見えはじめた火星

【2003年2月6日 国立天文台天文ニュース(616)

明け方、東の空に火星が見えはじめています。今年8月に地球に大接近を迎える火星ですが、まだまだ距離は遠く、明るさも1等星ほどに過ぎません。ですが、ちょうどさそり座のアンタレスと並んで、お互いの赤さを競うようにして輝いているのが楽しめます。もともと両方とも赤い天体ということもあって、アンタレスという名前も「火星の敵(アンチ・アレス)」という意味のギリシア語に由来しています。今後、火星はアンタレスを離れ、ゆっくりと地球に近づき、8月27日には5,576万キロメートルにまで大接近します。

火星は地球のすぐ外側を回る惑星ですが、その軌道が歪んだ楕円であるために、地球に近づくたびに接近距離が違ってきます。地球には約2年2か月毎に近づきますが、大まかにいえば、夏に接近するときにはその距離が小さい大接近となり、逆に冬には1億キロメートルも離れた小接近となります。

今回の火星の大接近は、とても良い条件です。接近距離が小さいため、火星が明るくなりますし、また火星のみかけの視直径が大きくなって、天体望遠鏡での表面の観察もしやすくなるからです。今回の大接近時には、火星の視直径が25秒を越えます。これほどの大接近は1世紀に1、2度の珍しいものです。前回に25秒を越える大接近は1924年8月22日(視直径25.10秒)でしたし、次は47年後の2050年8月15日(視直径25.02秒)までありません。また、それらの大接近の中でも、今回の場合、わずかの差ですが接近距離が小さく、視直径は25.11秒まで大きくなります。この値を超える大接近というのは、実はたいへん希有だったようで、前回は紀元前55,537年までさかのぼらなくてはなりません。一方、次回は284年後の2287年となります。

とはいえ、その視直径は25秒ほどですから、木星よりも小さいことには変わりありません(土星の本体と同じくらい)。大きな天体望遠鏡を用いたとしても、慣れた人でないと、なかなか模様を見ることはできないものです。また、衝になるのは8月31日で、この頃を過ぎて9月になると夜半前の見やすい時期に入ってきます。それまでは夜中にならないと東の空から昇ってこないので見るのは大変かもしれません。

その頃には、各地の公開天文台や天体観測施設などで火星を見るイベントも開催されると思います。そういう機会を利用するのも良いでしょう。いずれにしろ、これから夏休みに向かって、地球に近づき、明るくなってくる火星の姿を、今から追い続けるのも、よい自由研究のテーマかもしれません。

<参照>

<関連リンク>

<関連ニュース>


スペースシャトル・コロンビア号の事故につきまして、亡くなられた七名の宇宙飛行士とそのご家族の皆様に心から哀悼の意を申し上げます。