ブラックホールの証=事象の地平が存在する強い証拠が得られる

【2001年1月12日】

NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」と「ハッブル宇宙望遠鏡 (HST)」による観測から、それぞれ独立に「事象の地平」が存在する強い証拠が得られた。事象の地平とは、ブラックホールの内部と外部を分ける境界面のことであり、その面より内側に入った場合、光さえも抜け出せなくなる。とくにHSTによる観測では、事象の地平の存在をひじょうに直接的にとらえることに成功している。

チャンドラなどによる成果

X線新星

図1: ブラックホールによるX線新星(左)と中性子星によるX線新星(右)
Credit: CXC/M.Weiss

チャンドラやROSATなどのX線観測衛星を用いた研究チームでは、「X線新星」と呼ばれる現象を1ダースほど調べた。X線新星現象を起こす星系は、ブラックホールまたは中性子星と、通常の恒星との連星系であると考えられており、普段はほとんどX線を出さないが、通常の恒星から放出されたガスがブラックホールや中性子星に降り注いだときに突如強いX線を放つ。

研究の結果、ブラックホールを含むと考えられる星系でのX線新星現象は、中性子星を含むと考えられる星系でのX線新星に比べると、わずか1%程度のエネルギーしか放っていないということが判明した。

中性子星にガスが降り注いだ場合、ガスがその表面にぶつかった際に強いX線放射が放たれる。これに対し、ブラックホールにガスが降り注いだ場合、ガスが渦巻きながら急加速される際に摩擦によりある程度のX線が放たれるが、ガスが事象の地平を通過してしまうともう放射は観測できなくなる。このことから、チャンドラなどを用いた研究チームが得た結果は、事象の地平が存在する強い証拠であると考えられる。


HSTによる成果

ブラックホールに落ち込むガス塊から発せられるパルス列

図2: ブラックホールに落ち込むガス塊から発せられるパルス列 (クリックで拡大)
Credit: Ann Feild (STScI)

そして、HSTを用いたチームでは、早くからブラックホールの候補天体として注目されてきたことで有名な「はくちょう座XR-1」(太陽系から約6,000光年) の明るさの変化を、高速測光器HSPを用いて紫外線でモニターした。その結果、ガスの小さな塊が螺旋を描きながらブラックホールに落ち込む際に見られる特徴的なパルス列を2回観測することに成功した。

この現象は、「死へのパルス列 (dying pulse train)」と呼ばれるもので、図2に示されるものだ。

図2の解説:

  1. ガスの小さな塊がブラックホールを取り巻く降着円盤から離れ、中心へ向かってらせんを描きながら落ち込み始める。
  2. ガス塊がブラックホールの事象の地平の向こう側に周りこんだため、暗くなる。
  3. ガス塊が手前に戻ってくるため再び明るくなるが、より内側に入りこんでしまっているため、重力による赤方偏移の影響をより大きく受けて少し暗いピークのパルスとなる。
  4. (2)と(3)を繰り返しながら暗くなってゆく。また、内側に行くにつれてらせん運動の角速度が増すため、パルスの間隔がだんだん短くなってゆく。そして、最終的には事象の地平を越え、観測できなくなる。

HSTが観測した2つのパルス列は、1つは6つのパルスから成り、もう1つは7つのパルスから成るもので、ともにこの説明によく整合するものであった。