孤立したブラックホールの発見

【2000年1月20日 国立天文台天文ニュース(320)】

銀河系内に孤立して、恒星程度の質量をもつ二つのブラックホールが発見されました。

一般にブラックホールは、銀河の中心部に存在すると考えられ、太陽の数100万倍以上の質量をもつ超巨大ブラックホールと、大質量の星から最終的に生まれる、恒星程度の質量をもつブラックホールがあると考えられています。

これまでに発見された恒星質量のブラックホールは、すべて連星系の一方として発見されたものでした。 他方の恒星の運動状況からブラックホールであることが推定されたのです。 しかし、今回は、見かけ上別の恒星の前面をブラックホールがたまたま通過するときの、マイクロレンズ現象を利用して発見したものです。

重力は光の経路を曲げますから、ブラックホールの重力が十分強ければ、そのレンズ作用で、背後の恒星がたとえば二つに分離して見えるかもしれません。 しかし、ブラックホールが恒星程度の質量しかない場合には、光の曲がりの効果が望遠鏡の分解能よりはるかに小さいため、像の分離は起こらず、単に背後の恒星の明るさの増加が観測されるだけです。 しかし、その明るさの変化から、ブラックホールの質量が計算できます。 今回発見された二つのブラックホールの質量は、ともに太陽の6倍程度でした。 この質量は、明るく輝いているはずの通常の恒星でも、白色わい星でも、中性子星でもないことを意味します。 すると、残された可能性はブラックホールしかありません。 こうして、ブラックホールが確認されたのです。 孤立ブラックホールが発見されたことは、大質量星が最後にブラックホールになるというこれまでの理論的推定を裏付けるものでもあり、また、暗黒物質としてブラックホールが他にもたくさん存在している可能性を暗示するものでもあります。

これらの現象は、1996年と1998年に、オーストラリア、マウント・ストロムロ天文台の1.3メートル望遠鏡を使って、アメリカ、ノートルダム大学のベネット(Bennett,D.P.)らのMACHO(Massive Compact Halo Objects))チームがまだ増光中に発見、他のチームの応援を得て、観測が続けられました。 ブラックホールが通過する間の変化を観測しなければなりませんから、現象が終わるまで、観測はそれぞれ800日、500日の長期にわたりました。 1996年に発見された方のレンズ現象が終わった後、ハッブル宇宙望遠鏡を使って、レンズ現象を示した恒星の明るさの精密な観測がおこなわれています。 1998年に発見された現象の方がより明るく、これもハッブル宇宙望遠鏡による今後の精密観測が待たれています。

参照 NASA Release:00-4(Jan.13,2000).