マイクロクエーサー V4641 Sgr の突発増光

【2002年5月23日 VSOLJニュース 090・加藤 太一(京大・理)氏】

V4641 Sgr はマイクロクエーサー (microquasar) と呼ばれる銀河系内のブラックホール連星です。この天体は 1999年 9月に巨大な可視光増光が発見され(VSOLJニュース 022参照; 当時は GM Sgr と呼ばれていましたが、その後の調査で古くから知られていた変光星 GM Sgr とは別の天体であることが明らかになり、V4641 Sgr の名称が付けられました)、その通報を受けて行われた緊急観測・調査によって「かに星雲」の12倍にも達する巨大な短時間のX線増光を示していたことや、高速のジェットを放出したことが観測されました。1999年イベントは以下のページにまとめられています。
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/Xray/gmsgr.html

この天体は、その後静穏状態における観測からブラックホールを持つ連星系であることが確認されています。推定される距離を用いると、ジェットの天空上のみかけの運動が光速の9.5倍(超光速運動: ジェットの速度が光速に近い場合、相対性理論の効果によってみかけの運動速度が光速を超えるように見える現象)と測定されており、銀河系内の天体で検出された中でこれまで最高速のジェットを放出したと考えられています。遠方の活動銀河核であるクエーサーにおける現象の類似性から、この天体が「マイクロクエーサー」と呼ばれている由縁です。1999年の現象はブラックホールに急激に物質が落ち込んだ現象が観測されたものと考えられています。

さて、この天体は1999年9月イベント以降は比較的静かでしたが、この 5月19日に11.5等に増光していることが、オーストラリアの Rod Stubbings によって発見されました。この通報を受けて緊急に行われた観測によって、可視光で数秒から数分のタイムスケールで0.4等近く激しく変動する姿が観測されています。観測者の一人は数秒の間にも驚くべき変動を起こしていて記録すらできないほどだ、と報告しています。この天体は20-30cmぐらいの望遠鏡で眼視的に捉えられる明るさですので、「ブラックホールの瞬き」を眼視的に捉えられる前例のない機会となるでしょう。大口径望遠鏡とビデオによる記録なども有効と思われます。

この天体はその後13等近くまで減光したりさらに11等台に再増光したりと、激しく変動を繰り返しています。1999年9月大イベントの約1週間前から同様の活動が観測されており、今回の現象が近々大きな爆発を起こす前兆である可能性が十分考えられます。1999年9月の時は可視光の最大光度は 8.8等を記録し、真の極大はさらに明るかった可能性すらあります。最大光度に達した後は時間のスケールで極めて急速に減光し、1日後にはほとんど平常に近づいてしまったという驚くべき現象でした。もし同様の現象が発生した場合、現象は地球上の限られた地点でしか観測できない可能性が高く、日本を含めたあらゆる経度での観測が重要です。ぜひ連続観測を試みてください。

情報は以下の VSNET ページに掲載されています。
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/vsnet/Xray/v4641sgr02.html