天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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超新星 SN2008A in NGC634

茅ヶ崎の広瀬洋治氏が1月1日朝に発見した超新星2007uyの公表は1月2日23時26分到着のIAUC 8908で行われました。しかし、1月2日夜に報告された吉見の市村義美氏がNGC 634に発見した超新星(のちの2008A)、広瀬氏が同夜にNGC 7798に発見した超新星状天体(PSN)、さらに同夜、うお座に発見された新彗星状天体、その夜1月3日朝に山形の板垣公一氏が栃木の観測所で発見した超新星(同じく2008B)の確認作業は、まだ続いていました。その1月3日の夜は『さぁ……、たくさんのメイルが届いているぞ……』と期待しながら、23時50分にオフィスに出向いてきました。すると20時03分に板垣氏から届いたメイルまで、先月号に紹介した8通のメイルが届いていました(なお、先月号の最後の段落をまずお読みください。そうしないと、ここでのお話がつながりません)。

さらにメイルは続いていました。まず、上尾の門田健一氏から広瀬氏宛に「なお、先ほどのメイルで、板垣さんの過去画像を転送するのを忘れていましたので添付します」というメイルとその画像が広瀬氏に送られていました。20時51分には、その広瀬氏から「板垣さんと電話で話しました。さらに門田さんからメイルをいただきました。最新の画像を添付します。どう思われますか。腕のこぶの位置ですが、イメージが良いと恒星状に写ります」というメイルと画像が届いています。続いて、21時05分には、門田氏から、板垣氏の18時23分の確認、広瀬氏から18時38分の確認に続いて「NGC 634の超新星を確認しました。報告の位置に17.0等の星が存在します。25-cm f/5.0 反射+CCDの観測で、位置はGSC-ACTカタログ、光度はTycho-2(V等級)カタログで測定しました。画像の極限等級は19.1等でした」という報告とともにその測定位置が届いていました。

さらに21時20分に、門田氏からNGC 7798のPSNについて、「Digital Sky Survey(DSS)の画像、および板垣さんの画像と、そちらの画像を比べると銀河の集光部が写ったように見えますが、集光部よりPSNがわずかに西寄り(画像上で右寄り)のような気もします。そちらの機材で集光部が同じように写るとは限りませんので、PSNが写っていない過去画像と比べてみてはいかがしょうか。比較の際は、S/Nを上げるために複数フレームをコンポジットしてみてください。板垣さん、過去画像と今夜の画像をブリンクしてみてください。集光部の位置はまったく同じでしょうか」というメイルが広瀬氏と板垣氏に送られていました。

板垣氏からの返答が22時44分に届いています。そこには「私のソフトでは焦点距離が違うとブリンクができないようです。過去画像と今日の画像を測定してみました。今日の画像は、見た目では東西に少し長い感じがします。光度の測定は比較のために修正をしていません。本当はもっと暗いです。私の画像ではなんとも言えませんが、広瀬さんと話をした感じでは本物のようです」という返信が送られていました。しかし、板垣氏が2006年に撮影した過去画像上にあるHII領域の集光部の位置と、この夜に撮影された広瀬氏の超新星状の天体の位置と光度は、ほぼ完全に一致していました。そのメイルを見た門田氏からは「どうもお手数でした。簡単にブリンク表示ができると思ったのですが、機材が違ったのですね。PSNの出現位置と集光部の位置は、ピクセル分解能よりずっと小さいバラツキで一致しているようです。測定位置を見ると、光度が相対的に測定されているなら、集光部が明るくなっているようです。広瀬さん、発見の報告時に過去画像をチェック済みでしたが、念のため(写り具合の違いを除去した)コンポジット画像で再度チェックしてみても過去には集光部が写っていないですか」というメイルが送られていました。

さて、まず、最初に存在が確認されたNGC 634の超新星を処理することにしました。そして『板垣氏、広瀬氏、門田氏の測定位置とその光度、そして電話で連絡のあった市村氏のこの夜の超新星の光度観測』をダンに連絡したのは、1月4日00時24分のことです。続いて、ファックスで届いていた彗星状天体と広瀬氏のPSNの処理を同時に行うことにしました。当夜に送られてきたファックスには「今夜、確認しようと捜索場所に出向き、16時くらいから準備を整えましたが、夕方から雲が広がり始め全天ベタ曇りになりダメでした。事情をお話ししておいた森町の池谷薫さんから20時に電話がありました。池谷さんによると「私が報告した位置とその周辺を見たが、何もなかった」とのことでした。そのため、私の誤報のようです。申し訳ございません。何を見てどう間違えたのか私なりに検証して反省してみます。また、新彗星の確認の仕方、判断の方法についても再検討してみます。申し訳ありませんでした」と書かれてありました。先月号にも紹介したとおり、この彗星状天体については、昨日の発見時に、板垣さんも発見現場を捜索しています。そのため、報告された位置に彗星は存在しないことがこれではっきりしました。そこで、まず、19時53分に届いていた門田氏のメイルに『返事が遅れましたが、曇っているので、代わりに池谷さんが確認したところ、彗星はないようです。ご苦労様でした』と返信しました。1月4日00時41分のことです。

01時02分になって門田氏より、広瀬氏から送られたNGC 7798を撮影した3組の画像の細目な調査の結果が届きます。氏の調査では、結局「星らしき像も確認できるが、銀河の集光部が明るくなっていることも否定できないために、PSNの存在は判断できない」とのことでした。そこで、ダンには01時17分に『NGC 7798のPSNについては、Itagakiが2006年に行っていた捜索画像には、PSNの出現位置にHII領域の塊が見られる。そのため、Hiroseは、これを観測した可能性がある。一方、1月2日と3日にHiroseが撮影した画像上では、この塊は星のように見られる。Hiroseは、その今夜の光度を16.3等と報告している。いずれにしろ、このPSNについてはスペクトル確認がまず必要であろう』というメイルを送付しました。その6分後の01時23分には、門田氏より広瀬氏に送ったメイルが届きます。そこには、門田氏と広瀬氏のやり取りが私に伝わっているかどうかを心配した広瀬氏が、門田氏に「中野さんにもその旨を連絡していただけますか」ということが書かれていました。門田氏は、広瀬氏に「中野さんには、Cc(Carbon copy)で送っていますので、状況はすべて伝わっています。今夜の確認結果などが中央局に報告されて、スペクトル待ちになったようですね」というメイルが送られていました。

さて、彗星状天体に決着をつけるために、昨日に伝えてあった板垣氏の捜索結果に続いて、池谷氏の「彗星状天体はない」という確認結果を02時57分にダンに報告しました。なお、このメイルには、1月3日10時16分に届いていた星の広場発行のHAL423号に出ていた「橋本の岩城好高氏が1月2日に行った8P/Tuttleの観測では、彗星は、眼視光度で5.6等と増光している」ことを伝えておきました。ついでに『昨夜、今夜とこの彗星を観測しようとしたが、忙しくて観測できなかった。明日の夜は誰にも妨げられないことを願っている』と書き添えておきました。その7分後の03時04分、市村氏の超新星2008Aの発見を告げるCBET 1193が到着します。なお、この超新星は、今年(2008年)発見された第1号超新星となりました。この回報は、03時16分に発見者に送付しておきました。これで溜まっていた仕事の1つは片付きました。

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超新星 SN2008B in NGC5829

『次は、板垣さんの超新星か……』と思ったそのとき、03時17分、つまり市村氏に氏の超新星発見が公表されたことを伝えた1分後に門田氏からメイルが届きます。そこには「NGC 5829のPSN、観測を始めました。1枚目の画像を見たところ、DSS(R, 1991年撮影)に写っていない星が存在しています。S/N比を上げるため、しばらく連続撮影します」という報告があります。『これで、第2夜目の確認観測が得られそうだ』と安心していると、続いてその5分後、板垣氏からも「昨夜のNGC 5829のPSNの観測です。確実に存在します」と、その位置と光度が報告されます。氏の光度は16.6等と多少暗くなっていました。そして、観測が終了した門田氏からも03時59分に「発見位置に16.7等の明瞭な恒星像が存在します。画像の極限等級は18.6等でした」とその確認が報告されます。そこで、両氏の観測をダンへ報告しました。04時28分のことです。

そのあと、市村氏の超新星2008Aの発見を告げる「新天体発見情報No.117」を編集し、05時00分に報道各社に送付しました。この発見情報は、市村氏にも04時48分に『発見情報No.117をお送りします。目測光度は、やはり少し暗いと思います。(アストロアーツ社の)ステライメージを使っているのでしたっけ……。そうでなければ、これに変えた方が良いと思います。私は、イタリアのastrartsというソフトを使っていますが、両ソフトとも、ほぼ、同じ測光値が出ます』というメイルとともに送っておきました。『これで板垣氏発見の処理も終わった』と思っていたそのとき、05時07分に広瀬氏からも、板垣氏が発見した超新星の確認観測が届きます。そこで、氏の観測も05時23分にダンに伝えておきました。そのメイルには『非常に手早くSN 2008Aを公表してくれてありがとう』とつけ加えておきました。ダンは、それからわずかに37分後には、板垣氏が発見したこの超新星を2008Bとして、05時44分到着のCBET 1194で公表してくれました。しかし、その記述に1つミスを見つけました。そのため、05時54分に『またまた早々と公表をありがとう。しかし、1つ記述ミスがあるのでそれを訂正してくれ』と伝えておきました。

そして、そのあと、板垣氏の超新星発見を告げる「新天体発見情報No.118」を編集していると、06時02分になって、ダンから先に報告した岩城氏についての問い合わせがあります。そこで、このあとダンからの質問に何度か答えながら、発見情報を06時30分、報道各社に送付しました。ところで、その間の06時06分には、板垣氏から「中野さん、門田さん、中央局への報告を拝見しました。夕方から夜明けまですみません。ありがとうございます」というお礼状が届いていました。しかし、氏の発見が公表されたCBET 1194については何も書かれてありません。もちろん、氏にも、この回報は、05時54分頃に到着したはずですが、このお礼状を書くときには、CBET 1194の到着に気づいてないようです。氏は、栃木に滞在のため、ファックスを受けられません。そこで、新天体発見情報No.118に『通常、ファックスで送るのですが、発見情報No.118を添付します』という連絡をつけて06時33分にメイルで送っておきました。なお、板垣氏は、これで35個目の超新星を発見したことになり、氏が持つ我が国での超新星最多発見数をさらに更新しました。

さて、板垣氏から報告のあった超新星の確認で、未確認の天体は、広瀬氏から報告のあったNGC 2770に出現した超新星状天体だけになりました。これで、少し安心して、この夜の業務は07時40分に終了し、実家に寄ってから帰宅しました。空はまだよく晴れていました。その夜(1月4日)は、20時15分に自宅を出て南淡路にあるジャスコに出向き、三原にあるリベラルに寄って数日分の買い物をして、22時00分にオフィスに出向いてきました。

すると、その朝、帰宅後の10時57分に板垣氏から「おはようございます。このたびは、何かとお世話になりまして、ほんとうにありがとうございました。今、起きまして、SN 2008Bになったことを知りました。今回は、いろんなことがありました。そのため、携帯電話からのネット接続の不便さを改めて感じました。でも、おかげさまで、とても良いお正月でした。まもなく山形に戻ります。広瀬さんのPSNは60-cmで見てみます。ありがとうございました」というメイルが届いていました、やはり、タッチの差で、氏が発見した超新星が公表されたことを知らないで眠ってしまったようです。

さらに、15時14分には市村氏から「今回もいろいろとご尽力いただき感謝しております。前回の発見時以来、中野さんのメイルのやり取りを見るにつけ、多くの人の尽力があっての発見だということを再度強く認識いたしました。また、報告に関しましても、いざとなると不備なものになってしまい反省しております。銀河と超新星の位置については、銀河はカタログの中心位置を、超新星については中心からのピクセル数をカウントして求めています。光度に関しては、ステライメージとUSNO光度を使っているのですが、他の方より1等ほど暗いようなので、他の方法を考えます。観測所の電話の調子が悪く、ネットに繋がらなくなってしまい、修理待ちです。やはり最新の情報を知る環境と観測のインフラの大切さを痛感しました。まだまだ寒い日が続きますが、風邪など召さぬよう心よりお祈りいたします。本年もよい年でありますように……」というお礼状、そして、広瀬氏からは、18時38分に「SN 2007uyの発見、NGC 7798のPSNの処置では、たいへんお世話になりありがとうございました。PSNの方を夕方18時頃から撮影していますが、どうもHII領域の写りとは違うように私には思えるのですがいかがでしょうか。どこかで、スペクトル観測していただけると幸いです。なお、観測データや写真では多大なご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。以後、データの扱いは慎重に行いたいと思います。では、今後ともよろしくお願いいたします」というメイルが届いていました。『お二方、それに板垣さん。今後もがんばってください』。

ところで、オフィスに到着と同時に彗星状天体についてのファックスがあります。そこには「本日4日、仕事を終えて帰宅し、空が晴れていることを確認し、機材を積み込み観測地に出かけました。19時頃、報告した位置に望遠鏡を向けてみました。高度も高く透明度も良好でしたが、報告した位置には3個ぐらいの微光星の集まりがちらちらと小さく輝くだけでした。前回に見たときは透明度が悪く、この星の集まりがぼんやりと見えたのかも知れません。とにかく、報告する前に確認する手順がいくらかありました。しかし、ブレーキがかからず報告してしまいました。多くの方にご迷惑をおかけしてしました……」と書かれてありました。でも、そのようなことを恐れていては新彗星の発見はありえません。どうぞ気になる天体はどんどん報告してください。今後のご活躍を期待しております。報告者にも、23時01分に『ご丁寧なファックスをいただきましたが、どうぞ、何も気にされないで、またがんばってください。みんな承知で作業をしていますので……。では、次の報告をお待ちしております』というメイルを送っておきました。

さて、広瀬氏のNGC 7798のPSNを除き、これで1月2/3日に報告されたすべての天体の処理も終了し、1月5日、6日、7日と静かな夜が続いていました。1月8日00時15分にオフィスに出向くと、その日の朝、1月7日08時33分にダンから1通のメイルが届いていました。そこには「マウント・ホプキンスで撮られたスペクトル解析によると、NGC 7798のPSNは、HII領域の輝きであることが判明した」という報告が書かれてありました。つまり、広瀬氏の発見の発見した超新星状天体は、超新星出現ではなかったことになります。まず、その8日の朝、04時32分にダンに『ありがとう。この情報は、このメイルの後、すぐ、Hiroseにも知らせておくことにする。マウント・ホプキンスにもお礼を言って欲しい。ところで、1月5日23時に10-cm f/6.5屈折+キヤノンKiss Digitalカメラで撮影した17P/Holmesの画像を送るよ。写野の広さは114'×76'だ。彗星は淡く、非常に拡散しており、画像は露光30秒の17枚のフレームがコンポジットされている。彗星のコマの視直径はおよそ65'だ』というメイルを送りました。なお、この画像は、http://www.cfa.harvard.edu/icq/0017P_41-0105A.JPGで見られます。そのあと、04時34分にこのメイルに『PSN in NGC 7798は、HII域の増光でした』という注釈をつけて、関係者に送付しました。

その1月8日の夕刻、15時45分には、広瀬氏より「了解しました。ありがとうございました。このたびは、いろいろお手数をかけ申し訳ありませんでした。今後ともよろしくお願いいたします」というメイル、また、板垣氏からは23時04分に「こんばんは。銀河の腕の中のHII領域の判断は、とても難しいですね。それも、超新星が一番出現しやすいところですからね。今年は、彗星捜索、可能性が0に近くても、捜索がとても楽しみです……。またよろしくお願いします」というメイルも届いていました。

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