チャンドラ、アンテナ銀河を観測

【2000年8月18日 CHANDRA Press Room CXC PR: 00-21 (2000/8/16)

NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」が撮影した「アンテナ銀河」の画像が公開された。

チャンドラが撮影したアンテナ銀河

「からす座」の方向約6千万光年の距離に位置するアンテナ銀河は、NGC4038とNGC4039のふたつの円盤銀河が衝突し混じり合いながらお互いの重力の潮汐力で変形しつつある姿。初期の可視光望遠鏡で見たとき、昆虫の触角(アンテナ)のように見えたことから、アンテナ銀河と呼ばれるようになった。「リングテール銀河」と呼ばれることもある。衝突は1億年前からはじまり、今も続いている。

チャンドラによるX線画像はこのアンテナ銀河をかつてない分解能でとらえているが、複数のひじょうに巨大な超高温ガスの泡(スーパーバブル)から、強いX線放射が行なわれているのがわかる。同時に、点状のX線源も多数見られる。

この観測を行なったチームメンバーの一人であるハーバード-スミソニアン宇宙物理学センターのGiuseppina Fabbiano博士は8月16日、イギリス・マンチェスターで開催中の国際天文学連合(IAU)の総会において、アンテナ銀河はそれほど遠くない銀河であるが、初期の宇宙のようすを伝えるひとつのサンプルだと述べている。同博士によると、100億年以上前の宇宙初期の時代、銀河が次々と誕生した。銀河どうしの距離は現在よりずっと近く、アンテナ銀河に見られるような銀河どうしの衝突現象は、ありふれた出来事だった。そして、それらの衝突現象は、現在我々の銀河系の近くに見られるような銀河の形が生み出されるで、重要な役割を担ったという。

多くの天文学者が、我々の銀河系も銀河どうしの融合現象の結果誕生したと考えている。しかし、銀河どうしが衝突した場合でも、それぞれの銀河を構成する恒星どうしが衝突することは滅多に無い。銀河の巨大さにくらべれば、恒星などはほんの小さな小片に過ぎないのだ。だが、巨大なガスやチリの雲どうしは衝突し合い、衝突によって圧縮された雲からは何百万個もの星たちが急速に誕生する。

このとき誕生する恒星には巨大で短命の恒星が多く含まれ、それらの恒星は2百万年〜3百万年後には次々に超新星爆発を起こし、その残骸である超高温のガスの泡が数千個も形成される。これらのガスの泡の温度は何百万℃にも達し、酸素や鉄その他の重元素を豊富に含む。さらに、泡どうしの衝突と融合が繰り返され、直径5千光年にも達するひじょうに巨大な高温ガスの泡――スーパーバブル――が形成される。このスーパーバブルが、今回チャンドラの画像にみられるものだ。

以前にX線観測衛星「ROSAT」がこのアンテナ銀河を観測した際、複数のぼやけたX線源がみられた。しかしFabbiano博士によると、スーパーバブルの存在がはっきりと確認されたのは、今回のチャンドラの観測がはじめてという。

多数見られる点状X線源は、超新星爆発の後に残されるブラックホールや中性子星。ただし、ブラックホールや中性子星そのものからの放射ではなく、それらが伴星からガスを吸収する際、ブラックホールや中性子星の強大な重力により急激に加速され何千万℃にも熱されたガスが放射を行なっているものである。

1999年12月1日、チャンドラのACIS分光撮像器による撮影。観測時間は20時間。画角は4分角四方(1分角=1/60度)。

画像提供:  NASA / SAO / CXC / G.Fabbiano