自転速度が変化? 金星の1日、20年前より6分長く

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【2012年2月13日 ヨーロッパ宇宙機関

これから春にかけて夕方の西の空高く輝く宵の明星、金星。もともと自転速度が非常に遅い惑星だが、20年前の観測と比べて自転速度がわずかに遅くなっているという研究が発表された。


謎の惑星、金星

謎の惑星、金星。厚い大気や高速風が地表を覆う(提供:ESA - C. Carreau)

地球のすぐ内側を公転する金星は、大きさや質量は地球とほぼ同じだが全く異なる点も多い不思議な惑星だ。公転周期が225日で自転周期が243日と「1日が1年より長い」のも、その不思議な特徴の1つである。

ヨーロッパの金星探査機「ビーナス・エクスプレス」の観測から、その非常に遅い自転が以前の計測よりもさらにわずかに遅くなっていることがわかった。赤外線観測で厚い大気ごしに地表を観測すると、1990年代初頭にNASAの探査機「マゼラン」で計測した自転速度をベースにした場合と比べて地形の場所がずれていたという。

自転速度の精密な測定は、金星の中心核が液体か固体かを推測する手がかりになる。中心核の性質はさらに、金星の形成や進化を推理する材料になる。もし固体核であれば、星全体が持つ質量の割合がより中心に集まり、それだけ外から加わる力に強くなる。「外から加わる力」とは、具体的には金星の厚い大気がその主なものになる。地球の90倍もの高い気圧、そして星全体に吹き荒れる高速の風が、金星の非常に遅い自転速度に影響すると考えられている。地球でも風や海の干潮によるこうした影響がわずかに存在し、季節ごとの風向きや気温によって、1日の長さにミリ秒単位の違いが生じている。

1980〜90年代、ソ連の探査機「ベネラ」やアメリカの「マゼラン」が行ったレーダー観測で、厚い雲のヴェールに包まれていた金星の地表の様子が初めて明らかになった。マゼランは1990年から4年間、自転による地形の動きを観測し、そこから「金星の1日=地球の243.0185日」という数値が得られた。

だが今回の観測研究では、1日はさらに6.5分長いことになる。地球からの長期レーダー観測の最新結果も同様だった。研究発表者であるNils Müller氏(ドイツ航空宇宙センター)は、マゼランの計測は正確だったはずなので、自分の計算が間違っていると最初は考えたという。だが、あらゆる誤差の可能性はチェックして潰した。さらに、ベルギー王立天文台のÖzgur Karatekin氏の検証により、これが短期的な差違ではなく長期的な変化であることがわかったのである。

また最近では、金星の大気運動は数十年という長周期で変動しているという推測モデルも存在する。先述の通り大気と自転速度には関係があるので、このモデルは自転速度の変動を示していることにもなる。その他では、地球と金星の距離が比較的近くなったときの角運動量のやりとりが関係している可能性もある(ビーナス・エクスプレスのプロジェクト研究員Håkan Svedhem氏は、距離が遠すぎるとしてこれに否定的な見解を示している)。

将来の着陸探査計画にとっても、金星の自転速度は重要な情報となる。「ビーナス・エクスプレス」の観測で、今後もさらに金星の謎が明らかになっていくだろう。