X線天文衛星「すざく」とXMM-Newton、中性子星の中身に迫る

【2007年8月31日 JAXANASA FEATURE

日本のX線天文衛星「すざく」とESAのX線観測衛星XMM-Newtonの観測により、中性子星の近傍における時空のゆがみが検出され、中性子星本体の大きさなどが求められた。両衛星の観測によって、中性子星の性質を調べる新たな方法が確立しようとしている。


(中性子星の回りを旋回する熱いガスからなる降着円盤の想像図)

中性子星の回りを旋回する熱いガスからなる降着円盤の想像図。クリックで拡大(提供:NASA/Dana Berry)

伴星の表面の物質が中性子星へと落下していくようすを表した想像図)

伴星の表面の物質が中性子星へと落下していくようすを表した想像図(提供:NASA)

中性子星(解説参照)は、太陽ほどの質量が半径およそ10キロメートルの中に押し込められている高密度の天体。極限まで圧力が高まった物体の状態を知るための重要な研究対象だ。

中性子星には、伴星からの物質が降り積もり、降着円盤が形成される。円盤の一番内側は光速の40パーセントの速度で渦巻いている。それは中性子星の強力な重力が生み出す極限的な状態であり、アインシュタインが提唱した一般相対論による「時空のゆがみ」も強く表れている。

こうした円盤内の環境を調べるのに役立つのが、超高温の鉄原子が発する、特定の波長のX線だ。時空のゆがみなどが作用することで、X線の波長はさまざまに変化するはずだ。結果として、観測されるのは特定の波長ではなく、ある程度広がったスペクトルのX線だ。そこから、中性子星の性質を読み解くことができる。

NASAのゴダード宇宙飛行センターのSudip Bhattacharyya氏とTod Strohmayer氏はXMM-Newtonを使い、26,000光年の距離にある中性子星とふつうの恒星の連星系である「へび座X-1」を観測した。

結果、幅の広いX線を発見した。Strohmayer氏は「同様のX線分布は多くのブラックホールで見られますが、中性子星でもこうした現象が起きているということが初めて確認できました。中性子星に質量が降り積もるようすは、ブラックホールの場合と大差はなく、やはりアインシュタインの理論を検証する手段となります」と話している。

また、ミシガン大学のEdward Cackett氏とJon Miller氏を中心とするグループは、「すざく」の優れたエネルギー測定能力を利用して、「へび座X-1」など3つの中性子星連星系の観測を行った。そして、すべての連星系から、XMM-Newtonの結果を強く支持する結果が得られた。

「わたしたちは中性子星の表面をこすらんばかりの位置にあるガスを見ているのです」とCackett氏は語る。中性子星自体は見えなくても、円盤の内側にせまることで半径の上限値を求められるのだ。その結果、中性子星の直径は最大29〜33キロメートルであることがわかった。

中性子星の大きさや質量を正確に知ることで、物理学者は中性子星の「状態」を正確に記述できる。「これは純然たる物理学です」とBhattacharyya氏は語る。「中性子星の内部には未知の粒子や物理状態があるかもしれませんが、いかんせん研究室では再現できません。中性子星そのものを理解するしかないのです」

中性子星ってどんな星?

太陽の質量の8〜30倍の星が超新星爆発を起こしてできるのが中性子星。直径20キロメートルほどの大きさに電気的に中性な中性子がギューッと押し固められている。爆発によって大部分が吹き飛んでしまって太陽の3倍ほどの質量になっていると考えられていて、角砂糖1個分で数億トンという超高密度になっている。

物質の基本である「原子」は、陽子と中性子でできた原子核と、そのまわりを回る電子でできているが、中性子星ではあまりにも巨大な重力のため内部は陽子と電子が結びついて中性子だけになってしまっている上に、中性子がギュウギュウ詰めの状態になっている。(宇宙のなぞ研究室Q.087 中性子星ってどんな星?より抜粋 [実際の紙面をご覧になれます])