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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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092(2012年7〜9月)

いて座新星2012 No.5

2012年7月17日朝は、少し雲があるものの快晴でした。その日の早朝04時45分に群馬の小嶋正氏から「この夜は久し振りに晴れました。いて座の新星(V5590 Sgr)が、7月16日21時14分に撮影した画像上では10.8等まで増光していましたので報告します。画像を添付しました」というメイルが届きます。この新星は、氏が2012年4月23日に発見したいて座第2新星(Nova in Sgr 2012 No.2=V5590 Sgr;本誌2013年2月号参照)です。当時、小嶋氏からは「2012年4月24日深夜01時半頃にキヤノン・デジタルカメラで、いて座を撮影した捜索画像上に、12.5等の星が出現していることを見つけました。過去の捜索画像を調べると、この星は、約1年前からの捜索画像上に10等級の星として写っていることが判明しました。昨年(2011年)の観測と比較して変光(減光)しており、2011年は11等より明るいときもありました。なお、捜索画像上に写っていた各夜の光度は、2011年4月13日に10.9等、29日に10.7等、7月5日に10.6等、9月23日に11.2等、10月16日に10.8等、29日に11.3等、2012年2月28日と4月24日に12.5等でした」という報告がありました。つまり、この星の発見光度は12.5等でしたが、2011年に10.5等級まで明るくなっていたとのことでした。氏の報告では、新星が再び増光したことになります。その観測は、7月17日07時09分に中央局(CBAT)のダンに伝えました。07時36分に小嶋氏から「報告を確認しました」という連絡も届いていました。

この夜(7月17/18日)は、まだ晴天が続いていました。01時05分にその小嶋氏から「昨日撮影した捜索画像上の12等級の星のイメージがノイズかどうか判断できなかったのですが、今夜に晴れ間を通して観測したところ、この星は実在している天体のようです」というメイルが届きます。そこには「キヤノンEOS 40Dデジタルカメラ+150mm f/2.8レンズを使用して、2012年7月16日夜、21時17分頃にいて座を撮影した捜索画像上に12.6等の新星状天体(PN)を発見しました。翌17日23時21分頃に、この星が12.2等で存在することを確認しました。これまでに行った2011年4月から2012年6月までに撮影した多数の捜索画像には写っていません。なお、画像の極限等級は14等級で、AAVSOと2MASSカタログ、DSS(Digital Sky Survey)画像にはないようです」と書かれてありました。さらに小嶋氏からは02時15分に「ASASカタログを調べました。ほぼ発見位置に14等級の星があります。条件の良かった過去に撮影された2011年4月10日、7月5日、9月23日、2012年3月26日、4月15日、5月24日の画像には写っていません。最微光星は13.5等です」という報告が届きます。そこで、これらの情報を07時45分にダンに送付しました。08時32分には、小嶋氏から「おはようございます。お忙しい中、CBATへの報告ありがとうございました」という連絡があります。

その7月18日の朝、発見報告を見た大崎の遊佐徹氏から09時24分に早々と確認観測が報告されます。そこには「先ほど、7月18日08時50分にスペインにある43cm望遠鏡を遠隔操作して、発見位置を撮影しました。小嶋さんの星は、波長VとIの2つの画像上におよそ12等でしっかり写っています。パロマーで1991年8月30日に撮影されたPOSS2/ UKSTU(RED;極限等級19等)には同じ場所に明るい星はありません。これから測定に入ります」という報告されていました。そして、10時49分に氏から中央局に報告された新星の出現位置の測定と光度が転送されて届きます。氏によると「このとき新星は12.7等」とのことでした。それを見た小嶋氏からは、17時17分に「遊佐さん。リモート観測をありがとうございました。あまりの早さに驚いています。このPNは16日夜の観測だけでは確信が持てず、ノイズだろうと思っていました。同じ夜、いて座第2新星が10.8等に増光していたので、その方が気になっていました。翌17日の夜、晴れ間からその存在を確認でき、中野さんに報告した次第です。まずは、確認観測等のお礼を申し上げます」という返信が送られていました。遊佐氏は、さらに同日15時45分に米国メイヒルにある25cm望遠鏡でこの星を観測し、その光度を12.7等と観測しています。18時29分に届いた氏のメイルには「今日は仕事休みの日でしたので、朝から夕方まで、たっぷりと時間をかけて小嶋さんのPNの観測ができました。おかげさまで、多色測光の要領がだいぶわかってきました。先ほどCBATに報告したとおり、ジョンソンBVRIの4色で観測しました。B−V=+1.6ですので、かなりの赤さですね。V等級は12.7等で朝からほとんど変化がないようです」と報告されていました。

実はこの頃、7月19日15時39分に先月号の札幌の金田宏氏のメイルへの返信を送っていました。そこには『約6年間の捜索で、365時間、24万枚の画像、6゚.3万天域の撮影を行ったとは、すごい数ですね。暗いところで撮影しておれば(たとえば、群馬の小嶋氏の画像では14等級まで写っている)、独自の星表が作れますね』という感想を書きました。すると、16時30分に金田氏より「先日の小嶋正さんの新星は、あの暗い光度でよく見つけられたものと思います。150mmで14等まで写るそうで、空も良いのだと思いますが素晴らしいですね。小嶋さんはブリンク法でチェックしていると伺いましたが、相当な努力をされているのだと思います。今年(2012年)は新星の当たり年のようで、次から次と見つかります。あとは、はくちょう座辺りに明るい新星が出てくれればありがたいのですが……」というメイルが「新星の当たり年」というサブジェクトで届きます。

それから半日が過ぎた7月20日06時25分に届いたCBET 3182で、この星は公表されます。そこには、国内の複数の天文台でスペクトル確認が行われたことが掲載されていました。さらに06時49分に届いたCBET 3184では、海外でもスペクトル確認が行われたことが紹介されていました。その日の午前10時に「新天体発見情報No.191」を発行し、この発見を報道各社に連絡しました。

明るい超新星2012ei in NGC 5611

8月18日朝、仲間に『北京で開催されるIAU総会に出席のため、2012年8月20日〜30日までの期間OAACS/CFAD1を停止します。この期間、メイン・サーバとウェッブ・サーバ等は動いていますので、ご連絡はこれまでどおりのメイリング・アドレスにお願いします。なお、瞬間停電などでエアコンが停止した場合、このオフィスの温度は50℃を越えます。その場合、サーバ等が止まる可能性があります。もし、上記期間にメイルが返送されるときは、次のメイリング・アドレスにメイルを送ってください。なお、最近SPAMメイルが多いので、メイン・サ−バに独自に作成したSPAMフィルターを入れてあります。そこには、約1万件の拒否アドレスが入っています。メイリング・アドレスを変更した場合やおかしなアドレスから送ったメイルなどは届かないことがあるかもしれません。サーバ上に到達したこの種のメイルは、受け取りますが握りつぶします(私には届きません)。返信要のメイルを送付したのに私からの返信がない場合、上のアドレスに送ってください。なお、返信には概略1日の猶予をください』という『お知らせ』を仲間に送りました。しかし、この情報は、捜索者の方々には送りませんでした。

8月21日は、朝05時53分発の関西空港行きの高速バスに乗りました。以前には、洲本から関空までの高速艇が30分おきに出ていたのですが、過疎の島のため、すべてが廃止になりました。そのため関空までは、2時間をかけて大阪湾をぐるっとひと回りしなければなりません。関空からは、10時00分発の飛行機で、北京までは約3時間、現地時刻の12時15分到着の予定です。到着後は14時から開催される開会式と18時からの歓迎レセプションに出席の予定でした。

ところが……です。機体の不備のため、離陸が何と9時間も遅れ、北京のホテルに到着したのは夜10時になってしまいました。結局、開催式と歓迎レセプションには出席できず、ホテル到着後、疲れ果てて眠ってしまいました。さらにホテルではLANが有料でした。そのため、これから10日間ほどは夜はインターネットなしで生活することにしました。

今回の私とダンの予定は、アモイ(現、シァメン)在住の陈栋华(チェン・トンファー)氏が立ててくれました。氏は、3年前に上海で開催されたICQの会合のお世話をしていただいた方で、皆既日食を見るために日食の前日に800km離れた武漢(ウーハン)までの大旅行に私たちを誘った方です。この陈氏は、どういう訳かひじょうに多くの中国の天文学者をご存知で、今回、徐君君(シュ・ジュンジュン)さんを紹介してくれました。また、氏自身もアモイから上海経由で北京まで2300kmの旅行をされて、私たちに会いに来てくれました。翌日8月22日に受付に出向くと、デスクには幸いにもその君君さんがいました。彼女に「ダンも今日、到着予定だ」と伝えておきました。その日に発行されたIAUの日刊紙によると、開催式には中国国家副主席(当時)の習近平氏が出席し、開催の挨拶を行ったとのことです。

8月23日朝、会場に出かけ、メイルをチェックすると、前日の21時15分に茅ヶ崎の広瀬洋治氏から「NGC 5611に超新星状天体(PSN)を発見しましたので報告します。発見写真を添付します。発見済みのSNは調べたのですが、見落としがあるかもしれません。よろしくお願いします」という超新星の発見報告が届いていました。そこには「2012年8月22日19時51分に35cm f/5.7 シュミット・カセグレン望遠鏡+CCDカメラを使用して、うしかい座にある系外銀河NGC 5611を撮影した捜索画像上に14.7等の超新星状天体を発見しました。この星の存在は、発見後に撮影された10枚の画像上に確認しました。超新星は、2012年5月13日(極限等級17.5等級)にこの銀河を捜索したときには、まだ出現していません。なおこの星は、銀河核から東に14"、北に6"離れた位置に出現しています」とありました。同じ会議場にいるダンに『昨夜はよく眠れたか』というメイルから始まる発見報告を送りました。11時23分のことです。

すると、12時34分に大崎の遊佐徹氏から「北京でのIAU総会、お疲れさまです。広瀬さんのPSNについての情報を受け取りました。米国のメイヒルは悪天候でルーフが閉まっています。大崎も雲が多く、夜も天候が悪いとの予報です。観測は明日以降になるかと思います」という連絡が届きます。そして、12時40分に広瀬氏に『明るいですね。もっと増光するのでしょうか。今、北京にいます。ホテルではLANが有料なので、今朝、IAUの会場で知りました。2時間ほど前に、未確認天体確認用ページ(TOCP)に入れました。ご覧ください』と発見は報告したことを連絡しておきました。

次の日(8月24日)に会場に出向くと、昨夜の20時22分に香取の野口敏秀氏から「この超新星の出現を発見した翌日8月23日の夕方19時48分に23cm f/6.3望遠鏡+CCDで確認しました。光度は14.9等でした」という報告と出現位置と銀河中心の測定値が届いていました。さらに、20時48分に広瀬氏からも「北京からTOCPに掲載していただきありがとうございます。こんな明るいPSNが単独発見とは驚きです。これも中野さんの素早い処理のおかげと感謝しています。こちらは今日(23日)も良い天気で、PSNは、先ほど確認できました」というメイルとともに「同日、野口氏と同じ時刻にPSNは14.9等」であったことが報告されていました。8月24日10時43分にこれらの観測をダンに報告しました。ダンによると「この超新星は、南米アジアゴにある1.22mガリレオ望遠鏡を使用して、8月24日04時頃にスペクトル観測が行われ、極大光度数日前のIa型の超新星であることが確認された」とのことでした。そして、この超新星は、8月25日04時41分到着のCBET 3209で公表されました。CBET 3209を見た広瀬氏からは22時51分に「このたびは、大変お世話になりました。おかげさまでSN 2012eiと正式認定されたようです。今日の画像を添付します。8月25日20時25分に14.6等でした。少し増光しているようです。これからもよろしくお願いします。ありがとうございました」というメイルが届きます。なお、広瀬氏の超新星発見は、これで8個目となります。

帰国後に『新天体発見情報No.192』を発行しました。それは『8月に開催されたIAU総会(北京)に出席の後、残務に終われ、報告が遅れました』で始まっていました。9月8日13時57分に広瀬氏から「このたびのSN 2012eiでは、大変お世話になり、ありがとうございました。8月20日からの1週間は空気が澄んでいて、普段は望遠鏡を向けないような領域(ゴルフ練習場方向のため)でも比較的よく見えました。そんな幸運に恵まれ発見することができました。しかし今はいつもの夏空に戻ってしまい、夕方の北東低空に位置する2012eiは、家から見ることができなくなってしまいました。ほんとにラッキーでした。これからもご迷惑をおかけすることがあると思いますが、よろしくお願いします」というお礼状がありました。また、9月9日18時31分には、野口氏から「新天体発見情報No.192をありがとうございます。観測報告ではなく、発見報告ができれば良いのですが……。広瀬さん。あらためまして、発見おめでとうございます。千葉・香取は田園地帯で、周囲の田んぼは稲刈り真っ最中です。刈った後の籾殻を田んぼで焼いていて、晴れているのに空が煙っています。困ったものです」というメイルも届いていました。

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