「空飛ぶ船」から宇宙機を打ち上げるシステム?

【2000年3月24日 New Scientist Magagine 2000/3/25号より

ロシアと日本の宇宙科学者たちが、いつの日か巨大な高速の表面効果翼船から宇宙機を水平発射する新打ち上げシステムが実現するかもしれないと言っている。

表面効果翼船とは、地表すれすれを運動する巨大で平らな物体の下にできる「空気のクッション」を利用して揚力を得る「表面効果翼(ground effect wing)」持ち、海上数メートルを飛行する、船と飛行機の中間的な性格を持つ研究中の新しい乗り物で、空気抵抗が小さく燃料効率が良い。ロシア語では「エクラノプラン(ekranoplan)」と呼ばれる。新システムは、1,500トン級の大型エクラノプランをジェットエンジンにより時速600km(マッハ0.5)まで加速した後、背中に乗せられた宇宙機のロケットエンジンに点火、切り離し、そして宇宙機は時速966kmという脱出速度に達するまで上昇を続けるというもの。

米国セント・ピーターバーグにある国際先端航空宇宙技術協会(International Institute for Advanced Aerospace Technology)の会長Alexander Nebylov氏によると、このシステムの一番のポイントは、高速な初速が得られることだという。スペースシャトルのような垂直打ち上げ方式の場合、ロケット燃料のほとんどは、残存燃料の重量を持ち上げるために浪費されてしまう。新システムの場合、エクラノプランによる高速な初速が得られ、それにより空気力学的な力も利用することができるため、スペースシャトルのような外部大型燃料タンクや補助ブースター・ロケットを必要としない。ただし、宇宙機自身には、同じ宇宙機を垂直打ち上げする場合に比べて多少多くの内蔵燃料を搭載する必要はあるが、総合的に見ると安上がりになる。

また、新システムでは、発射直後に異常が発生した場合に、緊急着陸を行うこともできる。着陸は、海上を疾走するエクラノプランとのドッキングという方式をとる。緊急着陸では、宇宙機を切り離し後も海上を疾走しつづけているエクラノプランに着陸すれば良い。また、この方式では着陸脚を必要としないため、その分だけ多目の燃料を搭載することができるという利点もある。

Nebylov氏および武蔵工業大学の富田久雄教授は来年、実機のスケールダウン版である400トン級エクラノプランによる海上飛行実験を計画している。

Nebylov氏は、「この方式なら地球上のどこからでも打ち上げが可能だ。このことは必要な軌道を達成するために非常に重要だ」と語っている。宇宙機の打ち上げは、赤道に近い地点から行えれば有利だ。それは、赤道付近の大きな遠心力を利用することができるからである。

しかし、サセックス大学で磁気浮遊を利用した水平発射打ち上げシステムを研究しているJay Jayawantは、「そんな速度で安定性を保てるはずがない」と疑問を投げかけている。

だが、Nebylov氏によると、エクラノプランの巨大さは安定性を得るためでもあるという。計画中のエクラノプランは、ロシアが冷戦時代に建設した巨大軍用エクラノプラン「カスピアン・シー・モンスター」よりも3倍も大きい。そして、波高が5mに達するような場合でも宇宙機の離床速度にまで加速することができる。

(元記事で想像図が入手可能)

<参考リンク> 表面効果翼艇の概略 (鳥取大学工学部応用数理工学科、日本語/英語)