孤立した中性子星の謎

【2000年9月14日 国立天文台ニュース(378)

オランダ、ユトレヒト大学のバン・カークウィク(van Kerkwijk, M)たちは、ヨーロッパ南天天文台のVLTの観測によって、孤立した中性子星RX J1856.5-3754の近くに、衝撃波のような形をした星雲状の光を確認しました。 これは、この中性子星の謎を解く鍵になるかもしれません。

この中性子星は「みなみのかんむり座」の一角にあり、1992年にローサットX線衛星によりX線源として発見されました。 さらに1996年にハッブル宇宙望遠鏡によって、25等より暗い天体として可視光で観測され、ここから、直径が20キロメートル程度、表面温度が70万度にも達する高密度の中性子星であることがわかりました。 しかし、これまでに発見されている中性子星は、ほとんどがX線を放射する連星であるか、あるいは電波のパルスを出すパルサーであり、このように孤立した形で何の活動も見せない中性子星は初めてのことでした。 中性子星は、超新星爆発の後に残された星の中心核の部分です。 しかし、このRX J1856.5-3754の近くに超新星残骸は見当たりません。 ここから推定すると、爆発後少なくとも10万年は経過していると思われます。 そうだとすると、どうして表面がこれだけの高温を保っているのか、その点が大きな謎でした。

ひとつの考え方として、ガスが表面に落下することで高温を保つというプロセスがあります。 高密度の天体近くは重力が大きく、僅かの物質の落下でも大きいエネルギーを生み出すからです。 ただ、そのためには、落下するガスが存在しなければなりません。

カークウィクたちはまず中性子星の位置を測定し、ハッブル宇宙望遠鏡の観測と比べて、この中性子星が毎秒100キロメートルの速さで移動していることを発見しました。 ついでそのスペクトルを観測しましたが、そこには一本のスペクトル線もなく、それに代わって、星のすぐ近くで水素のバルマー輝線を発見しました。 その確認のためにさらに5時間の観測をおこなったところ、中性子星のすぐそばに衝撃波のような形をした円錐形の星雲が光っていることがわかりました。 これはおそらく中性子星からの放射で電離した星間ガスで、中性子星との相互作用で円錐形になったものと思われます。 こうして、とにかく多少のガスが存在することは確かです。 これらのガスが中性子星の温度に影響しているのかもしれません。 しかし、このガスだけで中性子星を高温に保っておけるかどうか、よくわかりません。 まだ、この中性子星の謎がすべて解けたわけではないのです。

参照ESO Press Release 19/00(Sept.11,2000).
STScI-PR97-32(Sept.24,1997).