最遠の銀河の発表は誤り

【2000年12月7日 国立天文台天文ニュース (398)

ニューヨーク州立大学のチェン(Chen,H.-W.)たちは、昨年、赤方偏移z=6.68に達する銀河の発見を報告し、これは知られている最遠の銀河と考えられました。 しかし、その後の観測によると、この赤方偏移の数値は誤りらしく、最遠の銀河ではなかったようです。

 チェンたちは、ハッブル宇宙望遠鏡による1997年12月の観測で、「おおぐま座」の北端に、赤方偏移z=6.68に達する銀河を検出したことを1999年4月に発表しました。 赤方偏移zというのは、ドップラー効果により光の本来の波長が(1+z)倍に伸びて観測される状態であることを意味します。 つまり、zが大きいほど光源天体の遠ざかる速度が大きく、その天体が遠方にあることを示します。 もし、z=6.68の報告が正しいとすると、この銀河は光速の96.7パーセントの速さで遠ざかっていることに対応し、ざっと130億光年もの遠方にあることになります。 この遠い銀河は、STIS123627+621755と呼ばれます。 STISは観測装置のSpace Telescope Imaging Spectrographの頭文字で、続く数字はその天体の赤経、赤緯を表しています。

 これに対し、ジェット推進研究所のスターン(Stern,D.)たちは、自分たちの観測に基づき、この赤方偏移が誤りであると述べています。 1998年から2000年にかけて、スターンたちは、口径10メートルのケック望遠鏡を使って、STIS123627+621755の観測を何度も試みました。 その結果、この天体は、Rバンド(720ナノメートル付近)の波長ではかなり明るいのに、Jバンド(1200ナノメートル付近)ではまったく観測できないことが確認されました。 これは、チェンたちが発表していたエネルギー分布と合わず、z > 6の銀河の特性とも矛盾します。 ここからスターンたちは、この銀河の赤方偏移z > 6は誤りであると結論したのです。 それでは、これはどんな天体でしょうか。 確実なことはわかりませんが、スターンたちは、z=1.5程度で、酸素の禁制線[OII]を放射している暗い銀河なら、一応観測結果に合うのではないかと述べています。

 チエンたちも、この結論を受け入れ、この天体の赤方偏移は未確定のままであると解釈を変更しました。 そのスペクトルのエネルギー分布は特異で、銀河にしても星にしても解釈が難しいと述べています。 いずれにしても、この最遠の銀河発見のニュースは、残念ながら幻に終わったようです。

参照

  • Chen,Hsiao-Wen et al., Nature 398,p.586-588(1999).
  • Stern,D. etal., Nature 408,p.560-562.(2000).
  • Chen,Hsiao-Wen et al., Nature 408,p.562-564(2000).