星の錬金術 金などの重元素の生成に関する新説

【2001年4月9日 Royal Astronomical Society Press Notice (2001.04.05)

Stephan Rosswog博士 (イギリス・レスター大学/スイス・バーゼル大学) を中心とする研究チームは、金やプラチナなどの重元素は、中性子星どうしの破壊的な衝突の結果生成されたとする新説を発表した。イギリス天文学会 (UK National Astronomy Meeting) において4月5日に発表した。

酸素や炭素などの軽い元素は、恒星の内部で核融合反応により形成され、そして巨星の寿命を終える際の超新星爆発により宇宙にばらまかれる。地球を形作るほとんどの元素は、そのようなプロセスを経てきたものだ。しかし一方で、金やプラチナなどの重元素については、普通の恒星の内部では充分な量が生成できず、現在地球の内部などに存在する重元素の起源をちゃんと説明できないという問題が明らかになってきていた。

今回発表された新説は、この問題を打開するものだ。

中性子星は、超新星爆発の際、恒星の核がつぶれてできる超高密度のコンパクトな天体で、地球の百万倍もの質量を持ちながら、大きさは大都市ほどしかない。そしてこの中性子星は、しばしば2つペアとなって発見されることがある。

そこでRosswog博士らは、2つの中性子星が衝突した際に何が起こるかを検証した。その結果、宇宙で最も大規模な爆発現象である「ガンマ線バースト」を説明できるだけのエネルギーが放出され、ブラックホールが生成されるとともに、大量の金やプラチナなどの重元素が生成され、その一部は宇宙空間に投げ出されることがわかった。

研究チームは、地球にある重元素のほとんどがそうしたプロセスで生成されたと充分説明できるとしている。

Rosswog博士は、「これはすごいことだよ。結婚指輪の金が、はるかなかなたで星どうしの衝突により生成されたと考えると、わくわくするね。」と話している。

なお、この研究は、レスター大学にあるイギリス天体物理流体施設 (UK Astrophysical Fluids Facility; UKAFF) の新しいスーパー・コンピュータを用いて行なわれた。2000年10月から稼動しているこのスーパー・コンピュータは、アメリカのシリコン・グラフィックス社製「Origin 3800」の初回生産機のうちの一台で、並列動作する128個のCPU、そして64GBのRAMと1300GBのハードディスクを搭載しており、ヨーロッパの天文学向けのスーパー・コンピュータとしては最強のものだ。

このスーパー・コンピュータの登場により、はじめて今回の研究が可能となったのだが、このマシンを用いてさえ、2つの星の最後の数ミリセカンドのふるまいを計算するのに数週間を要した。

UKAFFの責任者を務めるAndrew King教授は、「この興味深い研究成果により、UKAFFの新しいスーパー・コンピュータが、イギリスの天文学を世界の最先端に保ってくれていることが示せた」と語っている。

UKAFFによる関連プレスリリースにて、シミュレーション結果のムービー・クリップを閲覧できる。