[HST] 彗星の核に似た天体に新しいクレーターが存在?

【2000年9月14日 STScI-PR00-31 (2000.9.14)

Susan D. Kern氏をリーダーとするアリゾナ大学の研究チームが、NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)を用いて「ケンタウリ族(Centaur)」と呼ばれる種類の天体を分析している。ケンタウリ族は、木星軌道〜海王星軌道に散在する、主に氷とチリからなる小天体で、彗星の核によく似ている。現在までに21個のケンタウリ族の天体が発見されているが、これらは、冥王星軌道の外にあって太陽系を取り巻いている「カイパー・ベルト」からはぐれた天体であると考えられている。そしてカイパー・ベルトは、彗星の故郷として知られる。

研究チームでは、HSTを用いて全10個のケンタウリ族の天体を分析する計画を進めている。ケンタウリ族は、直径数十キロメートル程度と小さい上に地球から遠いため、HSTの優れた解像力を用いても直接その模様を検出することはできない。HSTの近赤外線カメラ兼多天体分光器NICMOSを用いて、天体に反射された太陽光の近赤外線スペクトルを取得することが観測手段になる。

研究チームは、1998年6月11日にケンタウリ族の小惑星「8405 Asbolus」を観測した。Asbolusは土星軌道〜海王星軌道の間に位置し、直径はおよそ80キロメートル。この日は偶然、HSTは地球軌道上の強い放射帯のひとつを通過することになっており、放射帯通過中は観測機器の損傷を避けるため、観測機器を停止させる必要があった。このため、放射帯通過をはさんで2回にわけてスペクトルが取得された。2回の観測間隔は、およそ2時間。

このうち1回目に取得されたスペクトルは、比較的明るく、複雑な吸収線が見られた。この結果は研究チームを驚かせた。2回目に取得されたスペクトルは、1回目に取得されたスペクトルとは大きく異なっており、全体的に変化の少ないスペクトルになっていた。2回目に取得されたスペクトルは、HSTの観測の3か月前にケック10メートル望遠鏡により得られていたスペクトルとよく一致するものだった。

およそ2時間空けて観測された2つのスペクトルが大きく異なるということから、Asbolusがその間に自転により半回転近く姿勢を変えたことが示唆される。このことからKern氏は、Asbolusの自転周期を4.5時間と見積もっている。これは、以前の予想よりも2倍も早い自転速度だ。

また、1回目に取得されたスペクトルから、Asbolus表面に比較的新しいクレーターがあることが示唆される。太陽系外層部にある天体は通常、長い間太陽からの紫外線や太陽風、太陽系外からの宇宙線などにさらされるうち、表面は黒っぽく変色し、反射率が低くなっている。しかし、新しいクレーターなら内部の変質していない氷が露出しているため、反射率が高い。

Asbolus表面に存在するらしいクレーターは、過去1億年以内に形成されたと推測されている。また、このクレーターを形成した衝突によりAsbolusはカイパー・ベルトからはじき出されて現在の軌道になったという可能性も考えられる。

研究の詳細は、『Astrophysical Journal Letters』誌上で発表される予定。