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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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071(2010年5〜6月)

超新星2010cr in NGC 5177

発見はさらに続きます。2010年5月15日夜ジャスコで買い物をして一旦自宅に戻り、『そろそろ出かけようか』と考えていた5月16日01時09分に、山形の板垣公一氏より携帯に電話があります。『また、何か見つけましたか』とたずねると、氏は「はい。NGC 5177に超新星です。今、送付しました」と話します。『では、これから処理します』と言って、01時35分にオフィスに出向いてきました。板垣氏からの発見第1報は、すでに23時46分に届いていました。そこには「NGC 5177に超新星らしき天体を発見しました。のちほど報告しますので、時間を下さい。よろしくお願いします」と書かれてありました。また5月16日00時46分には、スペインのゴンザレスより「マックノート彗星(2009 R1)が明るくなってきた。ブラジルのゴイアトの眼視観測では、彗星は5月15日17時に8.5等だった。スペインでも天候が回復してきた。私もカンタブリアン山で明日には観測できるだろう」というメイルが届いていました。さらに、上尾の門田健一氏からは00時56分に「おおっ、またまた発見ですね。こちらは、どんよりと曇っています。衛星画像で見ると、そちらも雲が広がっているようです。ひょっとして雲間からのご発見でしょうか」という連絡もありました。

そして板垣氏からは、その発見報告が01時08分に届いていました。そこには「60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2010年5月15日深夜23時40分におとめ座にあるNGC 5177を撮影した捜索画像上に17.0等の超新星状天体(PSN)を発見しました。この超新星は、発見後に撮られた10枚以上の画像上にその出現を確認しました。超新星は、過去の捜索画像上、およびDSS(Digital Sky Survey)にも、その姿は見られませんでした。しかし、5月1日に50cm f/6.0反射望遠鏡で撮影していた捜索画像を調べたところ、この超新星は16.3等の明るさで、すでに出現していたことが判明しました。超新星は、銀河核から東に11"、南に3"離れた位置に出現しています」という報告がありました。板垣氏からは、01時27分に門田氏に「はい。ほんの少しの晴れ間で見つけました。最悪の空でした。今は何も見えない……なんともならない空です。幸運でした」というメイルが送られていました。板垣氏のこの発見は、02時07分に中央局(CBAT)のダン(グリーン)に送付しました。02時14分には、板垣氏からこの発見報告が届いたという連絡がありました。

すると、02時16分に九州の山岡均氏より「この超新星、パロマーで見つかっています。しかしCBATに通報していないものです」という連絡があります。そこで、このことをダンに通報することにしましたが、まずゴンザレスに『ゴイアトの眼視光度を連絡してくれてありがとう。多分、彗星は6月下旬に2等級まで明るくなるだろう。我が国では5月11日に山口の吉本勝己氏、14日に生駒の永島和郎氏が観測しているが、例によって日本の眼視観測は、世界の光度見積より1等級ほど暗いものだ』というお礼を送っておきました。そして、02時28分にダンに「Yamaokaによると、Itagakiが発見した超新星はすでにパロマーの観測グループが4月16日に発見している。しかし中央局に報告していないものだ」ということを伝えておきました。するとダンより「そのことはまったく問題ない。今、Itagakiの発見を未確認天体のウェッブ・ページに入れるところだ。確認観測が得られれば報告してくれ。それでこのItagakiの発見を公表するつもりだ。パロマーの観測者は、発見は中央局に報告することが必要だということを知るべきだ」という返信が届きます。

『あいつ、5月1日の発見前の観測があることを見逃している。しょうがないなぁ……』と思っていると、02時46分に「おっと、いけない。Itagakiは、この超新星の2夜の観測を報告していた。これからすぐ公表する……」という追記のメイルが送られてきます。ダンからは、このあと03時31分までに、ここではちょっと公表できない4通のメイルが届きます。そしてダンとのやり取りが終了した03時30分に、板垣氏の発見したこの超新星が公表されたCBET 2281が到着しました。そして、この夜に行っていた4月から5月にかけて観測された彗星の軌道を、OAACSのEMESに07時00分に入れました。そして、07時44分に板垣氏の発見を伝える新天体発見情報No.161を報道各社に送付しました。なお板垣氏の超新星発見は、わずか6日前の5月9日に発見した超新星2010cp(本誌先月号参照)に続いて60個となり、氏が持つ我が国での超新星最多発見数をさらに更新しました。

発見公表後、08時24分には板垣氏から「拝見しました。このたびの発見は「変な」発見でした。1か月も前に発見、そして観測されていたのですから……。でも、これは私がコメントすべきことではなさそうです。ただ、穴があったら入りたい気持ちです。でも、ありがとうございました」というメイルが届きます。『板垣さん、お祝いのメイルが蓮尾隆一さん、遊佐徹さんからも届いています』。そして、門田氏から締めとなるメイルが5月17日00時50分に送られてきました。そこには「中野さん、いつもながらの手際よい対応、ご苦労さまでした。パロマーで見つけられていたとは驚きましたが、正式な報告を発見として扱ってくれたようですので、安心しました。板垣さん、このたびの超新星ご発見、心よりお祝い申し上げます。昨年、超新星50個達成の記事で取材にお伺いさせていただいた際には、発見は51個だったと思います。それから1年が経過しないうちにもう60個に達したとは、正に破竹の勢いですね。今後のさらなるご活躍を期待しています。微力ながら協力できれば幸いです。遊佐さん、また確認観測でご一緒しましょう。これから日本国内の天候は不順になってきますので、リモート観測に助けていただくかもしれません」と書かれてありました。

こぎつね座の新星状天体

門田健一氏の上のメイルにあるとおり、5月下旬になると次第に暑くなり、天候が悪い日も多くなってきました。しかし、5月28日は薄曇の寒い朝でした。その夜のことです。『そろそろ出かけようか……』と思っていた23時10分に掛川の西村栄男氏より電話があります。氏によると「新星らしき星(PN)を発見したが、確信が持てない」とのことでした。オフィスに出向いてくると、西村氏からのメイルは22時57分に届いていました。そこには「発見は、2010年5月28日00時49分にミノルタ120mm f/3.5レンズ+キヤノン5Dデジタル・カメラで撮影した画像からです。今回の天体は9等の恒星の近くで、金田宏さんのソフトでなければ検出できませんでした。金田さんのソフト以外ではフォトショップでもこれを確認しました。心配な点は、捜索範囲を新たに広げたことから、今年5月12日、17日、18日、22日の約1か月しか過去画像がないことです。これらの画像の極限等級は11.5等級くらいで、いずれも写っておりません。また、9等星の近くにあるゴーストの可能性があることです。確信を持てる点は、近くに変光星やDSSや2MASS画像にはこの星は存在しないことです。上記を判断して報告させていただきました。ご迷惑をお掛けするのではと心配しております。今夜晴れそうなら確認してから報告したいのですが、晴れそうにありません」と書かれてありました。

その後に西村氏から画像が送られてきます。発見画像では何かの天体があるようでした。そこでまず、氏の報告を5月29日01時08分にダンに伝えました。そこには『出現位置はKanedaソフトで測定されているためミスはないだろうが、のちほどチェックする』ことを伝えておきました。そして01時35分に西村氏に電話を入れ『これから測定してみるので、発見位置を切り取って送って欲しい』ことを伝えました。ダンへの報告を見た板垣公一氏からは、01時55分に「こぎつね座のPN、拝見しました。撮ってみたいのですが、山形はなんともならない空です」という連絡があります。西村氏から送られてきた画像からその出現位置は赤経21h22m54s.48、赤緯+25゚47'29".4となります。西村氏から報告があった位置と数秒ほど異なりますが、短焦点レンズでの撮影ですので、まぁこんなものでしょう。光度は10.7等、画像の極限等級は12.1等くらいです。西村氏が言う9等級の星からは北西に約40"ほど離れていますが、短焦点レンズでの画像ではすぐそばに写っています。これらのことを02時55分と03時26分にダンに伝えました。ただし、この日の朝はいずこも天候が悪く、天体の確認作業は行えませんでした。

しかしこの日(5月29日)の夕刻15時30分頃、大崎の遊佐徹氏が米国メイヒルにある30cm反射望遠鏡を遠隔操作して、発見位置を撮影してくれました。しかし氏によると「先ほどカーボンコピー(CC)でお送りしたとおり、西村氏のPNが存在しないという確認観測をCBATに送付しました。実は、私はこれまで「存在しない」天体の確認観測をしたことがありません。私なりに何度見ても当該位置にホシが存在しないのですが、見落としなのか写野のどこかで輝いているのか、もし実在していれば西村さんに申し訳ないという不安でいっぱいです。申し訳ありませんが、6枚加算のFITS画像(ダーク減算のみ)をお送りしますので、もしよろしければ皆さまにも確認いただけませんでしょうか」というメイルが17時43分に届きます。

報告されてくる発見の中で、真の発見は10個に1個くらいの率です。私も、何度も『これは違う』と報告者に言ってきましたが、人様の発見を否定することは誰にとっても勇気がいることです。大げさに言えばその方の人生にも影響してくることです。発見の否定は、もし本物であった場合、責任問題にもなります。そのため、発見の否定は自分の観測は間違いなく正しいという勇気を持って、かつ慎重に行わなければなりません。

遊佐氏の報告を見た西村氏から19時48分に「昨夜はありがとうございました。先ほど遊佐さんから画像をいただきました。残念ながら写っていなかったとのことです。原因を調べていますが、まず考えられるノイズは、赤緯をずらして写していますので、天空の同じ位置に出るとは考えられない。画像処理での何かのミスは、別に元画像があるので調べましたが、同様に写っているのでそれはない。近くの星のゴーストは、今までの経験から考えられない。他に考えられるのは、2009年3月に遭遇した「こぎつね座」のフレヤー星のようなものか(数時間の現象)ということが考えられますが、定かではありません。いずれにしても、皆様に大変ご迷惑をお掛けいたしました。特に中野さんには申し訳ないことをいたしました。今後も頑張りますのでお許しをいただきたいと思います。ほんとうにありがとうございました」というメイルが届きます。

もちろん、1つの観測で発見を否定することは好ましいことではありません。そのため、5月30日04時25分になって、門田氏に『念のため、一度撮影しておいてください』という依頼を送っておきました。門田氏からは5月31日03時24分に「今夜は曇天でしたが、晴れ間が出てきましたのでさきほど向けてみました。5月30.74日UTの画像を添付します。機材は25cm f/5.0反射+CCDです。添付のDSS画像(R,1991)のちょうど中央が報告の位置ですが、明るい星は見られませんでした。報告位置のすぐ南東の輝星はDSS画像と同様に写っています」という確認報告が届きます。そこで04時13分にダンに『Kadotaもまた、NishimuraのPNが存在しないということを確認した。未確認天体の掲載は外してくれ』というメイルを送っておきました。西村氏からは5月31日20時54分になって再び「ご迷惑をおかけしました」というメイルが届きます。そこで23時12分に『気にされずにまた頑張ってください。彗星の発見……を待っています』というメイルを送っておきました。西村氏からは6月1日21時29分に「メイルをいただき、ありがとうございました。中野さんのメイルで再出発の勇気がわいて来ました。今夜は久しぶりに晴れています。一眠りして捜索に出かけるつもりです。今後ともご指導をお願い申し上げます。本当にありがとうございました」というメイルが届きます。『西村さん。また頑張ってください』。

超新星2010dn in NGC 3184

そんなできごとがあった5月29/30日夜は快晴でした。一旦自宅に戻り、5月30日03時10分にオフィスに出かけるとき、カエルがうるさいほどガ〜ガ〜といっせいに鳴き始めていました。そろそろ入梅なのでしょうか……。しかし、この梅雨の雲は北の山形には届いていないようです。それから1日が過ぎた5月31日21時42分に、また板垣氏から携帯に電話があります。『最近発見が多いから……』と思って電話に出ると氏は「NGC 3184にPSNを見つけました」と話します。『それでは、これからジャスコで買い物をしてオフィスに向かいます』と言って電話を切りました。そしてオフィスに出向いてきたのは22時30分のことでした。しかし板垣氏からの報告がまだ届いていません。氏に電話を入れると「1分前に送りました」とのことです。メイル・フォルダーを見ると、氏の発見報告は22時46分に届いていました。

そこには「60cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、2010年5月31日夜21時32分におおぐま座にあるNGC 3184を撮影した捜索画像上に17.5等の超新星状天体を発見し、その後に撮られた10枚以上の画像上にこの出現を確認しました。発見10日前の2010年5月21日にこの銀河を捜索していましたが、そのときにはこの超新星は、まだ出現していません。また過去の捜索画像上、およびDSSにもその姿は見られません。超新星は銀河核から東に33"、北に61"離れた銀河の渦巻きの腕の中に出現しています。なお、この銀河は近接銀河の1つです」と書かれてありました。近接銀河に出現する超新星は重要な研究対象になります。そのため、23時10分に氏の発見をダンに送付しました。その報告を見た遊佐氏から23時26分に「大崎は一面の薄曇りです。板垣さんのPSNは、明日の昼にメイヒルでチャレンジします。ただ、明日は1日外回りの予定で時間がとれないかもしれません。その場合でも、宵の早い時間に大崎で狙ってみます。NGC 3184は美しい渦巻き銀河ですね……」というメイルが戻ってきました。この日は昼間に起きていたので、6月1日00時10分に自宅に戻り、睡眠を取ることにしました。

再びオフィスに戻って来たのは04時20分のことです。すると、門田氏から6月1日01時31分に「先ほど帰宅しましたが、今夜は曇っています。もう高度は4゚くらいですので、深夜帰宅では観測が難しい場所です」という連絡、03時44分には板垣氏より「おはようございます。朝まで快晴でした。昨日の夕方熱海から戻り、そのまま山に来ました。ダンへの報告を拝見しました。遅くなってすみません。久しぶりに晴れたので、楽しくてノンストップで捜索していました。ありがとうございます。お休みなさい」というメイルも届いていました。

その夜(6月1/2日)オフィスに出向くと、18時04分、遊佐氏から「外回りから今戻りました。メイヒルのリモート観測はできませんでした。これから大崎の天文台の準備を始めます。西から雲が湧いていますが……」というメイルが届いていました。そして21時34分には、氏からダンに「6月1日20時30分に大崎の30cm f/8.2反射望遠鏡でこの超新星を確認した。このとき超新星は17.1等であった」と伝えられていました。この確認を受け取ったダンは6月1日23時28分到着のCBET 2299で板垣氏の発見を公表しました。これを見た板垣氏からは、6月2日03時55分に「おはようございます。昨夜のPSN、お陰さまでSN2010dnとして公表されました。遊佐さん、確認観測ありがとうございます。ところでこの銀河にしては超新星は暗すぎます。昨夜も同じ明るさでした。吸収が大きいのか? それとも……、とても楽しみです。本当にありがとうございました。お休みなさい」というお礼が送られていました。その日の朝になって、この発見を伝える新天体発見情報No.162を報道各社に送りました。06時49分のことです。

遊佐氏からは06時53分に「おはようございます。SN2010dnとして公表されていましたね。板垣さん、おめでとうございます。フェイスオンの美しい銀河に出現しましたね。このNGC 3184には、1999年に串田麗樹さんがSN1999giを発見していますね。過去の超新星を調べてみるとそれ以外にも、SNe 1921B、1921C(1年に2個!)、1937Fとこの100年間で5個目になります。これからの光度変化が気になりますね。明るくなることを期待しています。私の画像ですが、フラット補正がうまくいかず汚い画像になってしまいました。何度フラットを取り直しても右下の黒い穴が補正できません。冷やしすぎて結露していたのかもしれません。もうすぐSTL-1001Eがやってきますが、それまで16年もののST-6に頑張ってもらいます」というメイル、6月4日02時28分になってこの発見の締めとなる門田氏からのメイルが送られてきました。そこには「昼間の仕事が忙しく、いろいろお返事が遅くなりすみません。板垣さん、このたびのご発見誠におめでとうございます。続報によるとLBV(系外銀河に出現した大きな変光星の一種)だったようですね。先日画像を提供しましたSN2010Uは、明るい新星だったという論文が公表されました。この星はどのように研究が進むかワクワクします。中野さん、的確な対応と新天体発見情報をいつもありがとうございます。深夜帰宅で間に合いませんでしたが、遊佐さんの活躍により確認されましたので安心しました」と書かれてありました。

なお、私の方からは、遊佐氏のメイルにある串田さんの超新星1999giの画像を『麗樹さんのSN1999giの画像(1999年12月12日、14.3等)がありました。近接銀河の場合、これくらい明るくないと超新星ではないのかもしれませんね』というコメントをつけてみなさんに送っておきました。

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