ハッブル宇宙望遠鏡がとらえたかに星雲 (HST)

【2000年6月2日 STScI-PRC00-15 (2000/06/01)

NASAは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)がとらえたかに星雲の中心部の画像を公開した。

ハッブル宇宙望遠鏡が捉えたM1かに星雲の中心部

1054年7月4日、「おうし座」に驚異的に明るい星が新たに出現したことを、当時の中国人や日本人が記録している。それらの記録によると、その星は出現から数週間は、昼間でも確認できたという。これは太陽の10倍程度の質量の恒星が、その生涯を終えた際の爆発現象(超新星爆発)で、その残骸は今「かに星雲 (M1 / NGC1952)」として知られ、双眼鏡や望遠鏡を用いれば見ることができる。地球からは6,500光年ほどの距離にある。

上は、今回NASAが公開した、ハッブル望遠鏡(HST)によるカニ星雲の中心部。1995年にHSTの広視野/惑星カメラ2により、5種類のカラーフィルターを用いて撮像されていた画像を合成し、この新たな合成カラー画像を得た。

爆発後も恒星の核の部分だけは中性子星となって残り、その中性子星はこの画像では、中央やや左上にある上下に並んだ2つの明るめの星のうち、下寄りの星である。この中性子星は一秒間に30回自転しており、地球からは30分の1秒の周期でこの中性子星からの電波やX線が観測され、「かにパルサー」として有名である。この中性子星からの放射は近辺のガスを熱しており、画像では熱されたガスがぼんやりと青緑色に輝いているのがわかる。特に、中性子星のすぐ右に見える弧状の輝きはわかりやすい。

一面に広がる色鮮やかなフィラメント状のガスは、かつての恒星の外層部の名残りだ。爆発時に放出され、今も時速480万km以上の速度で、中性子星から外に向かって広がりつつある。画像下部に見られる黄緑色のフィラメントは、中性子星より手前にあり、地球に接近しつつある。また、画像上部に多いオレンジやピンクのフィラメントは、中性子星より奥にあり、地球から遠ざかりつつある。

画像に見られる多種多様の色は、化学組成の違いによる。例えば、水素(オレンジ)、窒素(赤)、硫黄(ピンク)、酸素(緑)などだ。また、輝きの強さは、ガスの温度や密度などを反映しているが、同時に、元素構成の変化なども反映している。これらのさまざまな元素のうちいくらかは、かつてここで輝いていた恒星の、進化の過程や、超新星爆発の瞬間に新たに合成されたものだ。これらの物質は、やがては新たな恒星や惑星の原料となるのだろう。我々の地球や、そして我々の体を形作るさまざまな元素も、何十億年も前に生涯を終えた恒星の名残りなのだ。

画像提供: NASA / ハッブル・ヘリテージ・チーム(STScI/AURA)