チャンドラがX線背景放射の正体を確認

【2000年1月27日 (Chandra Press Room, 2000/1/13)

発見から40年近くもの長い間謎とされていたX線背景放射の正体が、今回X線観測衛星チャンドラによる観測で明らかになった。

チャンドラが捕らえたX線背景放射源

このチャンドラによるX線画像はりょうけん座の方角にあるX線背景放射源を撮像したもので、3ダースほどのX線源が映し出されている。これらのうちいくつかは非常に微弱なもので、ハッブル宇宙望遠鏡やハワイのケック10メートル望遠鏡のような光学望遠鏡では検出できない。また、これらの天体はこれまで検出された中で最遠のものである可能性があるという。

X線背景放射(X-ray background glow)と呼ばれる現象は、X線天文学の黎明期である1960年代初期にはすでに知られていた。X線は地球大気を貫通できないため、地上では観測できない。1962年になって初めてごく単純なX線望遠鏡がロケットで短期間宇宙に上げられたが、X線背景放射はそのときに発見された。その放射は宇宙のあらゆる方角から均一に分布しているため、科学者たちははじめ、その放射源は銀河間に分布する超高温ガスであろうと推測した。

しかし、90年代半ばになってより進んだX線望遠鏡が打ち上げられるようになると、その放射の少なくとも3分の1は活動銀河核(active galactic nuclei, AGN)と呼ばれる天体からのものであるということが判明した。AGNはわれわれの太陽の1億倍もの質量のブラックホールを含む銀河であり、ブラックホールがその周辺のガスを光速に近い速度まで加速しつつ吸収するときに、強烈なX線を放出する。だが、残りの3分の2のより弱い放射源の正体は謎のままであった。

そして今、これまでになく高い解像力と感度をもつチャンドラにより謎であった残りの3分の2の放射源の正体が確認され、これによりようやくすべてのX線背景放射源の正体がつきとめられたことになる。そしてそれらは初めに考えられていたような高温ガスではなかった。

今回、チャンドラの観測チームは、満月の4分の1程度にあたる領域を観測し、X線背景放射の原因となる多数のX線源を確認した。今回の観測結果を元に全天の放射源の数を推定すると、およそ7000万個ほどになるという。なお、今回確認されたX線源うち3分の2は、新たに確認されたものである。

しかし、今回新たに確認されたX線源の正体は、まだ正確にはわかっていない。

3分の1は、X線では非常に明るく見えるのに、可視光では検出できないような銀河核であり、「隠された銀河核」とでもいうべき新たなタイプの天体であった。今回の観測結果は、このような「隠された銀河核」が全天に数千万個程度あることを暗示している。これらの銀河核のX線像は非常に明るいため、恐らくAGNに分類されるものである。多数あるAGNは、X線では明るいが、可視光では暗い。今回の結果は、AGN探索は光学的な手段では非常に不完全であることを暗示している。

また別の3分の1は、「超微光銀河」とでもいうべき新たなタイプの天体であった。これらの天体はチリに取り巻かれて可視光が外まで通過しない銀河か、または非常に遠方にあるために宇宙空間に存在する比較的低温のガスに可視光を吸収されてしまった銀河であろうと推測されている。それらの中には6段階以上の赤方偏移を持つものが含まれている可能性があるそうだ。そうであれば、それらは140億光年以上もの距離にあることになり、これまで検出された中で最遠の天体ということになる。

これらの天体を光学的な手段で観測することはハッブル宇宙望遠鏡を用いても難しい。これらの天体の正体を完全に解明するためには、次世代宇宙望遠鏡の登場や、複数のX線観測衛星を近接編隊飛行させて協調観測させるコンステレーション−X計画が待たれるところである。

関連リンク
Chandra Solves Cosmic Puzzle (Discovery Online, 2000/1/13)
Black holes, big and small, found to be common (CNN, 2000/1/14)
Constellation-X Home Page (NASA)