太陽観測衛星SOHOによる彗星発見数が100個を超えた

【2000年2月11日 (Florida Online, 2000/2/9)

LASCOによるSOHO-100
LASCOよるSOHO-100
2000年2月4日撮影。SOHO-100はサングレーザーではない通常の彗星だが、サングレーザー彗星はLASCO画像ではくっきりと長い尾を引いた印象的な姿を見せてくれる。

リトアニア人の観測者が2月4日太陽観測衛星SOHOによる画像に発見した天体が、これまで発見されていた天体では無いことが確認され、この天体はSOHOにより発見された100個目の彗星(SOHO-100)となった。

SOHO(Solar and Heliospheric Observatory)はヨーロッパ宇宙機関(ESA)とNASAの共同により4年前に打ち上げられ、太陽に関する研究において革命的な成果をあげてきた。そして同時に太陽の大気に突入する多数の「カミカゼ彗星」も発見してきており、SOHOは彗星発見数で天文学史上トップに立っている。

今回発見されたSOHO-100はカミカゼタイプではない通常の彗星。ここ2〜3日のあいだにさらに2つの新彗星が発見されている。

他のほとんど全ての例と同様、SOHO-100はSOHOに搭載されているLASCOと呼ばれる観測機器の画像から発見された。LASCOは太陽の周囲2000万kmをカバーする広角分光コロナグラフ。コロナを観測するために太陽はマスクにより隠されている。LASCOの目的は太陽からのガス放出を監視することで、彗星の発見は副次的な成果。

SOHOの科学者チームは多くの彗星を画像が入り次第発見しているが、LASCOによる画像や動画は世界中の観測者たちのためにインターネットで無料公開されており、一般の観測者にも彗星発見の機会が与えられている。今回のリトアニア・ビルニス市の理論物理学および天文学研究所に所属するKazimieras Cernis氏によるSOHO-100の発見はその一例だ。

SOHO-100の発見競争は熾烈を極めた。ドイツ・フラウエンスタイン市のアマチュア観測家、Maik Meyer氏はSOHO-98および99を発見し、そしてCernis氏がSOHO-100の候補天体の発見を報告してから24時間に満たない2月5日にはSOHO-101の候補天体を発見している。さらに同じ日、SOHOの科学者チームの一員であるDouglas Biesecker氏はSOHO-101の前方にSOHO-102の候補天体を発見した。すでにこれらSOHO-100〜102の軌道要素が計算され、これらが新彗星であることが確認されている。

他にもアマチュア観測家がLASCO画像から新彗星を発見した例がある。1999年の夏にはオーストラリアのTerry Lovejoy氏が5個の新彗星を発見した。さらにイングランドのJonathan Shanklin氏が1999年9月からのあいだに3個の新彗星を発見している。SOHOのLASCO画像はアマチュア観測家にとって新彗星発見の大きなチャンスなのだ。

LASCO画像から発見された彗星のうち、9個は無事太陽から離れた。SOHO-100〜102もそれに含まれる。1998年5月に発見されComet 1998 J1という識別名が与えられたSOHO-49に関しては、南天で肉眼彗星となった。しかし、他の大多数のSOHO彗星は太陽大気で燃え尽きている。


雪玉と太陽

SOHO-100までのうち、92個が太陽大気で燃え尽きている。太陽と彗星のニアミスは良く知られていたが、100年前ドイツ・キエル市のHeinrich Kreutz氏が、いくつかのそのような彗星が同じ起源を持つことに気づいた。彗星がやってくる方角が同一であったからだ。今ではそれらはクロイツ・サングレーザー彗星群(サングレーザーは太陽をかすめる者の意)と呼ばれており、SOHO彗星のうち燃え尽きた92個の全てが同彗星群に含まれるものだ。

HSTによるシューメーカー・レビー第9彗星
HSTによるシューメーカー・レビー第9彗星
1994年5月17日撮影。もともとは1つの塊であったものが、木星の重力の潮汐力によりバラバラに引き裂かれ、21個の破片となって110万kmに渡って広がっている。これは、地球〜月間の距離の3倍にあたる。

彗星は、主に氷とチリでできている、いわば雪玉。したがって太陽をかすめるような彗星は、それが極めて大きいものであった場合のみ生き残ることができる。だがたとえ生き残ったとしても、太陽の巨大な重力の潮汐力により彗星の核は引き裂かれてしまう。クロイツ彗星群が形成される原因となった破壊現象は、シューメーカー・レビー第9彗星の例に似たものだ。この彗星は1994年、木星に近づきすぎてバラバラに引き裂かれ、そして木星に落下した。

米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市の天文物理学センターのBrian Marsden氏によると、クロイツ彗星群の起源となった彗星は、ギリシア人天文学者Ephorusが紀元前372年に見たものである可能性があるという。Ephorusはその彗星が2つに分裂したことを記録している。この記録は、Marsden氏が、1100年に発見された近い軌道をもつ2つの彗星の記録から計算した軌道と一致する。その彗星はさらにさらに分裂し、クロイツ彗星群を形成し、そして今も同じ方角からやってきている。


クロイツ彗星群の軌道
クロイツ彗星群の軌道
ステラナビゲータ5による。惑星の配置は2000年1月のもの。

クロイツ彗星群は、太陽系の惑星の公転面より35度南に傾いた軌道を持っている。SOHOが地球とともに太陽の周りを公転するにつれ、クロイツ彗星は2月には東(左)からやってくるように見え、8月には西(右)からやってくるように見え、6月と11月には太陽に向かって真っ直ぐ上昇していくように見える。

池谷−関彗星
有名なクロイツ彗星、池谷−関彗星

SOHOの科学者チームで、45もの彗星発見をもたらしたDouglas Biesecker氏によると、LASCOによる彗星発見のペースは予想を遥かに上回っており、これは、20,000個ものクロイツ彗星が存在していることを暗示しているという。クロイツ彗星群の起源となった彗星は特大のものであったに違いない。SOHOにより発見されたクロイツ彗星はどれも太陽大気で燃え尽きてしまう小さなものだが、他のクロイツ彗星にはまだ太陽大気から脱出できる大きさのものもある。1882年9月の大彗星や、1965年の池谷−関彗星などがそうだ。

クロイツ彗星群の起源となった彗星の分裂の過程は、彗星の強度を知る上でのヒントを与えてくれる。彗星の強度を知ることは、地球への衝突コースをとる彗星が出現した場合のために重要だ。そして、分裂したばかりで新しい表面を露出しているクロイツ彗星は、彗星内部の構成物質を知る上で重要だ。ハレー彗星のように太陽を多く周回している古い彗星は、すでに表面が変質してしまっている。

LASCO画像は彗星が放出する非常に長いダストテイルを見せてくれる。そして彗星が蒸発してできたガスは、SOHOに搭載された紫外線コロナ分光器(Ultraviolet Coronagraph Spectrometer, UVCS)のような他の機器により検出される。これらの観測結果により、太陽風の速度を計測することが可能だ。


ガス雲により発見された彗星

SWANによるヘール・ボップ彗星の水素雲
SWANによるヘール・ボップ彗星の水素雲
1997年春の観測。SWANによる紫外線での画像とともに、中央には可視光画像が比較のため合成されている。また、右下の黄色い小さな円は太陽の大きさを示している。

SOHOの彗星発見数は、最近のSWANと呼ばれる観測機器による発見が無ければ1つ少なかっただろう。SWANはSolar Wind Anisotropiesの略で、太陽風の異方性を検出する装置。この装置はフランスのService d'Aeronomieとフィンランド気象学会の共同によるもの。SWANは太陽風の影響で紫外線で光っている水素原子を観測するため、太陽から離れた方向を観測している。そしてこの観測機器は彗星を取り巻く大きな水素の雲も検出することができる。この水素の雲は、彗星から蒸発した水分子が分解されることにより形成される。

1999年12月、国際天文学連合(IAU)はSWANとSOHOをComet 1997 K2の発見者として認めた。発見は、SWANによる1997年5月から6月の全天画像による。この彗星はSOHO-93になった。この彗星の近日点(太陽に再接近した地点)は地球軌道の外側であった。この彗星は小さく淡いものであると考えられるが、ガス雲は400万kmにもわたって広がっていた。

SWANチームのフィンランド人メンバーであるTeemu Makinen氏によると、この発見は驚きに値するという。SWANは彗星から放出される水蒸気の観測において最も重要な機器であり、普段から他の観測者が発見した彗星の水素雲の観測は行っている。新彗星の発見は今回がはじめて。

2003年にヨーロッパ宇宙機関が計画しているRosetta計画の目標天体であるウィルタネン周期彗星(Comet Wirtanen)が最も最近に太陽へ回帰したときのSWANの観測によると、それは1日あたり2万トンの水蒸気を放出していた。ヘール・ボップ彗星に関しては、1日あたり2000万トンもの水蒸気を放出しており、SWANは7000万kmにも渡って広がる水素雲を観測した。この雲は、太陽系内で観測された物体としては最大のものだ。


SOHOウェブサイト http://sohowww.nascom.nasa.gov/