わし星雲の「巨大な柱」は既に崩壊した?

【2007年1月17日 Spitzer News Room / JPL News Releases

赤外線天文衛星スピッツァーによる「わし星雲」の観測から、ハッブル宇宙望遠鏡の画像で有名な暗黒星雲の柱が、実は今この瞬間には存在してないことが示唆された。


(わし星雲M16の画像)

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した暗黒星雲の巨大な柱(提供:NASA, ESA, STScI, J. Hester and P. Scowen (Arizona State University))

NASAのハッブル宇宙望遠鏡が撮影した数ある天体画像の中でも、1995年に発表されたこの画像はもっとも有名なものの1つではないだろうか。これはへび座の方向約7000光年の距離にある散光星雲・M16(わし星雲)の中心部で、暗黒星雲がまるで柱のように浮かんでいるようすをとらえた画像だ。

7000光年離れているということは、今見ている柱は7000年前の姿だ。しかしながら、アメリカ天文学界の会合で発表された研究結果によれば、現在「現実の」柱はすでに崩れ去ってしまっているかもしれない。

もともと、この領域にはいつ超新星爆発を起こしても不思議ではない20個あまりの星が存在することが知られており、発破のように柱を崩壊させるのは時間の問題だと言われていた。だが、今回の研究によれば、すでに致命的な爆発が起きている。7000光年の距離を隔てている私たちから見ると衝撃波は進行中だが、実際には現在柱を吹き飛ばした後ではないかというのである。


(わし星雲M16の画像)

スピッツァーによるわし星雲・M16。拡大画像には「柱」の位置も示されている。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/N. Flagey (IAS/SSC) & A. Noriega-Crespo (SSC/Caltech))

研究チームはNASAの赤外線天文衛星スピッツァーを用いて複数の波長の赤外線でわし星雲を撮影した。画像は、それらを重ね合わせた疑似色画像だ。赤外線は暗黒星雲を見通すことができ、内部で育った恒星も見えている。

緑は比較的冷たいちりからの放射で、中央付近にはあの有名な3本柱も写っている。一方、赤は加熱されたちりからの放射だが、球殻状に広がっていることがわかる。研究チームによれば、この構造は爆発したばかりの超新星の周りに見える特徴的なものだということだ。広がりゆく衝撃波によってガスが加熱されているのである。

超新星は、地球では1000年か2000年前に観測されただろうと考えられる。現実には、8000年か9000年前だ。爆発から1000年あまり後の衝撃波が赤く写っている球殻だとすれば、さらに7000年たったころにはあの柱も吹き飛ばされていておかしくない。

われわれはいわば、遺跡の在りし日の姿、崩壊に向かおうとする前のようすを見ていることになる。ちなみに、暗黒星雲のかたまりからこの柱を「彫りだした」のも恒星だ。巨大な質量を持った若い星が、強力な恒星風と放射で周囲のガスとちりを吹き飛ばしてしまったことにより、柱が見えるようになったのである。この過程が、柱の内部で第2世代の恒星を誕生させたのだろう。第2世代の恒星は、スピッツァーの撮影した画像で透かされた柱の先端にも見える。

早ければ1000年後には柱が破壊されるようすが地球でも観測されるという。だがすべてが消えるわけではない。内部に宿っていた恒星を遮るものがなくなり、輝いて見えるだろう。また、柱の残骸からは第3世代の恒星が誕生する可能性もある。