium Sensitivity Surveyの頭文字です。

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