NASA、これまでの火星探査の問題調査の最終報告を発表

【2000年3月29日 FLORIDA TODAY Space Online (2000/3/29)

NASAは3月28日、これまでの火星探査における問題調査の最終報告を発表した。

それによると、昨年12月に失われた火星探査機「マーズ・ポーラー・ランダー(Mars Poler Lander, MPL)」の失敗原因としては、着陸制動エンジンのカットが早すぎ、40m落下して地上に激突したという失敗シナリオ(関連ニュース「MPLの失敗は単純な設計ミス?」参照)が最も有力のようだ。

報告はまた、NASAの火星探査計画は不備だらけで、さらなる損失を防ぐための再構成が必要であるとしている。

「あまりにも多くのことが省略されてしまっている。」18人の航空宇宙専門家により構成され、NASAの火星探査計画における成功・失敗を評価した調査委員会はこう結論している。

ロッキード社の元重役であるトーマス・ヤング氏をリーダーとする調査委員会の報告の要点は次の通り。

  • マーズ・ポーラー・ランダー(MPL)およびその姉妹機のマーズ・クライメート・オービター(Mars Climate Orbiter, MCO)計画は、約30%も資金不足であった。
  • 計画は、有能だが経験不足の管理職によって運営されていた。
  • NASA本部、ジェット推進研究所(JPL)およびロッキード宇宙航行社(Lockheed Martin Astronautics)の古参管理職たちは、後輩管理職に適切な監督法を習得させることに失敗していた。
  • MPLが、大気圏突入・降下・着陸における状態を常に地球に送るような装置を欠いていたことは、大きな設計ミスであった。
  • MPLから投下され、自由落下して火星の表土に食い込むように設計されていた2機の小型探査機(ディープ・スペース2)は、設計がいいかげんな上、充分なテストも行われておらず、全く打ち上げ準備が整っていない状態であった。したがって、打ち上げるべきではなかった。
  • 政府および民間のチームは、ミッション成功のために最善を尽くしており、ときには週に60時間〜80時間程度も働いていた。

「人員が不足していたのだ。そして充分な資金も、時間も無かったのだ。」ヤング氏は言っている。

ヤング氏によると、ロッキード宇宙航行社のいくらかの職員は、一人の同僚も与えられずにたった一人で働いており、したがって自分のやった仕事を他人に評価してもらうことすらできなかったという。

今回の「ヤング報告」は、一連のNASAに関する問題調査の最新のものだ。

NASAの関係者らは火星探査計画における至らない点を認め、改善を誓った。

「NASAは今回の失敗から学び、新たな火星探査計画に役立てる。」NASAの宇宙科学次官であるエド・ワイラー(Ed Weiler)氏は言っている。

そしてワイラー氏によると

  • NASAは現在開発中の2001年予定の火星着陸機を中止し、その資産はさらに先の火星探査計画に役立てる。
  • NASAは新しい火星探査計画においてははじめから監査委員会を設け、新たにNASA本部に火星計画室を設置し、そこであらゆる火星探査計画の活動を調整することになる。
  • NASAのあらゆる火星探査計画の再評価の影響により、2005年および2008年予定の火星の土を地球に持ちかえる計画は遅れることになるだろう。
  • NASAは火星探査を続け、そこにかつて生命が存在したのか、そして今も存在しているのかという謎を追い求める。

「それを達成するための大きな道は、水を発見することだ。これは5〜6年単位の計画ではない。10年にもわたる計画なのだ。」ワイラー氏は語った。

NASAの長官であるダン・ゴールディン(Dan Goldin)氏は、調査委員会による発見や勧告に歓迎の意を表した。

「彼らは成功・失敗した全ての火星計画について厳正な調査を行い、深宇宙探査という信じられないほど入り組んだ試みの隅々にまでサーチライトを投げかけてくれたのだ。」ゴールディン氏は語った。

ヤングのチーム、ジョン・カッシーニ(元JPLプロジェクト・マネージャー)のチームによる調査ともに、MPLや、搭載されていた2機のディープ・スペース2小型探査機に何が起こったのかを最終的に結論付けることは出来なかった。

時間と資金の節約のため、MPLは火星への降下をはじめたら、着陸に成功するまでは地球との交信が出来ないような設計になっていた。そしてこれは重大な設計ミスであったとヤングのチームは結論している。

しかしながら両チーム共に、MPLの最も有力な失敗原因しては、着陸脚につけられた接地感知スイッチが上空で誤って反応してしまい、コンピュータが接地を誤認したため、着陸制動噴射が上空でカットされてしまったというシナリオ(関連ニュース「MPLの失敗は単純な設計ミス?」参照)を挙げている。

この問題は、ロッキード宇宙航行社が2001年予定の火星着陸機をテストしていたときに発見された。これがヤングのチームに通知され、更なるテストが実施された。

この問題は、MPLの航法コンピュータに改訂したコマンドを送ることで回避できたかもしれないが、発見されたときにはすでに遅すぎた。

MPLが失われたのは1999年12月3日だが、この問題が発見されたのは2000年1月下旬〜2月初めにかけてであったのだ。

ヤングによると、彼のチームが発見した問題は新技術や先端科学に関わるものではなかったという。

「ミスは、彼らの自信過剰から起こったものだ。」とヤングは言っている。

ヤングの報告によると、打ち上げ前のテストにより接地の誤認という問題は発見できたかもしれないが、実際行われたテストのときには着陸脚の設置感知スイッチの配線が間違っていたため、問題が発見できなかったという。

ワイラーは、「より早く、より良く、より安く」というNASAの新しい方針が一連の失敗に関わる様々な出来事を助長した可能性が高いことを認めた。

「もう少し資金をかければ、成功していたかもしれない」ワイラーは語った。

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