太陽観測衛星TRACEがとらえたコロナ・ループ

【2000年9月28日 NASA (2000.9.26)

太陽観測衛星TRACEがとらえたコロナ・ループ

太陽観測衛星TRACEがとらえたコロナ・ループ。地球の大きさとの比較画像

太陽観測衛星TRACEがとらえたコロナ・ループ

キャプション: NASAの太陽観測衛星「TRACE」がとらえた太陽のコロナ・ループ(coronal loop)。これは、太陽コロナの低層部に磁力線に沿って形成される巨大なアーチ状のガスの流れで、高さは最大で30万マイル(約48万キロメートル)以上に達する。中央の画像には大きさの比較のため地球が書きこんである。高解像度画像は上記リンクを参照。

「TRACE(Transition Region and Coronal Explorer=遷移領域およびコロナ観測衛星)」は、NASAの小型観測衛星で、1998年4月2日に「ペガサスXL」ロケットにより打ち上げられた。打ち上げ時重量は213キログラム。口径30センチメートル、焦点距離8.66メートルのカセグレン式望遠鏡とCCDカメラを搭載しており、太陽の遷移領域や太陽コロナを紫外線で高解像度観測している。

コロナとは、太陽の表面である光球の外部に大きく広がる電離した高温ガスの層だ。皆既日食の際には、太陽直径の数倍にもわたって淡く輝く幻想的なその姿が肉眼でも観測できる。温度は200万Kにも達し、これは光球の温度(約6000K)の約300倍である。そして遷移領域は、太陽表面とコロナの境界部分のことだ。

このコロナで発生するコロナ質量放出(Coronal Mass Ejection; CME)と呼ばれる現象は、地球軌道上の人工衛星や、さらには地球の送電線などにも障害をあたえることがあるため、コロナの研究は重要である。また、太陽のコロナの研究から、太陽以外の恒星についてもより良い理解が得られることが期待される。

『Astrophysical Journal』誌で発表される論文の主執筆者であるMarkus Aschwanden博士(ロッキード・マーティン太陽および宇宙物理研究室; LMSAL)はこう話している。

「コロナを超高温に熱するエネルギー源は、70年以上前からの謎です。私たちは、そのエネルギー源が何であるかを突き止める前に、まずはそれがどこにあるかを探る必要があります。コロナがどこで加熱されているかを突き止めることは、このパズルを解くための重要な鍵なのです。TRACEのような太陽観測機により恒星大気での隠された現象の解明が可能になったことに興奮しています。」

TRACEによる高解像度観測により、コロナの加熱はほとんど光球からおよそ1万マイル(約1万6000キロメートル)以内の低層部から生じるコロナ・ループでおこっていることが判明した。コロナ・ループは磁力線に沿った巨大なアーチ状のガスの流れであり、太陽表面は数百万個のコロナ・ループで包まれている。TRACEによる観測では、コロナ・ループの根元でガスが太陽表面から加熱されつつ上昇し、やがて冷えて落下し、太陽表面に毎秒60マイル(毎秒およそ9.6キロメートル)以上の速度で激突するようすが初めて確認された。30年前からの理論では、コロナ・ループのガスはコロナ・ループの上部で加熱されるとされてきたが、このTRACEによる観測結果はそれを覆すものであった。

また、これまではひとつの塊であると思われていたコロナ・ループの太い流れが、じつは多数の細い流れの集まりであることも初めて確認された。

Credits: NASA / ゴダード宇宙飛行センター

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