天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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2009年5月2日発売「星ナビ」6月号に掲載

アンドロメダ銀河の新星(Nova 2008-09c in M31)、モルニヤ1-32衛星(1976-006A)、わし座新星 2008=V1721 Aquilae、高速移動天体 2008 SE

2008年9月22日22時11分、山形の板垣公一氏から60-cm反射で9月22日21時52分に「アンドロメダ銀河を撮影した捜索画像上に17.3等の新星を発見した」との報告が届きます。氏によると、9月9日に捜索した極限等級が19.5等級の画像には、この新星の出現はまだ見られないとのことです。板垣氏からは、さらに、9月23日01時37分に行われた観測も届きます。03時22分になって中央局のダン(グリーン)に氏の発見を報告しました。その30分後の03時54分に、上尾の門田健一氏より「水蒸気が多くあまり条件が良くない空で写るかどうか微妙な明るさですが、150秒露出で撮像を始めました。修理に出していた赤道儀が戻ってきました。今夜は望遠鏡を組み立てて調整していました。なんとか観測できる状態になりましたが、まだ配線が途中ですので大きく視野を動かす時は監視が必要な状況です」という返信があります。そして、04時51分には「DSS画像と比べてこちらの画像でDSSには写っていない暗い星に気がつきました。水蒸気が多く空の条件がよくなかったため、150秒露出の画像を10枚コンポジットしたところなんとか写ってくれました。光度は17.5等です。なお、25-cm反射使用で、位置はGSC-ACT、光度はTycho-2 (V等級)で測定しました。極限等級は18.7等でした」と、この星の存在を確認できました。そこで、05時33分にこのことをダンに報告しました。

M31の新星の処理は、一般にはこれで終了するはずでした。板垣氏からも、9月23日08時22分に「おはようございます。中野さん。西はりまではたいへんお世話になりました。中野さんの講演をドキドキしながら聞いていました。とてもすばらしいお話しでした。私は、栃木に寄って機材などのメンテをして、昨夕、家に戻りました。そのまま山に来て捜索をしましたが、03時ころには完全に曇ってしまったので休止し今起きました。報告をありがとうございます。門田さん、とてもご苦労をお掛けしました。「150秒露出の画像を10枚」とのこと、頭が下がります。ほんとうにありがとうございます。ところで、昨夜23時に21-cmによる自動掃天で、わし座にもう一つ矮新星らしき14.0等の暗い天体がありましたので、九大の山岡均氏に調べていただくよう連絡しました。ありがとうございました」というメイルが届いていました。

9月24日は、たまっていた世俗との雑用を済ませるのに16時ころまで眠れませんでした。そのため、ドカ〜と疲れてしまい、その夜、目を覚ますと9月25日00時30分になっていました。急いで身支度を整えて、オフィスに出向いてきたのは01時15分のことでした。メイルを見ました。すると、板垣氏の発見した矮新星は9月24日15時02分に到着したCBET 1512ですでに公表されていました。それをざ〜っと見ると「この星のスペクトル観測によると、どうも新星のようだ』と報告されていました。『へぇ〜、新星だったのか。暗い発見も馬鹿にできない。板垣さん。得をしたなぁ……』と思いながら、それを読みました。

雲状天体の写真

そして、メイル・リストの下の方に目を向けると、9月25日00時12分に水戸の櫻井幸夫氏より1通のメイルが届いていました。そこには「先日はいろいろとありがとうございました。さて本日、捜索写真を撮影中、19時03分〜42分ごろに、はくちょう座に不思議な雲状天体を見ました。1分間に20'ほどの速さでほぼ真東に移動していきました。はじめは、卵を2個並べたような形状でしたが、途中で棒状になったり、4個に分裂しそうになったり、かすんで見えなくなったかと思うと、また急激に明るくなったりと、とても不思議な変化をしていました。途中、何度も雲に邪魔されながらもついつい1時間近くも追いかけてしまいました。人工的な雲(アポジモーター等の点火)かもしれませんが、念のため写真を送ります。なお、調査等につきましては時間の空いたときでけっこうです。お手数をかけますがよろしくお願いいたします」というメイルが届きます(文章では形状がよくわかりませんので、この「新天体発見情報」コーナーでは初めて写真を掲載します)。

この天体は、門田氏と美星の橋本就安氏に調査してもらうことにして、氏のメイルを転送しておきました。門田氏からは、01時48分に「人工的なものだと思いますが、人工衛星のデータが手元にないため同定はできませんでした。2つの物体がランデブーしているようですが何でしょうね?」という連絡があります。02時01分には、そのことを櫻井氏に伝えておきました。櫻井氏からは、06時39分になって「さっそく手配をしていただきましてありがとうございます。最初のうちは、地球に接近したコメットのバーストではなかろうか……などと手前勝手な解釈をしてわくわくしながら写真を撮りました。冷静になってから、これはやはり人工的なものだと思いましたが、美星の橋本さんには面識がないためつい中野さんに頼ってしまいました。お忙しいところ申し訳ありません。どうかご容赦ください」という返事が届いていました。

それから3か月以上が過ぎた2009年1月2日になって、橋本氏から1通のメイルが届きます。そこには「まずはあけましておめでとうございます。さて、昨年、お問い合わせの水戸市の櫻井幸夫さんが観測した不明天体の件ですが、返事がたいへん遅くなり申し訳ありません。年を越してしまいました。ようやくその正体ではないかと思われる天体を探し出すことができました。その衛星名は旧ソ連のモルニヤ1-32(1976-006A)です。中野さんからの依頼があった時に、天球上の位置を2枚目の写真から赤経が19h42m.3、赤緯が+50゚.8と測定し、観測場所の経度と緯度を北緯+35゚40'.6、東経140゚28'.0と推定し、検索ソフトで同時刻に目撃された位置の近くを通過する衛星を調べましたが、該当衛星が見つかりません。直前の2008年9月24日18時28分JSTに打ち上げられた静止衛星Galaxy19かと思いましたが、打ち上げ場所が大西洋の赤道上ですから軌道傾斜角度は0゚となり、はくちょう座に見えることはあり得ません。また、9月19日に打ち上げの静止衛星Nimiq-4はバイコヌール宇宙基地から打ち上げられておりますが、軌道面が一致しませんでした。この時点で、該当する衛星はないと返事すれば良かったかもしれませんが、状況からみて人工天体と思いましたのでもう少し軌道データが出揃うのを待つことにしました。

10月10日ごろに全衛星の軌道データを読み込んで検索しましたが、やはり該当衛星が見つかりません。11月にも計算しましたがダメでした。12月になって、時刻を1分ごと変えて検索することとしました。すると、目撃位置に10゚くらいに近づく6個の人工天体が見つかりました。その1つが1976年に打ち上げられたモルニヤ1-32衛星です。この衛星は、9月下旬ごろから軌道が大きく変化しました。打ち上げられてから32年以上も経過しており、すでにデブリとなっているものと予想されます。しかし、おそらく衛星に残っていた燃料が9月下旬ごろから徐々に漏れ出し軌道が変化したものと思われます。そして、11月29日から軌道の変化はなくなっていますので、燃料が枯渇したと推定しております。なお、目撃された時の高さは約28525-kmです」とありました。

橋本氏のメイルを読んで『これはいったい何のことじゃ。櫻井氏の天体……。あいつ、新春の陽気でボンヤリしてるのか……』と思いましたが、よく考えてみると、はるか昔にそのような調査を依頼したことがありました。『あぁ……、そうだった。昨年9月に……』とようやく思い出し、氏のメイルを読み直して、櫻井氏と門田氏にそのことを連絡しました。櫻井氏からはお礼のメイルが届きました。

さて、アンドロメダ銀河の新星の話が続きます。その日(9月25日)の夜は、23時まで寝過してしまったために、予定していた買い物を近くのコンビニで済ませ、23時55分にオフィスに出向いてきました。すると、22時02分に九州の西山浩一氏と椛島冨士夫氏から1通のメイルが届いていました。そこには「2008年9月19日22時36分にM31を撮影した捜索画像上に16.7等星の新星を見つけました。この新星は、9月22日00時14分に撮影した画像上に17.3等で確認しました。新星は、銀河核から東に79"、南に855"ほど離れた位置に出現しています。9月9日と10日に撮影した極限等級が19.7等の画像上にはまだ出現していません。なお、中央局のM31 Novaウェッブ・サイトには、2008-09b以下がないことを確認しました。ただし、9月19日にAstronomical Telegramを見ると、すでに記載されていたために報告しませんでした。しかしその後、M31サイトに掲載されないので、9月21日の確認観測を含めて報告します」という報告がありました。出現位置を見ると、これは9月22日に板垣氏が発見した新星と同じものです。

『うぅ〜ん。どうしょうかなぁ……』と思っていると、その1時間後の22時28分に再度彼らから「先に送りましたM31の新星は、報告を送った後、再度、M31サイトを確認すると、2008-09cとして記載されていました。すみません」というメイルも届いていました。また、しばらく考えていると9月26日00時13分に板垣氏に宛てた門田氏の返信が転送されて届きます。そこには「都合がつかず、西はりまの会議には参加できませんでしたが、発見者が一堂に会してたくさんの話題で盛り上がったことでしょう。新星は2008-09cとしてM31の新星のウェッブ・ページに掲載されましたね。おめでとうございます。なかなか公表されなかったので、こちらの極限等級が浅かったためかと思って心配していました。コンポジットは時間と手間が掛かりますが、小口径で極限等級をアップさせるためには欠かせない観測方法です。露出時間と枚数は、空の状態と天体の光度で決めています。もう1つの矮新星ですが、新天体を続けてのご発見すごいですね。機会がありましたら21-cmのサーベイ・システムを拝見してみたいです。ジャコビニ彗星の件で紹介されるのでしょうか? あっ……、それと「星ナビ」の取材にご協力いただきありがとうございました。記事掲載を楽しみにしています。ジャコビニ彗星は分裂で増光したのでしょう。2つの分裂核が確認されていますがさらに見つかるかもしれませんね」と最近の状況が書かれてありました。そして、西山・椛島両氏の発見を、独立発見としてダンに送付したのが01時29分のことです。

翌9月27日になって、02時すぎに西山氏から電話があります。「超新星サーベイで、17等級の動きの速い小惑星が捜索写野に飛び込んできました。これはまるもうけと思って調べてみると、残念なことにこの小惑星は、すでに9月20日に発見が報告された2008 SEであることがわかりました。これから観測を送ります」という連絡でした。その後、02時59分、03時38分、04時07分、05時07分と合計4回にわたって計20個の追跡観測が届きます。それ以後、報告が止まりました。薄明となったのでしょう。そこで、05時42分に氏らの観測を小惑星センターに送付するとともに『九州の西山・椛島氏は、超新星サーベイの過程でM33銀河を撮影した捜索フレーム上に17等級の高速移動天体を見つけました。しかし、この天体は、すでに2008年9月20日に発見されていた2008 SEと同定されました。この小惑星は、2008年10月10日UTに地球に0.238 AUまで接近し、16等級まで明るくなります』というコメントをつけて、OAA/CSのEMESに入れ、仲間に送りました。

同じ日の朝、板垣氏から門田氏への返信が届きます。そこには、「おはようございます。門田さん。サーバーに過去のメールが多くなりすぎてパンクしたようです。今度は大丈夫です。すみませんでした。確認観測など何かとありがとうございます。中野さん。今、「OAAの賞金」のこと拝見しました。ありがとうございます。矮新星を省いて減額すること、問題ありません。ところで、今度の矮新星は今まで見たことのないスペクトルとのことでした。だから、分光観測で膨張を確認してるのに、今も「POSSIBLE」なんだそうです。また、9月22日か24日の観測では14.0等〜14.1等なのに26日には18等級まで暗くなったのだそうです。こんな急激な減光も不思議です。重ね重ねありがとうございます」と、氏が9月22日に発見した矮新星のその後のことも書かれてありました。

その日(9月27日)の夜になって、2008 SEの2個の追跡観測が九州から届きます。そこには「このあと完全に曇ってしまいました。もし、許されるならば、われわれの天文台(D62)の測定誤差はどの程度でしょうか? 焦点距離が長いので、まあまあと思いますが……」と書かれてありました。『あれ〜。EMESを見ていないのかなぁ……』と思いながら、9月28日03時01分になってそれを彼らに再度送っておきました。

それから1週間ほどが過ぎた10月4日01時47分になって、CBET 1512での公表以来、新星状天体(PN)のままとなっているわし座の新星について、いつまで待っても正式に新星との公表がないため、しびれを切らしたのか、板垣氏より「これは特別なお願いです。わし座の新星状天体の私の観測を報告します。すみませんが、中央局にいつまでもPNですかとお訊ねしてくださるとうれしいのですが……」というメイルが届きます。氏のメイルには、これまでに報告があった観測以外に、その後の新星の光度として、9月27日に15.8等、28日に16.1等、29日に16.5等、10月1日に16.7等、2日に16.9等、3日に17.1等であったことが報告されていました。そこで、これらの観測をダンに送るとともに『この星は、CBET 1512にあるとおり、従来からの新星なのか。そうなら、なぜそれを公表しない』という板垣氏からの問い合わせを送っておきました。10月4日02時10分のことです。

すると、04時43分にIAUC 8989が到着します。そこには、板垣氏の矮新星(PN)が正式に新星として公表されていました。08時03分には、それを見た板垣氏から札幌の金田宏氏に宛てたメイルが転送されて届きます。そこには「おはようございます。中野さんから、ダンにどうしてPNのままなのかを訊ねていただきました。そうしたら、偶然かもしれませんが、まもなく新星情報が出ました」と書かれてありました。『板垣さん。新星を1個、得しましたね』。なお、このころ、板垣氏がM31に発見した新星状天体の問答がずっと続いていました。

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超新星 SN 2008fv in NGC 3147

日付が少しバックして9月28日の明け方のことです。この夜は、九州から第5回目の2008 SEの報告、美星からは離心率の多少大きい小惑星(A01329)の発見報告、その追跡を各地に依頼した夜でした。その夜の明け方、午前04時ごろ、山形の板垣公一氏から「03時45分に北天りゅう座にある系外銀河NGC 3147を60-cm f/5.7反射望遠鏡+CCD使用して20秒露光で撮影した捜索フレーム上に、16.5等の超新星を発見した」と連絡があります。なお、この発見は、氏の今年6番目(当時)の超新星発見となります。その報告が04時25分に届きます。そこには「発見は、2008年9月28日03時45分です。10枚以上の画像で出現を確認しました。その極限等級は19.0等です。30分の追跡で移動は認められません。2007年2月25日までに捜索した多数の画像にもその姿はありません。なお、この銀河には、SN 2006giが出現していますが、それは私が発見したものです」という報告とその出現位置、銀河中心の測定位置が書かれてありました。氏のこの発見は04時37分にダンに送付しました。すると、04時46分に発見画像が届きます。超新星は、銀河の腕の中に出現していますが、明瞭に超新星だとわかる天体でした。05時00分になって、板垣氏からが超新星2006giの発見画像も届きます。この超新星は、銀河核からはるかに離れた位置に出現した超新星でした。

この日(9月28日)の夕刻は、空は、曇っていました。予報によると、関東まで似たような天候とのことです。この夜は、20時10分に自宅を出発し、久しぶりに南淡路に向かいました。そして、買い物をして、最後に洲本のジャスコにも出かけ、オフィスに出向いてきたのは、21時52分のことです。すると、その日の朝、09時23分に板垣氏から「PSN NGC 3147のことですが、よく調べたら、今年9月10日UTに撮影した捜索画像がありました。極限等級は18.5等ですが写っていません。ということは、爆発してからそんなに経っていません。それにしても同じ銀河に幸運です。とてもうれしいです」というメイルが届いていました。もちろん、氏のこの報告は、22時07分にダンに送付しておきました。すると、22時08分に上尾の門田健一氏から「わずか半ヶ月ほどの期間で、彗星・新星・超新星を発見されたとのことで、まさに八面六臂のご活躍ですね。明るく十分な離角ですので、確認できそうですが、残念ながら小雨が降っています」という連絡があります。

『やはり、関東もダメか……』と思っていると、23時13分に板垣氏からのメイルが届きます。山形は、晴天であったようです。そこには「こんばんは。びっくりです。超新星の光度は16.1等と、確実に明るくなっています。若いIa型なんでしょうか?次の観測は画像10枚の平均値です」という報告がありました。そこで、23時41分に板垣氏のこの確認をダンに送付しました。ダンは、その夜の9月29日03時22分にCBET 1520を発行し、この発見を公表してくれました。それを見た板垣氏から05時29分に「おはようございます。お陰さまで、SUPERNOVA 2008fv IN NGC 3147になりました。昨夜は、雨でも降りそうな空でしたが、奇跡的にその銀河のところだけ、少し晴れ間が出て観測できました。観測後は、全天ぶ厚い雨雲に覆われてしまいました。また、このところ幸運が続き、自分でも何がなんだかわからなくなっています。この幸運も中野さん始め、多くの皆さんに支えられての成果だと心より感謝をしています。本当にありがとうございました」というメイルが届きます。なお、この超新星の出現は、9月28日21ごろにブラジルのジャッキーズらによっても確認されました。彼らはその光度を15.6等と報告しています。なお、板垣氏はこれで40個目の超新星を発見したことになります。いったい氏の発見数はどこまで伸びるのでしょうか。

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