宇宙探査機ディープ・スペース1、順調に飛行中

【2000年8月16日 NASA JPL (2000/8/15)

1998年10月24日にフロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地から打ち上げられた宇宙探査機「ディープ・スペース1 (Deep Space 1; DS1)」は、今も順調に飛行中で、エンジンの噴射時間はこれまでに約200日間(4,800時間)にも達した。これは、宇宙での推進機関の稼働時間の新記録だ。

DS1は、将来の惑星探査計画で必要な新技術をテストする、NASAの「ニュー・ミレニアム計画(New Millennium Program)」による最初の探査機で、深宇宙探査のための12種の新技術を試験することがその目的。最大の特徴は、宇宙探査機として初めて、イオン推進方式の主エンジンを採用していることだ。1970年に打ち上げられたNASAの「宇宙電気ロケットテスト2号(Space Electric Rocket Test 2)」のイオン・エンジンは、約161日間の噴射を行ない、ディープ・スペース1に抜かれる前はこれが宇宙での推進機関の稼働時間の記録だった。

DS1のエンジンは、キセノンのイオンを電気的に加速し、時速10万9000kmという高速で噴射することにより推力を得るもので、推進剤の質量と得られる推力の比で比較すれば、従来の固体燃料ロケットエンジンや液体燃料ロケットエンジンより約10倍も効率が良いため、探査機に搭載する推進剤の質量はわずかですむ。時間あたりの推力はわずかだが、ひじょうに長時間継続して噴射することにより、最終的には従来のロケットを利用した場合よりずっと速い速度まで加速できる。DS1には81.5kg(打ち上げ時)のキセノンが搭載されており、エンジンを連続噴射した場合に消費するキセノンの質量は、1日間あたりわずか100g程度。

DS1は、1999年7月29日には「小惑星(9969)ブライユ」を接近観測した。当初は1999年9月でミッション終了の予定だったが、ミッションは延長され、今は2001年9月のにはボレリ彗星(19P/Borrelly)に接近して観測する予定となっており、その観測を最後に任務を終えることになる。エンジン噴射時間はそれまでに、計583日間(1万4,000時間)程度に達する見込みだ。

なお、DS1が延長ミッションに突入してからしばらくして、星を目印にして自動的に航行制御を行なうシステムが機能停止に陥るという危機が訪れた。しかし、NASAのエンジニアたちはあきらめることなく、探査機に搭載されたカメラにより航行制御を行なうソフトウェアを新たに開発して探査機に送り、探査機を救済することに成功した。DS1が地球から3億2100万kmの距離にあったときの出来事だった。