「若き彫刻家たち」が造る、宇宙の造形美

【2005年11月18日 HubbleSite Newsdesk

この画像は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が撮影したあらゆる星形成領域の中でも、もっともダイナミックにして繊細な姿だ。舞台は21万年光年離れた、われわれのとなりの銀河である小マゼラン雲にある星団NGC 346。周囲の星雲がこれほどまでに複雑な形をしているのは、星団中の若くて高温な星によって削られたからだ。

(ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたNGC 346の画像)

ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたNGC 346の画像。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, and A. Nota (STScI/ESA))

天の川銀河の伴銀河と見られる大・小マゼラン雲では、数々の星形成領域が見つかっている。そこは若い星が周辺の環境とどのような相互作用を起こし、どう変えてしまうかを知りたい天文学者にとって格好のスポットで、HSTによって数々の観測がなされてきた。特に劇的な変化を起こすのは、若くて高温で青い、巨大質量星である。そして、小マゼラン雲で見つかっている巨大質量星の実に半分以上が、このNGC 346にあるのだ。

写真中央のNGC 346は少なくとも3つの集団に分かれていて、合計すると数十個もの巨大質量星が存在する。そこからは絶え間なく恒星風や強力な電磁波が発せられているので、かつてその恒星たちをはぐくんできたであろう星雲は吹き飛ばされてしまう。しかし、星の放射は無抵抗で外の世界に出て行くわけではなく、星雲の密度の大きい部分にぶつかる。星雲の外側にシルエットのように写っているのは、その衝突によって作り出された構造だ。ちりとガスの密度が特に大きかったところが、とばされずに取り残されている。星雲から見れば、急流に逆らう川藻のようだし、中心の恒星から見れば、やわらかい部分からひたすら削っていった彫刻作品みたいなものかもしれない。

もっとも、この舞台の登場人物は巨大質量星と周りの星雲だけではない。とりわけ天文学者が注目しているのは、まだ登場してないスターたちだ。すなわち、300〜500万年前に形成され、まだ核融合反応によって輝くほどに収縮していない星である。

こうした星はNGC 346の中のいたるところにあるようだ。中心の明るい星団を取り巻くように、いくつかのミニ星団が見られるが、中にはまだ星雲に取り囲まれ星形成が進んでいるものもある。また先ほど登場した、密度が大きいために吹き飛ばされずに残っている雲でも、星が生まれていると考えられる。新しく星が輝きだしたとき、この「作品」も大きく姿を変えることだろう。


小マゼラン雲: 局部銀河群のメンバー。南天のきょしちょう座にある不規則銀河で、私たちの銀河系の伴銀河と考えられる。大マゼラン雲と同じような棒構造が観測され、棒渦巻銀河に分類されることもある。大マゼラン雲とともに連銀河をなしていることは、両者の間がマゼラニック・ストリームと呼ばれる水素雲でつながっていることなどから証明されている。(「最新デジタル宇宙大百科」より)