電波を放射する褐色わい星

【2001年3月29日 国立天文台天文ニュース (427)

褐色わい星は質量が不足のため恒星になりそこねた星です。一時期、多少の光を放った後は、温度が下がり、暗くなるだけで、いずれはその存在がほとんど認識できなくなると思われています。そのような褐色わい星のひとつのLP944-20から、電波の放射があることが確認されました。その電波強度はときどき急に強まり、数時間にわたり10倍以上にもなったそうです。

X線観測衛星チャンドラがこのLP944-20を観測していたところ、1999年12月15日にX線の強度が急に強まるX線フレアが観測されました。そこでM型わい星の調査をしていたカリフォルニア工科大学のバーガー(Berger,E.)たちは、ニューメキシコ州にある超大型干渉電波望遠鏡群(Very Large Array;VLA)を使って、4.9および8.5ギガヘルツの周波数で、そのX線フレアの位置を観測することにしました。まずわかったのは、そこからごく弱い(80マイクロジャンスキー程度)定常的な電波が観測されることでした。ところが、2000年8月27日、その強度が急に2ミリジャンスキーに強まったのです。この変化は1時間程度で終わって、その後電波強度は通常のレベルに戻りました。しかし、その後9月までに数回、同様の電波強度の急激な上昇が観測されたのです。

変化が少ないと思われていた褐色わい星に、どうしてこのような急激な変化が起こったのでしょうか。LP944-20は通常の褐色わい星に比べて、何か本質的な違いがあるのでしょうか。バーガーたちは、一般の褐色わい星に比べてLP944-20は磁場が弱く、シンクロトロン放射をする電子の寿命が長いためではないかという考えを述べていますが、確定的なものではありません。褐色わい星に新たな謎が生まれたのです。

LP944-20は「ろ座」の隅、「エリダヌス座」境界に近いところにあり、赤外等級が14等という暗い星です。1975年にリュイテン(Luyten,W.J.)たちが固有運動の大きい星として初めて観測し、その後ティネイ(Tinney,C.G.)たちが精力的に観測して褐色わい星であることを明らかにしました。15光年ほど離れた太陽にごく近いところにある星です。

参照

  • Berger,E. et al., Nature 410, p.338-340(2001).
  • Benz,A.O., Nature 410, p.310-311(2001).

訂正

天文ニュース(426)で、星の角直径を、車のヘッドライトを3500キロメートル離れたところから見た角と説明しました。この距離は3万5000キロメートルの誤りでした。

お詫びして訂正すると共に、ご指摘をいただいた方に感謝いたします。