XMM-ニュートン、6重連星「カストル」を観測

【2000年6月26日 ESA Science News (2000/6/19)

XMM-ニュートンがとらえたカストル星系

XMM-ニュートンがとらえたカストル星系

「カストル」は、「ふたご座」で「ポルックス」に次いで明るい星。肉眼では1.6等の明るさのごく普通の星に見える。しかし、実は3組の連星からなる6重連星であり、1.6等という明るさは、それらを総合した明るさだ。

まず、2つの高温・青白色のA型星があり、お互いの周りを467日周期で回っている。これらは3.9秒角(1秒角=1/3600度)離れており、アマチュアの望遠鏡でも2つの星として確認できる。それらの少し南には、低温・赤色のM型矮星「YY Gem」があり、この星は頻繁にフレア・アウトバーストを起こすことで観測者を魅了してきた。そして、これら3つの星は実はそれぞれ連星なのだ。

2つのA型星のうち明るい方は、暗く直接観測不能な矮星を従えている。この矮星は、離心率の大きな軌道を持つ。もう一方のA型星も似たような星を従えているが、こちらは円軌道を持つ。YY Gemは2つのM型矮星からなり、19時間周期でお互いの周りを回っている。YY Gemは9.5時間ごとに地球からの視線方向上に一直線に並び、このとき奥に位置するM型矮星は、手前のM型矮星にほぼ完全に隠される。

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線宇宙望遠鏡「XMM-ニュートン」が、4月25日にこのカストル連星系を観測した結果、これらはX線領域においても非常に明るく輝いていることがわかった。XMMは機器の調節の目的で、この6重連星をまる1日にわたって観測した。使用された観測機器は、3基のEPICカメラ(ヨーロッパ光子撮像カメラ)と、2基のRGS(反射回折格子分光計)。XMMは現在、本格運用開始に備え、各機器の最終調整の段階にある。

EPIC-MOS1(低エネルギーX線撮像用)による画像では、2つのA型星の位置に明るいX線放射がとらえられた。これにより、2組の連星それぞれがX線源であることが確認された。これ以前の、X線観測衛星「ROSAT」による観測では、X線源は2つに分離することができず、可視光で明るい方のみがX線源だろうと推測された。また、1994年にManuel Guedel(XMMのRGSのチームメンバーの一人)が電波により観測した結果、両方が電波源であることがわかり、したがって両方ともX線源でもあるだろうと推測された。今回のXMMの観測により、後者が正しいことが明瞭に確認された。

RGSによる観測では、1回の観測で2つのA型恒星とYY Gemのスペクトルを分離して得ることができた。Guedel氏によると、「2つのA型恒星とYY Gemのスペクトルは実に大きく異なる。スペクトル輝線の強さの比率の違いは、温度や元素組成の違いを示す。」という。

また、XMMの前代未聞の集光力と、RGSの優れた分解能により、この星系の場合は、スペクトル分析により100km/sの精度で運動速度を測定することもできる。

なお、25時間に渡るEPICカメラによる観測により、3つのX線源それぞれの明るさがゆらいでいることがわかった。これは、3組の連星それぞれがフレアを起こす天体であるということを示唆する。フレアは恒星における大規模なエネルギー放出現象。特に、2つのA型星のフレア発生頻度はひじょうに驚くべきもので、今回の観測中にこれらからの放射が安定したことは無かった。このことから、これらからのX線放射のほとんどがフレアに由来するものなのかもしれない。

「私達は、1回の観測でカストル星系の実に多くのデータを取得できたことを、本当に喜んでいる。今回の観測は、この時間解像度にも優れた高解像度X線分光器の可能性を見せてくれる、美しい一例だ。」とGuedel氏は語った。なお、カストル星系は、XMMの調整が完全に済んだ後に追って観測されることになっている。そのときには、より多くのことがわかるだろう。


画像提供:  ESA