砂塵嵐で変化する火星表面

【1999年7月1日 Space Science Update (NASA, STScI)Malin Space Science Systems (MSSS)

C/1998 T1
1999年4月27日〜5月6日、ハッブル宇宙望遠鏡によって撮像された火星。4分の1ずつ回転したときの火星表面が計4コマ示されている。青(410nm)、緑(502nm)、赤(673nm)フィルターによる3色合成画像。

NASAはマーズ・パスファインダーの火星着陸2周年を記念して、ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた火星の画像を公開した。火星が地球に最接近した5月2日前後に撮影されたもので、火星までの距離はおよそ8700万km。火星表面上にある約19kmの構造物まで判別することができるという。これまでハッブル宇宙望遠鏡が撮像した火星の中でも、もっともシャープな画像が得られたことになる。

この画像を約20年前にNASAの火星探査機バイキングが撮影したものと比べてみると、火星表面の暗い部分と、赤く明るい部分の分布がかなり変化していることがわかるという。つまり両者をよく比較すると、20年前には暗かった領域が今では明るくなっていたり、その逆に明るかった領域が暗くなってしまっていたりする領域が見つかるというのである。これは火星表面の砂や塵が、大規模な風やダストストーム(砂塵嵐)によって運ばれていることを示している。

さらに、火星では「ダストデビル」と呼ばれる、もっと小さなスケールの砂嵐が発生することもわかっている。NASAは7月1日、火星探査機マーズ・グローバルサーベイヤーに搭載されているマーズ・オービターカメラ(MOC)が撮影したダストデビルの画像を発表した。MOCは火星表面数メートルの構造物を判別することが可能である。

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マーズ・グローバルサーベイヤーのマーズ・オービターカメラ(MOC)によって捉えられた火星北緯36°西経159°付近。左側画像は1999年5月13日、右側は同年5月15日に撮影された同一領域。画像の一辺は火星表面上で約88kmに相当する。

5月13日(左側)の画像中、矢印で示されているダストデビルは高さ約8kmと見積られているが、2日後の5月15日(右側)の画像では見えなくなっている。その他にも両画像をよく比べると、片方の画像にしか見ることのできない、小さなダストデビルをたくさん見つけることができる。「Large Martian Dust Devils Caught in the Act」では両画像の詳細な動画を見ることもできる。

比較的大きなダストデビルは、20年前のバイキングの観測でも今回とほぼ同じ場所で発生していることがわかっていたが、この観測により、もっと規模の小さなダストデビルについても数多く、しかも頻繁に生成・消滅を繰り返しながら出没しているようすが初めて捉えられたことになる。

このように火星ではさまざまなスケールで砂塵嵐が絶えず起こっており、大気変化の激しさを物語っている。火星の気候については1999年9月に火星到着を目指して飛行中のマーズ・クライメイトオービター(MCO)によって、より詳細な観測と分析がおこなわれる予定である。今後の動きに注目したい。

参照:ニュースソース
STScI-PRC99-27, Jun 30, 1999 プレスリリース
MGS MOC Release No. MOC2-141, 1 July 1999