ディープ・インパクト計画

【1999年7月8日 国立天文台天文ニュース(273)】

彗星が地球に衝突するときのパニックを描いた映画「ディープ・インパクト」が昨年公開されました。ご覧になった方も多いでしょう。 アメリカ航空宇宙局(NASA)は、今回、水星を探査するメッセンジャー計画と、彗星を探査するディープ・インパクト計画を、太陽系のつぎの探査計画として採用することを発表しました。 ここでは、映画の名をそのままとったディープ・インパクト計画について説明しましょう。

ディープ・インパクト計画は、探査機から打ち出した500キログラムの銅の弾丸を、秒速10キロメートルという速度で、テンペル第1彗星(9P/Tempel-1)に打ち込む構想です。この弾丸の衝突によって、彗星の表面には直径数100メートル、深さ数10メートルのクレーターができると推定されます。 そのときにはね飛ばされる氷の破片と、彗星内部から堀り起こされる新鮮な内部物質を、探査機に搭載した赤外スペクトルカメラで撮影し、また地上望遠鏡によっても観測しようという狙いです。 弾丸に銅を用いるのは、彗星から生じた物質とスペクトルで容易に区別できるからです。 この実験から、彗星内部の状況がどのぐらい明らかになるか、楽しみです。

ディープ・インパクト計画の探査機は2004年1月に打ち上げ、2005年7月4日のアメリカ独立記念日に、テンペル第1彗星に弾丸を打ち込む予定です。 テンペル第1彗星は、1867年にドイツのテンペル(Tempel,E.W.L.)が発見した周期5年半の周期彗星で、これまでに9回の回帰が観測されています。 現在観測可能で、2000年初頭に近日点を通過する予定です。 弾丸を打ち込む実験がおこなわれるのは、5年半後の、そのつぎの回帰のときになります。

この探査計画は、1998年初めまでに提案された26の計画の中から、低コストで、目的が科学的に明確であるとして選ばれたもので、全コストとして2億4000万ドルが見込まれ、NASAのジェット推進研究所が実施を担当します。 なお、彗星探査には、すでに打ち上げられ、彗星期限のダストを収集して地球に持ち帰るため、ビルト第2彗星(81P/Wild-2)に向かっている探査機スターダストがあり、また、2002年6月に打ち上げ、エンケ彗星(2P/Encke)、シュワスマン・ワハマン第3彗星(73P/Schwassmann-Wachmann-3)、ダレ彗星(6P/d'Areest)と3個の彗星につぎつぎに接近して観測するコントワー(CONTOUR)計画も進められています。

参照 NASAプレス・リリース99-77(July 7, 1999).