変わった連星からのガンマ線

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【2011年7月7日 NASA

ガンマ線天文衛星「フェルミ」が、変わった公転軌道を持つ連星から予想外に強いガンマ線が出ているのを観測した。この連星は周期3.4年で公転しており、主星を取り巻くガスと伴星が相互作用することでガンマ線が発生していると考えられている。


連星系のイメージ図

連星系のイメージ図。中央にあるのがBe星のLS 2883とガスの円盤。その周りを点線で書かれた軌道に沿って矢印の方向にパルサーのB1259-63が周期3.4年で公転している。円盤の向かって奥側を通過したのが2010年11月〜12月、手前側を通過したのが2011年1〜2月。クリックで拡大(提供:NASA's Goddard Space Flight Center/Francis Reddy)

2010年12月、みなみじゅうじ座の方向約8,000光年先にある連星系をNASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」が観測した。観測されたのはBeタイプ(注1)の恒星「LS 2883」とパルサー(注2)「B1259-63」からなる連星系で、公転周期は3.4年、非常にいびつな楕円軌道を取っている。

この主星は太陽の9倍の大きさ、重さにすると24倍にもなる巨大な天体であり、ガスの円盤をまとっていることがわかっている。その伴星であるパルサーは直径約20km、重さは太陽の2倍で、1秒間に21回転という速度で自転している。

このパルサーが主星の約1億km以内に近づくと、距離が非常に近いために主星のガスの円盤に飛び込む格好となる。パルサーはすぐに円盤を通過してしまうが、しばらくするともう一方の側からまた円盤に飛び込む(画像参照)。円盤を通過する際に、パルサーと円盤が相互作用を起こして粒子を加速し、普段のパルサーとしての光とは違ったエネルギーの光を出すと考えられている。

2010年11月〜12月、パルサーが円盤を通過するころにフェルミに搭載されている広域望遠鏡(LAT)を用いて観測したところ、弱いガンマ線がとらえられた。その後、12月15日にこのパルサーが主星に最接近すると予想され、世界中の天文学者が様々な望遠鏡、波長域でこの天体を観測した。この中にはフェルミのほかにNASAの衛星「スウィフト」、ヨーロッパの宇宙望遠鏡「XMM-Newton」や「INTEGRAL」、日本の「すざく」、オーストラリアやチリ、アフリカなどにある望遠鏡も含まれている。

次いで2011年1月中旬に、パルサーが2度目の円盤通過を起こした。最初の円盤通過と2回目の円盤通過では発生するガンマ線の強度は変わらないと予想されていたが、驚くべきことに、観測されたガンマ線はこれまで観測されてきたものよりも数倍から15倍も強いものであった。

さらに奇妙なことに、ガンマ線以外の、電波やX線の観測結果では特に変わったところはなかった。ガンマ線で最も明るかったのは2011年1月20〜21日と2月2日であり、最初の円盤通過からわずか1か月半で何故これほども明るさが異なるのか、その原因は良くわかっていない。

この連星系の公転周期は約3.4年であるため、次の観測のチャンスは2014年3月頃になる。

注1:「Be星」 恒星はそのスペクトルのタイプによってO, B, A, F, …と分類されており、それぞれ表面温度の違いを表す。Be星はこのスペクトルタイプがBに該当するもので、特に水素の輝線が見えるものを表す。

注2:「パルサー」 大質量の恒星が燃え尽きて最後に残った中性子星のうち、非常に規則正しい周期でパルス状の電波などを発している天体を表す。