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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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132(2016年2〜3月)

2016年8月5日発売「星ナビ」2016年9月号に掲載

超新星2016X in UGC 8041

2016年2月15日は、明け方から昼間にかけて雪が降ったのか20時20分にオフィスに出向くときは、まだ少し雪が積もっていました。その翌日の明け方、ダン(グリーン)からPANSTARRS彗星(2016 BA14)についての問い合わせ(先月号参照)のメイルが届いた同じ2月16日の朝のことです。06時31分に掛川の西村栄男氏から「2016年2月16日04時43分におとめ座の中を200mm f/3.2レンズ+Canon EOS 5Dデジタルカメラで、撮影した捜索画像上に14.5等の新星状天体(PN)を見つけました。同じ時刻の2枚の画像上にも写っています。変光星と小惑星はチェックしました。しかしPNは、DSS(Digital Sky Survey)の画像上にある小さな銀河のそばに出現しています」という発見報告が届きます。

『おとめ座? 天の川ではないところに新星か。めずらしいな』と思って、氏の報告を読みました。すぐ西村氏から電話があります。『おとめ座ですよ。めずらしい位置ですね。それに暗いですね』と話すと、氏は「はい。近くに銀河があります。その中かもしれません」と答えます。『出現光度も超新星に近いですね。ちょっと板垣さんに問い合わせて、この付近に超新星の出現がないか調べていただけませんか』と頼みました。西村氏は、すぐ板垣氏に問い合わせたようです。それからわずか20分後の06時50分に西村氏から「板垣さんに調べていただいたところ、発見されている超新星でした」というメイルが届きました。

その日の夜は快晴になりました。『どの超新星だったのか』とTNS(Transient Name Server)を調べました。すると、ASAS超新星サーベイで、すでに2016年1月20日に15.1等で発見された超新星2016Xでした。出現位置は、西村氏の報告位置と2″ほどであっていました。そこで西村氏には20時46分に『残念でしたね。もし新しい超新星の発見ならば発見三冠を達成でしたが……。』というメイルを返しておきました。

333P/LINEAR周期彗星

この彗星は、2007年にLINEARサーベイで発見された彗星型の軌道を動く小惑星2007 VA85(q=1.10au、e=0.74、P=8.6年;2007年出現時の軌道)でした。小惑星は2016年4月にその近日点を通過する予定でした。東京の佐藤英貴氏は、この小惑星をサイディング・スプリングにある51cm望遠鏡を使用して、2015年11月18日に19.9等で検出しました。このとき小惑星は恒星状でした。氏の検出位置は、MPO 140717にある軌道から、赤経方向に-375″、赤緯方向に+494″のずれがあり、近日点通過の補正値にしてΔT=-0.83日でした。

しかし、佐藤氏が2016年1月8日に同じ望遠鏡で再びこの小惑星を捉えたとき、恒星状のコマから西北に伸びた40″の尾がありました。1月10日にアタカマ高原にある40cm望遠鏡でこの小惑星を観測したモーリらも、10″のコマらしきものから西北西に伸びた約36″の尾を認めました。さらにベルギーのブライシンクが同日にサイディング・スプリングにある70cm望遠鏡で行った観測でも、南西に21″の尾が見られ、この小惑星は彗星であったことが確認されました。なお、光度はいずれも17等級でした。

2016年2月12日に地球に0.53auまで接近したこの彗星は、2月から3月にかけて空を大きく移動していました。年初には17等級であった彗星は、2月の接近後のCCD全光度は上尾の門田健一氏が2月27日に13.8等、長野の大島雄二氏が3月1日に13.8等、八束の安部裕史氏が3月2日に13.4等、佐藤氏が3月3日に13.3等と明るく観測されました。佐藤氏の観測では、強く集光した2.1′の淡いコマが見られたとのことです。おそらく眼視全光度は11等〜12等級まで増光しているのでしょう。そう考えていたとき、3月7日01時56分にスペインのゴンザレスからこの彗星の眼視観測が届きます。氏の20cmシュミット・カセグレイン望遠鏡による3月5日の観測では、眼視全光度は11.3等で、視直径2.0′のコマが見られるとのことでした。やはり、彗星は明るくなっていたようです。

さて、3月に入り、天候も春らしくなり、少しずつ暖かくなってきました。しかし、3月10日頃から寒の戻りがあって、寒い日に戻っていました。まだ寒さが続いていた3月12日深夜、333P/LINEAR周期彗星が増光しているという情報とその位置予報を観測者に知らせ、追跡観測を依頼しました。00時40分のことです。この予報は、00時44分にスペインのゴンザレスと中央局のダンにも送っておきました。彗星はその後、3月21日には13.1等(門田)、26日に13.5等(高橋俊幸;栗原)、28日に13.4等(安部)、31日に13.7等(高橋)、4月5日に14.2等(大島)、6月9日には16.1等(佐藤)とHICQ 2016にある予報どおり、減光していったようです。なお6月の佐藤氏の観測では、強く集光した40″のコマがまだ見られたとのことです。

へびつかい座新星V3661 OPHIUCHI=Nova Oph 2016

EMESを発行した同じ3月12日早朝、05時52分に岡崎の山本稔氏から「2016年3月12日04時13分にへびつかい座をCanon EOS 5Dデジタル・カメラと135mm f/3.5レンズを使用して15秒露光で撮影した4枚の捜索画像上に、10.5等の新星状天体を発見しました。このPNは、今年2月11日に撮影した捜索画像上には写っていません。既知の変光星、彗星、小惑星ではないことは手元の情報内では確認しています。画像の極限等級は12.7等です」という発見報告が届きます。この時期、私の自宅にある通信用のコンピュータが壊れ、中村氏の発見はiPhoneで確認しましたが、すぐには対応できませんでした。

しかし、九大(当時)の山岡均氏が天文電報中央局の未確認天体確認ページ(TOCP)に掲載してくれたようです。その日の夕方16時52分と17時04分にTOCPに掲載された発見情報を見た群馬県嬬恋村の小嶋正氏から「また発見前の観測報告です。3月10日04時50分にCanon EOS 6Dと200mm f/2.8レンズで4秒露光で撮影した2枚の捜索画像上に12.6等で確認できます。なお、3月8日04時36分に撮影した極限等級が13.0等の捜索画像上には確認できません」という発見前の観測が報告されます。3月12日夜、オフィスに出向いたのは22時20分のことです。そして、小嶋氏の発見前の観測を22時44分にダンに送付しました。そのあと、小嶋氏のJPG画像からその出現位置を測定して、その位置と測定光度をダンに報告したのは23時28分になりました。その日の朝(3月13日)06時14分には、ダンへの報告を見た小嶋氏から「おはようございます。CBATへの報告、画像の測定等ありがとうございました。写野の端にかろうじて写っていました。発見前観測ですが、少しでもお役に立てればと思います」という報告確認のメイルが届いていました。また、山本氏からも08時33分に「昨日は突然メイルを差し上げてすみませんでした。早朝でしたので電話は控えました。PCは復旧されたようで何よりです。昨年のいて座新星2015 No.4(2016年5月号参照)では大変お世話になりました。改めてお礼いたします」というメイルも届きます。

それから3日後の3月16日朝09時12分になって、この新星の発見は、水戸の櫻井幸夫氏からも報告されます。氏からの発見報告には「3月16日03時29分にNikon D7100と180mm f/2.8レンズでへびつかい座を15秒露光で撮影した2枚の捜索画像上に新星状天体を見つけました。光度は10.9等で、画像の極限等級は13等級です。このPNは、3月2日朝04時12分に撮影した2枚の画像上には確認できません。変光星と小惑星についてはチェックしましたが、該当するものはありません」という報告も届きます。氏の報告は、同朝09時47分にダンに連絡しておきました。

この新星の発見は、櫻井氏から報告のあった同じ日、3月16日15時35分に到着のCBET 4265で公表されます。そこには、オーストラリアのピァースが3月13日に11.7等、14日に11.8等と眼視観測していたこと。海外でスペクトル確認が3月12日、14日に行われ、新星の出現であることが確認されたことが紹介されていました。なお、亀山市の中村祐二氏も3月12日の朝に撮影した画像上にこの新星を見つけています。同夜21時10分には「新天体発見情報No.231」を発行して、報道各社にこの新星発見を連絡しました。その夜21時52分には、山本氏から「新天体発見情報の送付、ありがとうございます。たくさんの熱心な捜索者の皆さんがいる中での発見で自分でも驚いています。とてもラッキーだったと思います。いつになるかわかりませんが、また発見をご報告できたらよいと思っております」、さらに3月17日朝、06時47分には小嶋氏から「おはようございます。新天体発見情報No.231を昨夜に受け取りました」という連絡が届きました。なお、3月17日06時52分到着のIAUC 9280で、この新星には変光星番号V3661 Ophが与えられています。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。