日本のアマチュアの「ミール」落下観測計画

【2001年2月20日 アストロアーツ】

阿部新助氏 (国立天文台/総合研究大学院大学 )、三島和久氏 (倉敷科学センター) が中心となって、ロシアの宇宙ステーション「ミール」の落下を観測しようというアマチュアベースのプロジェクトが進められている。

ミールは3月中旬、地上からの指令により大気圏に再突入せられ、その15年の歴史を閉じる予定。巨大なミールは、大気圏再突入による摩擦熱でも完全には燃え尽きることなく、多数の破片が地表にまで達すると予想されるため、ロシアでは破片がニュージーランドとチリの間の南半球太平洋上に落下するようにミールを誘導し、地上への被害を避けることに全力をあげるとしている。

この落下の直前、ミールは日本付近の上空約150キロメートルを通過する見込みで、この際日本から、ミールが大気との摩擦で発光する現象が観測できる可能性があると期待されている。これは、大気圏に突入した大規模構造物のふるまいを科学的に調べる大きなチャンスである。ただし、最終的な落下日時・落下コースは落下の直前になるまでわからない。

そこで「ミール宇宙ステーション地上観測ネットワーク」と呼ばれるこのプロジェクトでは、落下をできるだけ確実に観測するため、公開天文台やアマチュア観測家に広く協力を求め、幅広い観測網を展開する計画だ。プロジェクト専用のホームページや参加者のためのメーリングリストも近日中に開設予定。

以下に、プロジェクトのプレスリリース全文を掲載する。観測網への参加を希望される方は、このプレスリリースに記載された参加方法にしたがって申し込んでほしい。

ミール宇宙ステーション地上観測ネットワーク

◎ 目 的

  • 大型宇宙建造物の大気突入過程の振る舞いを調べる
  • 宇宙ステーションと地球大気との相互作用で発光する物質を調べる

◎ 手 段

  • 光学観測によるミール宇宙ステーションの光度変化を観測する
  • 電波観測によるミール宇宙ステーションの反射エコーを観測する
  • 分光観測によるミール宇宙ステーションのスペクトルを観測する

◎ 協力体勢

  • 全国の公開天文台、およびアマチュアに協力を仰ぎ、ミール宇宙ステーション落下軌道の不確定性を補った確実な観測体勢を施行する
  • ミールの落下日程が流動的であるので、落下前のミールの観測データから 独自の軌道予測を行う必要性がある
  • 観測データの集計は、阿部新助が窓口になり行い、ミール 宇宙ステーションの軌道情報などの情報提供は、メーリングリストおよび専用ホームページを通して行う

◎ 観測期間

  • ミール落下の不確定性に伴い、3月中旬頃の数日間を観測に備える

◎ 概 要

1986年に打ち上げられ、15年近くに渡って有人宇宙活動の拠点となってきたロシアの「ミール宇宙ステーション」は、老朽化に伴い、2001年3月初旬に大気圏へ突入させて廃棄されることが決定しております。しかし、ミールの総重量は137トンもあることから、ミールのモジュールの骨組み、ジャイロ、エンジンなどの一部は、大気圏突入でも燃え尽きずに地上まで到達すると考えられています。2月15日現在の情報によると、3月13日から18日の間に、ニュージーランドとチリの中間の南半球太平洋上(西経140度、南緯47度)に落下が予定されており、北半球の太平洋西岸地域の上空およそ150kmを通過することが予想されております。

このような大型建造物が大気圏に突入した場合、大気の影響によってどのような振る舞いをするかは、高度な計算でもなお不確定性が大きく、更に太陽活動の影響による地球大気密度の変動によって、正確な姿勢制御が行われなくなる可能性も高くなります。同様に20年後に落下する、国際宇宙ステーションの落下模擬データとしても、燃え切らずに地上に落ちる残骸の軌道や落下速度、明るさの変化を調べることは、大気落下中のデブリの振るまいを詳しく解析でる上で重要です。

ミールの軌道は、1日で16パスずれますが、ミールの軌道傾斜角・巡行軌道から南太平洋に落とすには、北半球の太平洋西海岸中緯度を必ず通過させなくてはならないので、3月13〜18日という日程の変更よりもむしろ、落下軌道の不確定性をカバーする多くの地上観測局を用意することが重要となります。

1979年にオーストラリア西部に落下したアメリカのスカイラブ以来の巨大建造物「ミール宇宙ステーション」の落下を科学的に観測する目的で、日本の公開天文台およびアマチュア観測家の皆様に広く観測協力体勢をお願いする次第です。本メールでは、「ミール宇宙ステーションの地上観測ネットワーク」に参加して頂けるか否かのご回答だけ頂ければ結構です。3月中旬(13〜18日前後)の数日間、ミール宇宙ステーション落下の地上観測に協力して頂ける場合、申込書の形式に従って、3月10日までにメールでご返送ください。ご協力よろしくお願い致します。

◎ 観測形態

(1) イメージング観測

ミール落下の日本上空通過時の高度は、100-150km程度と予測される。秒速8kmで軌道を回るミールは、大気減速を強く受け始める高さである。この高度でのミール表面温度は、数百度から千度に達するものと思われる。従って、近赤外線(3ミクロン程度)の波長域でミールは最も明るくなるであろう。もちろん、可視光でも強く輝く。その明るさは、高度が低くなればなるほど明るくなる。ある場所でのミールを観測できる継続時間は、数分(5分)程度と考えられる。地球大気突入の際、ミール各部がどのようにばらけていくのかを詳細に観測する目的で、標準から中望遠程度のカメラレンズを使用したビデオ、写真、あるいはCCD観測が適している。

  ・多地点観測による軌道決定 写真、ビデオ、CCD観測
  ・フラグメントの分裂の測定 ビデオ観測を用いた時間変化の観測

衛星追尾機能を持つ望遠鏡がある場合は追尾観測も考えられるが、(公表されるか分からない)最終軌道要素(TLE)でさえ、逆噴射のタイミング、継続時間などによる不確定性を含んでいると思われる。しかし、高分解能での撮影は是非行っていただきたい。

(2) 分光観測

地球大気との相互作用で、ミール本体に含まれる物質と地球大気成分による高高度での様々な化学変化、温度変化などの物理量が得られる。組成および突入角、速度などが分かっている物体が地球大気との相互作用でどのような発光をを示すかを明らかにすることは、流星や永続痕などの発光過程を正確に知るうえでの良い指標(物差し)となります。構造体の大半を占めるアルミニウム(Al)、太陽電池パネルのシリコン(Si)、ほとんど無傷で地表に到達するスラスタータンクなどに用いられているチタン合金(Ti)、そしてそれらの中間がステンレススチール(Fe)です。

  ・地球大気との衝突発光の観測 ビデオ、写真、CCD + 透過型対物分光

(3) 電波観測

流星電波観測と同じシステムを用いて、ミール本体に反射した電波(6メーター波)をキャッチできるであろう。ドップラー速度の変化なども見ることができる。また、レーダー測距と同じ手法で、ミール本体へ電波発射し、反射した電波からミールの正確な高度、速度などが測定できる。

◎ 参加方法

次の申込書に必要事項を記載の上、阿部新助 (avell@pub.mtk.nao.ac.jp) まで電子メールにて申し込んでほしい。メールが使えない場合は、FAX (0422-34-3810) による申し込みも可。締め切りは2001年3月10日。

------- ミール宇宙ステーション地上観測ネットワーク申込書 -------

団体名  :
観測代表者氏名:
観測場所(市町村区名):
    (緯度・経度):
観測方法:
連絡先住所:
電話   :
FAX  :
電子メール:
その他:

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阿部新助 (国立天文台/総合研究大学院大学)
三島和久 (倉敷科学センター)