反物質エンジンが数十年以内に実現?

【2000年10月31日 Bostobe Globe Online (2000.10.25)

NASAの研究チームが、反物質エンジンは数十年以内に実現できるとする論文を『Journal of Propulsion and Power』誌に発表した。これは、宇宙探査の究極の目的である恒星間航行の実現に向けた重要な一歩である。

反物質とは通常の物質と接触した際に対消滅を起こして莫大なエネルギーを放出するもので、わずか1グラムの反物質の対消滅により、スペースシャトルの外部燃料タンク23個分に相当するエネルギーが得られる。アメリカのフェルミ国立研究所(FERMILAB)やヨーロッパ粒子物理学研究所(CERN)といった研究機関が生成に成功しているが、両機関がこれまでに生成した反物質の質量は計10ナノグラム (ナノグラム=10億分の1グラム) でしかない。これまでのコストをもとにすると、生成に必要な資金は現在のところ1グラムあたりおよそ6400兆ドル (約70京円) にも達する。

しかし、NASAのチームが今回発表した手法では、質量100キログラムの深宇宙探査機を50年間加速させつづけるために必要な反物質の質量はわずか100マイクログラム (1マイクログラム=100万分の1グラム) で済むため、実現の可能性が一気に高まった。

研究チームの一員で、NASAとアメリカ空軍のための反物質の応用研究を専門とするコンサルティング会社・Synergistic Technologiesの創設者であるGerald Smith氏によると、「反物質推進に必要な資産はこれまでの見積もりにくらべてはるかに少なくて済むのです」とのこと。論文は、「反物質の宇宙探査利用への見通しは結局それほど非現実的なものではなく、それどころかひじょうに現実的なのかもしれない」と結論している。

現在のところこの手法はコンピュータ・シミュレーションにより検証された段階であり、今のところは充分な反物質が得られないため、実際の実験はまだ行なわれていない。

反物質エンジンを搭載した探査機による宇宙探査を実現させるには、年間100マイクログラム程度の反物質生成が必要となる。そのためには、反物質の貯蔵や運搬などを含むひじょうに多岐な技術的問題を解決し、反物質生成のための新施設の建築も必要となる。Smith氏の見積もりによると、反物質生成施設の建築に必要な資金は200億ドル(約2兆2000億円)程度という。

現在64歳のSmith氏は、「私が生きている間に反物質推進の深宇宙探査機を実現させたい」と夢を語った。その無人探査機はその反物質エンジンからオレンジ色のプラズマを噴き出しながら、冥王星を超え、そして人類未踏の宇宙へと航海していくのだ。

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