もっとも低温の白色わい星

【2000年1月13日 国立天文台天文ニュース(318)】

白色わい星は小さい高密度の天体で、太陽の8倍以下の質量をもつ恒星の残存核です。 長い時間が経過すれば、冷えて暗くなり、ついには見えなくなります。 われわれ銀河系も、質量の90パーセントが暗黒物質などといわれますが、その暗黒物質の一部は、白色わい星が冷却したものと思われます。 特に銀河を取り囲むハローには、暗黒物質や数多くの低温の白色わい星が存在すると推測されています。 しかし、予測に反して、これまでの観測からは、ハッブル宇宙望遠鏡による深宇宙調査を含めて、そこに低温の白色わい星が多数存在する兆候は見られませんでした。

その矛盾を説明する考え方が提案されています。 これまで、白色わい星は冷えるにしたがってしだいに赤くなるというのが常識でした。 しかし、最近の白色わい星大気のモデルでは、低温になってもそれほど赤くはなりません。 温度の下がった大気には分子の水素が豊富に含まれるので、それらの衝突による吸収帯によって、赤から赤外にいたる領域の明るさが大きく落ち込み、実質的に、放射のエネルギー分布が青の方にずれると考えられるからです。 これが正しいとすると、これまで低温の白色わい星がなかなか見つからなかったのは、違う波長域を探していたためということになります。 もっと短波長の青い領域を探さなければなりません。

イギリス、レスター大学のホジキン(Hodgkin,S.T.)らは、口径1.2メートルのイギリス・シュミット望遠鏡で、偶然に白色わい星WD0346+246を「おうし座」に発見しました。 実視等級18.8等は、検出の限界近くでした。 引き続き口径3.8メートル、イギリス赤外望遠鏡などによる測光、分光観測の結果、得られた結果は、上記の理論によく合ったものでした。 表面の実効温度3500Kは、これまでに知られた白色わい星でもっとも低温のものです。 質量は太陽の0.65倍、半径は0.012倍、明るさは5万分の1と計算されています。 また距離が91光年、固有運動速度が毎秒約170キロメートルであるところから、銀河ハロー内にある白色わい星と推定されます。

発見されたのがたった1個ですから、これだけで白色わい星がが多数存在する証拠にはなりません。 しかし、暗黒物質の半分がこの種の白色矮星であるとしても、シュミット望遠鏡1回の露出で撮影できる確率は1パーセント以下です。 この1個の白色矮星の発見は、銀河ハローにたくさんの白色わい星があることを暗示するものといえるかもしれません。

参照Hodgkin,S.T. et al., Nature 403, p.57-58(2000).
Hansen, B., Nature 403, p.30-31(2000).