すばる望遠鏡が発見、超巨大ブラックホールの隠された活動性〜可視光フレア〜

【2005年4月8日 国立天文台 アストロ・トピックス(92)

京都大学大学院理学研究科の戸谷友則(とたにとものり)助教授らのグループは、すばる望遠鏡を用いた時間変動する天体の大規模探索により、約40億光年の距離にある一見ごく普通の銀河の中心部分から、わずか数日間に大きく増光(フレア)する現象を発見しました。

(観測した領域(満月程度の大きさ)と6つの活動銀河の位置の画像) (活動銀河中心核の概念図)

(上)観測した領域(満月程度の大きさ)と6つの活動銀河の位置、(下)活動銀河中心核の概念図。ともにクリックで拡大(提供:戸谷友則(京都大学大学院理学研究科・助教授)による、記者発表資料ウェブサイト「超巨大ブラックホールに隠された激しい活動性と可視光フレアの発見」より)

この放射は、太陽質量の約1億倍という超巨大ブラックホールの周囲約10億キロメートルを光速に近い速度で回転するガス円盤から出ていると考えられます。これは私たちの銀河系中心に存在すると言われる太陽質量の約300万倍のブラックホールよりもはるかに大きく、そのようなブラックホールから可視光域の激しい活動現象が発見されたのは初めてのことです。どの銀河にも中心核に超巨大ブラックホールが普遍的に存在するという、現在主流となりつつある考えをさらに裏付ける結果といえます。

銀河の一部には、中心核に明るい点源状のものが見られ、活動銀河中心核と呼ばれます。このような銀河の中心には太陽100万個以上分の質量の超巨大ブラックホールが存在すると言われ、そこへ周囲からガスが落ち込む際に重力エネルギーが解放されることで明るく輝いたり、ジェットと呼ばれる噴水状のガス噴射が起きたりします。また、一般的に時間変動があり、中心核の明るさが変化します。

クエーサーは活動銀河中心核の一種で、母銀河に比べて中心核がはるかに明るく、ほとんど母銀河が見えないようなものを言います。活動銀河中心核は、その中心核が母銀河と同程度か、あるいはずっと明るいものが一般的で、よく調べられてきました。しかし、一見普通の銀河の中心にも同様に超巨大ブラックホールが隠されていて、現在は活動していないだけだと言われています。我々の銀河系の中心にも、太陽の約300万個分の質量の超巨大ブラックホールがあることがわかっています。

戸谷助教授らのグループは、ヘルクレス座の満月程度の領域を「すばる」で観測し、2003年5月5日の最初の基準観測、同年6月1日から4晩連続で、本観測を行い、本観測のデータから基準観測データを引くことで、6つの明るさが変化した変動天体(活動銀河中心核)を見つけました。

これらの銀河の距離はおよそ40億光年。我々の銀河系よりさらに大きな楕円銀河で、その中心には、太陽質量の約1億倍という超巨大ブラックホールが存在すると言われています。そのブラックホールにガスが回転しながら落ち込む時、重力エネルギーが光に転化します。ブラックホールの大きさはおよそ3億キロメートル。その付近では、回転速度は光速の約半分にも達し、その回転周期がちょうど半日ぐらいで、天体2の変動の時間スケールとほぼ一致します。我々は他にも様々な可能性を検討をした結果、この解釈がもっとも自然に今回の観測結果を説明できることを見出しました。

今回の発見でまずユニークなのは、一見普通に見える銀河の中心核の微弱な変動をすばるの高感度観測によって初めて捉えたことです。さらに、その変動はこれまでに研究されてきたクエーサーなどの中心核の明るい活動銀河中心核の時間変動に比べてずっと速いようです。このような一見普通の銀河の中心の激しい活動現象は、これまででは唯一、我々の銀河中心でX線や赤外線で発見されていますが、今回の発見は遠方の銀河のずっと大きなブラックホールからの変動であり、なおかつ可視光での現象です。

これらの結果は、一見普通に見える銀河には実は激しい活動性が隠されていたこと、そしてそうした普通の銀河にも超巨大ブラックホールが普遍的に存在していることを示唆します。

今回の成果は、アメリカ天文学会の学術誌、The Astrophysical Journal Lettersに掲載されています。また、2005年2月17日付けのNature誌のResearch Highlightsの中で紹介されています。