近赤外線で捉えた「光る」おおかみ座の暗黒星雲

【2003年2月10日 国立天文台天文ニュース(617)

名古屋大学・国立天文台を中心とする研究グループは、南天のおおかみ座にある暗黒星雲を、近赤外線で観測することで「光る」暗黒星雲として捉えることに成功しました。

(暗黒星雲の画像)

おおかみ座の暗黒星雲。左は可視光で撮影、右は3つの近赤外線で撮影したものを疑似カラー処理(提供:(左)アングロ・オーストラリア天文台、AURA(天文学研究大学連合)、(右)名古屋大学、国立天文台)

暗黒星雲とは、低温の塵やガスが濃く集まっている天体です。人間の目で見ることのできる可視光では、星雲に含まれる塵が背景の星の光をシャットアウトしてしまい、ぽっかりと穴の空いたシルエットとして見えます。ところが、近赤外線は可視光よりも波長が長く、ある程度濃い雲でも透過します。ですから、近赤外線で暗黒星雲を探ることにより、その内部や背後に隠されていて見えなかった天体が観測できるのです。

名古屋大学の佐藤修二(さとうしゅうじ)教授らを中心とするグループは、南アフリカ共和国のサザーランド観測所に口径1.4メートル反射望遠鏡を設置し、これに国立天文台と共同開発した近赤外線カメラSIRIUS(シリウス)を取り付けて、日本からは見えない南天の天体を観測しています。同グループの中島康(なかじまやすし)研究員らは、地球から約450光年ほど離れたおおかみ座の暗黒星雲に着目しました。もともと暗黒星雲は、星を生み出すゆりかごなのですが、このおおかみ座の暗黒星雲の周辺部では、通常とは比べものにならないほど若い星々がたくさん生まれています。そこで中島研究員らは、可視光線では見えない暗黒星雲の最も濃い部分を近赤外線で見てやれば、これから生まれる星の卵たちが、高い密度で集まっているかもしれないと期待したわけです。観測は2001年6月に行われましたが、その結果は、予想と大きく違うものでした。見つかった若い星はたったひとつしかなかった上、暗黒星雲がただ単に透けるだけではなく、「光って」見えたのです。これは背景の星々の光が暗黒星雲中に含まれる塵によって反射されたものであることがわかりました。非常に濃い暗黒星雲が、このように近赤外線で「『光る』暗黒星雲」として捉えられたのは初めてです。

この研究で、少なくともおおかみ座の暗黒星雲中には、予想以上に大きな塵があることがわかってきました。暗黒星雲の中の塵については、いままであまりよくわかっていませんでしたが、近赤外線カメラSIRIUSの活躍によって、その一端が解き明かされたといえるでしょう。ただ、どうして濃い部分には若い星が少なかったか、という新しい謎が増えたことも確かです。

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