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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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113(2014年6〜7月)

2015年1月5日発売「星ナビ」2015年2月号に掲載

72P/デニング・藤川周期彗星の再発見

[先月号からの続き]東京の佐藤英貴氏によって行われたこの彗星の再発見が、6月19日13時43分到着のCBET 3908で公表されます。過去の画像の調査を依頼したドイツのマイク(メイヤー)からは15時08分に「もうしわけない。これから旅行に出るところだ。日曜日には帰ってくる。ただ私は、この彗星についてときどき過去の画像を調べていた。ΔTが小さかったということは、過去の予報位置に大きな差がないため、私がすでに調べた画像に彗星はいたはずだが、そこには彗星は写っていなかった。しかし戻ってきたとき、もう一度可能性のある画像を調べてみるつもりだ。日曜日までには誰かが見つけるかもしれないけど……」という連絡が届いていました。

そして18時15分には、東京の佐藤英貴氏より1978年の再発見者である藤川繁久氏に宛てたメイルが関係者に転送されて届きます。そこには「はじめまして。主に海外のリモート天文台で彗星観測を愉しんでいる東京在住の佐藤英貴と申します。彗星会議には2007年から2013年まで欠かさず参加しておりましたが、今年(2014年)は急な引越しがあり、参加できませんでした。藤川さんなど彗星掃索の大先輩方とお会いするのを楽しみにしていたのですが残念でした。72Pは南半球での条件が良いので、5月から検出を狙っていました。ただ、5月7日の捜索画像を逆測定しても、彗星は21.0等より暗いようで、まったく写っていませんでした。169P/NEAT、181P/Shoemaker-Levy 6、210P/Christensen、222P/LINEAR、255P/Levy、300P/Catalina、P/2003 T12(SOHO)といった近日点前後わずかな期間だけ明るくなる周期彗星をここ数年数多く観測していたこともあり、72Pも日心距離が小さくなってからでないと観測できないだろう。また、今回の回帰では南半球でないと位置的にも観測は無理だろうな……と思っていました。6月17日には、写野のほぼ中央に明るく拡散した彗星像を見つけて『やっと捉えた』と感無量でした。正直にいえば、写らなくても光度の上限を決める有意義な観測にはなるだろうという意識での観測でした。D番号の彗星の観測報告を行うのはもちろん初めてなので、観測中の彗星名を0072Dで報告するべきか、0072Pにするべきか……と迷いましたが、やっぱりDの方が見失われていた感があっていいなと考えて、緊張しながら報告しました。6月18日には霧が出る悪条件下での観測でしたが何とか測定可能な像を得ました。彗星の観測条件は、今後、南半球でも悪くなっていきますが、月がなくなる今月末まで観測を続けようと思います。なお72Pは、検出を狙って予報位置を写していれば、必ず写野内に入っているはずです。そのため、南半球を主戦場としているフランスのJean-Francois Soulier氏やイギリスのKevin Hills氏らにも今回帰で狙っていなかったか聞いてみます(注意。氏のメイルの時刻はUT)」と再発見の状況が綴られていました。氏のメイルには検出画像が添付されていました。

その画像を見ると、氏からふだん送られてくる画像よりは、はっきりとわかるやや明るい彗星が写っていました。しかし、捜索時にパソコンのディスプレーに写ったその姿を見て、氏はきっと「びっくり」したことでしょう。そのあと、この彗星の再発見は、18時28分にEMESで仲間にも伝えました。18時33分には、佐藤氏に『画像をありがとう。だいぶ広がっていますね。もし、ご了解がいただければ発見情報を出しておこうかと思っているのですが、いかがでしょうか。もしご了承がいただけるなら、住所はMPCの報告からわかりますが、連絡先の電話をお教えいただけませんか。ただ、インターネットの時代です。発見情報自体にあまり意味がありませんが……』という返信とお願いを送りました。また、マイクには18時55分に『きみのいうとおり、予報軌道はずれていないので、過去には観測されていなかったのだろう』というメイルを送っておきました。そして、20時58分に佐藤氏のこの彗星の再発見を告げる新天体発見情報No.214を報道各社に送付しました。

この日(6月19日)には、米国で印刷中だったICQ Comet Handbook 2014(HICQ 2014)がやっと届きます。そこで21時36分にEMESで『2014年5月上旬には、発行されているはずの今年のHICQ 2014がようやく手元に届きました。HICQは、1980年代後半のスミソニアン勤務時に第1版を発行し、今年版は第28版になります。よくこんなアホみたいことを30年もやっているものです。それ以前にHOAAも編集していましたので、かれこれ半世紀ほどいわゆる日本語でいう「彗星年表」を発行していることになります。何と忍耐のある人間なのでしょう……。さて、今年度版には、この1年に観測可能な301個の彗星が含まれています。総ページ数は158ページで、このスタイルでの発行はそろそろ限界に近づきました。来年はどうするか、考えておかねばなりません。プログラムでは、ウェッブ・サイト版も同時に自動的に作成されているのですが、ICQの有料出版物なので、これは公表していません。購入は、これまでどおり〈URL http://tinyurl.com/cbaticq〉で行えます。1冊あたり20.00ドルです。なお、一応、ICQの実績になりますので、お金に余裕のある方はぜひご購入ください。これとは別に、現在ICQ Comet Catalogue of Numbered Periodic Cometsを編集中で、総ページが250〜300ページになる予定です。これは日本で印刷予定です。発行されましたらよろしくお願い致します。なお、そのあと、ICQ Catagogue of Cometary Orbitsまで行く予定でいますが、いつのことになるか……』というお知らせを送付しました。ただ、EMESの中に出てくる周期彗星のカタログは、まだすべては終わっていません。

その夜(6月20日)01時10分になって、栗原の高橋俊幸氏から氏の観測とともに「……。それにしても、佐藤さんの72Pの検出、素晴らしいですね。感服しました。脱帽の他、ありません。実は、6月16日早朝02時51分から02時59分に栗原でもデニング・藤川彗星に望遠鏡を向けましたが、結局検出できませんでした。16等級の天体ならば捉えられたはずなのですが、少なくとも「集光した25″のコマ」の彗星状天体は、30秒露出14フレームをスタックしても予報位置ふきんに写ってはいません。1日の間でバーストしたのでしょうか。残念無念です……。梅雨の最中なので中々晴れませんが、晴れた時には筒を向けて光度変化を追跡したいと思います」というメイルがあります。『みんな、興味を持ってやってくれているんだなぁ……』と一人ありがたく思いました。一応、氏には03時00分に『サイディング・スプリングは、春から今にかけて空が「最良」の時期です。その差が出ているのでしょう。今なら佐藤さんは、他にも検出できるかもしれません。新発見があるかも……。追跡観測を期待しています』というメイルを送っておきました。

6月20日13時55分には、藤川氏より「このたび、デニング・藤川彗星の詳細な情報をいただき、ありがとうございました。今後の追跡に利用させていただきます。36年前に偶然の出会いがあった後、また行方不明になり今回も不発に終われば、次回は年齢的にもとても不安になります。佐藤さんの努力によって、我が人生の宿年の問題のひとつが解決されました。深く感謝しています」というメイルが届きます。

今期の彗星の位置観測は、2014年8月2日に行われた上尾の門田健一氏の観測まで27個が報告され、この出現での観測はこれで終了しました。再発見後のCCD全光度は、6月20日に16.3等、21日に16.8等、25日に16.1等、7月1日に15.9等、8日に15.5等(佐藤)、11日に16.7等(高橋)、15日に15.6等(門田)、25日に18.0等(関勉;芸西)、8月2日に17.4等(門田)と観測され、彗星は15等級まで明るくなりました。佐藤氏の6月21日の観測では、強く集光した25″のコマと西南西に50″の淡く幅広い尾、7月8日の観測では、強い集光のある50″のコマが観測されています。彗星の光度観測から求められた今期の光度パラメータはH20=17.6等でした。1881年から2014年までに行われた43個の観測から計算した連結軌道がNK 2727(=CBET 3907)にあります。なお、次回の近日点通過は2023年6月15日となります。

181P/シューメーカ・レビー第6周期彗星

上にある東京の佐藤英貴氏のメイル(18時15分到着)に登場するこの彗星(周期が7.52年)は、2014年6月10日に回帰しました。再観測は、佐藤氏によってサイディング・スプリングにある51cm望遠鏡を使用して2014年6月3日に行われます。氏のCCD全光度は17.3等でした。このとき、彗星には視直径30″の弱い集光のある星雲状のコマが見られたとのことです。その後、アタカマ(チリ)の40cm望遠鏡でモーリらによって、6月13日、14日、15日に追跡されました。彼らの光度は19等級でした。残念なことに今期の観測は、これで終了しました。

それから約1か月が経過した7月9日になって、このひと月に観測された彗星の軌道改良を行うために予報軌道と新彗星の最近の軌道からの残差を見ることにしました。画面を目では追えない速さで流れる残差のリストを見ていると、一瞬、目玉が飛び出るほど『ぎょ!』としました。というのは、その中に出力が不揃いになるほど猛烈に大きな残差があることに気づいたのです。計算が終了して、リストを見ると、この彗星でした。『これは、いったいどういうことじゃ……』と思いながら、もう一度、チェックしましたが結果は同じでした。

さっそく、1991年/1992年と2006年/2007年と2014年の観測から軌道を再改良すると、今期の近日点通過はT=2014年6月10.32日(非重力効果の係数がA1=−0.14、A2=−0.0086)となります。予報軌道(NK 2147(=HICQ 2013、HICQ 2014))の近日点通過はT=2014年6月7.71日です。つまり、予報軌道は、近日点通過日の補正値にして、何とΔT=+2.6日もずれていたことになります。リストに示された大きな残差にも納得です……。

7月9日22時09分に大泉の小林隆男氏に『下記のお礼状をありがとう。ただ、その前にお礼を聞いたような気がしますが……。さて本日、181P/Shoemaker-Levy 6の軌道改良をしました。予報軌道(T=2014年6月7.71日;NK 2147)から今年度の観測が赤経方向に-1°.22、赤緯方向に-0°.97の大きな残差を示し、ΔTにして+2.6日もありました。こんなのを良く捉えたなぁ……と思ったら佐藤氏の観測です。続くアタカマの観測は、彼からその情報を得たのでしょうか。あるいは、小惑星センター(MPC)の軌道はΔTがもっと小さかったのかもしれません。予報軌道は1991年と2006年の2回の出現(1999年の回帰は観測されていない)を結んだものですが、A1=+1.50と大きく、2回の出現を非重力効果を加算して連結したため、うまく結べていないのでしょう。そう思って改良したのですが、1991年から2014年の観測がうまく結べません。なんとか、連結した軌道をNK 2744に入れてあるので、ちょっと見ていただけませんか。ただ、非重力効果の係数は小さくなりますので、これが正しい軌道なのでしょう』というメイルを送った後、ほかの予報を調べました。

すると、1991年出現の観測と2006年の2夜の検出観測のみで計算したNK 1377にある連結軌道の近日点通過は、T=2014年6月10.37日です。従って、この軌道からのΔT=−0.05日となります。小惑星センターにある軌道(MPC 75733)も調べると近日点通過はNK 1377と一致します。『何だ……。みんな、小惑星センターの予報軌道を使っているのか……』と大きく落胆しながら、その事実にぼう然とし、その夜は何もしませんでした。

翌日、7月10日10時12分に小林氏から返信があります。そこには「NK 2744の軌道を拝見いたしました。こちらの計算でも同様の結果となりましたので、これが正解と思われます。しかし、アタカマの精度は良くないですね。それともうひとつ、MPCに掲載された181Pの軌道を調べてみました。こんなことは先刻ご承知と思いますが、まず、MPC 75733(2011年8月発行)には、T=2014年6月10.37日の予報軌道が掲載されています。軌道改良に使用した観測期間を見ると、2006年11月以降の観測はすべて使用されていないことが判ります。同年の近日点通過は11月25日でしたので、近日点通過前の観測のみを使用して軌道改良を行ったと思われます。何でこんな無謀なことをしたのか判りませんが、結果的に、2014年回帰時のΔTは−0.05日で、予報は合っていたことになります。参考までに、同じ条件で計算した結果では、2006年11月から2007年1月までに行われたその後の観測の残差は概略、赤経方向に+15″、赤緯方向に+20″ほどずれます」と報告されていました。その夜、22時21分に小林氏に『調査をありがとう。2010年と2011年はマースデン死去の混乱期の頃で、ちょうど予報の切替時期でした。そのため、ファイルにある予報をそのまま使ったのでしょう。私のその頃の軌道(NK 1377)からの予報も、T=2014年6月10.37日とMPCの予報と同じでした。ところで、最近、観測期間の短い軌道からの予報の方が良く合う気がしています。CCDになって、あやふやな暗いものまで測れるようになった反面、その観測が、たとえ±0″に軌道改良できても、実際には誤差があって予報を悪くしているような気がしています。また、ご存知のとおり、彗星が遠くなった遠日点ふきんの観測は、近日点の観測に合いません。ただこれは、遠日点ふきんの観測は光学中心と重力中心が見かけ上、同じ。逆に近日点ふきんの観測は、それらが分離され、光学中心が測られているからだと思います。そういう意味では、遠日点ふきんの観測が正しいのか……とも考えていますが……』というメイルを送りました。

そんな『目玉が飛び出る』事態を知らない佐藤氏から次の日(7月11日)の朝09時03分に「181Pの写真など」という表題のついたメイルが届きます。そこには「72Pは、北に低くなりサイディング・スプリングでは観測が不可能になりました。7月9日早朝に強烈な薄明(太陽高度-12°)のもと、16Pとのランデブーを捉えました。ここからの最終観測です。核光度は相変わらず18.1等〜18.3等ですが、全光度は明るくなりました。6月18日からその見え方はほとんど変わってないので、今回の出現はバーストではなく、定常状態を捉えているものと思います。5月7日には21等以下で全く写っていませんでしたから、地球軌道より中に入って彗星活動を示す彗星なのでしょう。なお72Pは、7月8日早朝には、これまた明るい106Pと2′程度まで接近していたのですが、屋根が閉まって無理でした。……。181Pは今回帰は大変条件が悪く、私の観測でも非常に淡い写りです。このとき、彗星は高度は+22°、太陽高度は-13°でした」というメイルがつけられていました。氏の181Pの画像(6月3日)を見ると、しみのように小さく拡散したこの彗星が写っていました。

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