【インタビュー】映画「宇宙へ。」のリチャード・デイル監督

【2009年8月7日 アストロアーツ】

NASAドキュメンタリー映画「宇宙(そら)へ。」が8月21日に公開されます。アストロアーツニュース編集部は、公開に先立ち来日した監督 リチャード・デイル氏にインタビューする機会を得ました。この映画を作ったきっかけや、映画では何を描きたかったのかなど、興味深いお話を伺いました。


リチャード・デイル氏へのインタビュー内容

(「宇宙(そら)へ。」の監督 リチャード・デイル氏の画像)

「宇宙(そら)へ。」の監督 リチャード・デイル氏

− この映画の制作を決められたきっかけは何ですか。

最初は、宇宙をテーマにしたドキュメンタリーテレビ番組を手がけていました。それがきっかけで、すばらしい映像に出会いました。技術的に手を加えれれば、もっと高いレベルの映像になると確信し、長い時間をかけてNASAと交渉をして、やっと映画制作にこぎつけました。

今までは宇宙飛行士しか目にしたことがなかった映像を、ぜひ映画という形で一般の方々に見ていただきたかったのです。

− 本年は、世界天文年であり、NASA設立50周年、人類による月面着陸40周年という節目の年です。映像の公開は、この節目に合わせるようNASAから依頼があったのですか。

実は、アメリカのディスカバリーチャンネルのある責任者の方から、NASAの膨大な映像アーカイブを整理する仕事の依頼を受けたのです。NASAのアーカイブは、15年以上前から手付かずの状態で、映像も最新の形式に対応しておらず、私は、その形式変換の仕事を依頼されました。

ディスカバリーチャンネルは、“NASA's Legacy”(アストロアーツ訳:NASAの遺産プロジェクト)と銘打ち、アーカイブの整理を自費で実施したのです。それに携わったことで、映画にその映像を使うことができたのです。しかも、そのような節目に公開できるのは、実によいタイミングですね。

− もともと宇宙に対して興味はお持ちでしたか。

以前はそうでもありませんでしたが、もちろん今はとても興味があります。(監督は1枚の写真を取り出し)私が初めて見て驚いた写真は、このアポロ8号が撮影したものです。これは、当時もっとも地球から離れた場所で撮影された画像です。その際、宇宙飛行士は、目的地である月ではなく、地球しか目に入らなかったと聞いています。人類は、ハッブル宇宙望遠鏡を含め、いろいろな方法で遠くにある深い宇宙を調べれば調べるほど、地球そのものを知りたいと思うものなのですね。

− 演出上で、苦労または工夫された点、とくに表現したかったことはありますか。

この映画でお見せしたいのは、ロケットや宇宙ではなく、人です。人と言っても宇宙飛行士一人一人ではなく、私がつきつめたいのは人間です。リスクの高いミッションにどうして人々は旅立つのでしょうか。それは私たちが自分たち自身を探求したいから、それにつきると思うのです。

また、月面に立った宇宙飛行士の気持ちは、コロンブスがアメリカ大陸を発見したときやヒラリーがエベレスト登頂を果たしたときと同じなのだと思います。なぜ山に登るのかとの問いに「そこに山があるから」という有名な言葉がありますが、それが人間なのだと思います。命の危険を冒しても探求し続けることを描いたのがこの映画です。

− NASAや各国が月や火星に人を送り込む計画を進めていますが、人類に対する期待はありますか?

火星はとても遠く、行くのに18か月、帰ってくるのに18か月、滞在期間を含めると計4年近くかかります。長い旅ではさまざまなリスクやトラブルが懸念されます。しかし、アポロ11号の宇宙飛行士で、火星に行くことを唱導しているバズ・オルドリン氏によると、そういう考え方自体が間違っているというのです。たとえば「メイフラワー号」でアメリカやオーストラリアに旅立っ人々は、リスクやトラブルがあろうとも、二度と本国に戻らない、残してきた家族にも二度と会わない覚悟だったわけです。火星の有人探査が実施されるのは30年後かもしれませんが、そのときにもおそらく同じような考えでのぞむべきでしょう。

− 最後に日本の観客にメッセージをお願いいたします。

この映画のみならず、人類の宇宙開発は、これまでに人間が達成してきたことの中で、もっともすばらしいことです。その喜びを感じていただけたらと思います。

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