クリスマスに起こった不思議なガンマ線バーストの正体は?

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【2011年12月2日 NASA

2010年12月にNASAのガンマ線天文衛星「スウィフト」が発見した奇妙な爆発現象の正体について、2つの説を調査した研究成果が1つの論文で発表された。一方は数十億光年も先で起こった新種の超新星爆発、もう一方は天の川銀河内の不思議な衝突現象という、全く異なるシナリオだ。


「超新星説」のイメージ図。赤色巨星(赤)に中性子星(青)がのみこまれ、暗い超新星爆発が起こる。参照先では動画を見ることができる(提供:NASA/Goddard Space Flight Center。以下同)

「彗星衝突説」のイメージ図。中性子星(青)に彗星状の天体がのみこまれていく

ガンマ線バーストは、太陽一生分のエネルギーを一瞬にして放射する、宇宙最大の爆発現象だ。その中でも、昨年2010年のクリスマスの夜に起こった「クリスマスバースト」はあまりに不思議な現象だったため、その正体については多種多様な説が考えられている。

「クリスマスバーストは、ガンマ線バーストと一口に言っても本当にいろいろなものがあると教えてくれます」そう語るのは超新星説の研究班リーダー、Christina Thoene(スペイン・アンダルシア宇宙物理研究所)氏だ。「スウィフトが検出する何百ものバーストから、不思議なものが見つかるんです」

今回発表された2つのシナリオに共通するのは中性子星の存在だ。中性子星とは、太陽の8倍程度以上の恒星が一生の最期を迎え超新星爆発を起こした後に残る超高密度天体である。

クリスマスバーストは「スウィフト」によってアンドロメダ座の方向に検出され、GRB 101225Aという符号が与えられた。通常、ガンマ線バーストの継続時間は数秒〜数分という短い間の出来事だが、このバーストは28分も輝きつづけた。その後、バーストの残光をハッブル宇宙望遠鏡や地上の望遠鏡が観測したが、距離は特定できなかった。

Thoene氏らは、年取った普通の恒星が赤色巨星の段階に入って膨張し、連星のパートナーである中性子星を飲み込んだことでこの現象が起こったのではないかとしている。2つの星が同じガス雲に取り巻かれ、やがて中性子星が巨星の核部分と合体する。そして作られたブラックホールからは超高速ジェットが二方向に噴き出し、暗い超新星爆発が起こる。このジェットが合体前に放出されたガスとぶつかって放射されたガンマ線がクリスマスバーストの正体とすれば、奇妙な性質に説明がつく。

この「超新星説」の場合、ガンマ線バーストは55億光年先で起こったことになる。研究チームは同じ場所に暗い銀河と思われる天体を発見しており、もしこれが銀河であれば、超新星説を裏付ける証拠となる。だが、もしこの天体がX線点光源やパルサーであれば、この説は違うということになる。

衝突現象であるというアプローチで調査を行ったSergio Campana氏(イタリア・ブレタ天文台)らのチームは、彗星状の天体が潮汐破壊(近くの天体の重力によって引き裂かれる現象)を起こし、その破片が中性子星にぶつかったという仮説を検証した。これだと、地球からわずか1万光年先でこの現象が起こったことになる。この「彗星衝突説」は、彗星状の天体が準惑星ケレスの半分ほどの質量を持つことが条件となる。中性子星から遠くにあるこのような天体は、中性子星ができるもととなった超新星爆発をまぬがれたものと思われる。

破壊された天体の破片はばらばらに動きながら中性子星の重力に吸い込まれ、やがて周囲を円盤状に揃って回るようになる。クリスマスバーストが見せた何時間もにおよぶX線の変動は、時間差で吸い込まれた破片が中性子星にぶつかったためなのかもしれない。

他にもいくつか説はあったが、スウィフトにより多くの観測例を得ることで、これらの2つのシナリオにしぼりこむことが可能となった。

全く異なる2つのシナリオを描くことのできる「クリスマスバースト」。こうした“変わり種”が天文学の新たな知見を生み、天文学を発展させていくのだろう。