天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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2008年7月5日発売「星ナビ」8月号に掲載

こぎつね座新星 2007 No.2=V459 Vulpeculae

2007年12月25日朝は、実家によって、09時00分に自宅に戻ってきました。久しぶりに犬ちゃんが待っていました。『おい。今夜は何の発見もなかったよ……』と話しながら、買っておいたコロッケとソーセージをあげました。その夜のできごとです。『もう21時か。そろそろ起きようか……』と思っていた21時29分、札幌の金田宏氏より電話があります。氏と話をするのは何十年ぶりかのことです。『何だろう……。渡辺くんでも死んだのか……』と思って、話を聞くと、氏は「その夜、17時すぎにこぎつね座を撮影した捜索フレームに新星を発見した」というのです。八束の安部裕史氏の新星発見と同じように『何で、おたくまで新星なんぞ、つまらん天体を……』と思いながら話を聞きました。氏によると「たった今、発見報告を送りました」とのことです。そこで『これから起きて、オフィスに出向きます』と伝えました。そして、22時10分に自宅を出て、途中でジャスコで食料品を買って、22時40分にオフィスに出向いてきました。

金田氏よりのメイルは、21時27分に届いていました。そこには「ご無沙汰しております。新星状天体(PN)を発見しましたので、確認依頼をお願いしたいと思います」というメイルとともに「2007年12月25日夕刻、17時30分頃にNikonデジタル・カメラD40+105-mm f/2.5レンズを使用して4秒露光で撮影した3枚の捜索フレーム上に8.7等の新星を発見しました。この新星は、今年10月以後に撮影した9夜の捜索フレーム上、さらに12月10日に撮影した極限等級が10等級のフレーム上には出現していません。また、Digital Sky Survey(DSS)にも、その出現位置から20"以内に13等より明るい星はありません。なお、105-mm レンズですので、測定位置には±15"ほどの誤差があります。光度の測光誤差は±0.3等くらいです」という発見報告が書かれてありました。

何と、金田氏までも本格的に新星捜索を行っているようでした。氏は多数の小惑星発見の経験者です。さらに、多くの整約ソフトを提供しています。従って、その発見と位置の測定にも、何ら問題もないでしょう。そのため、急いで氏の発見をダン(グリーン)に報告しようと、発見報告の作成を始めた22時45分に、金田氏から「いつもお世話になります。先ほどの新星状天体の発見画像をお送りします。捜索画像の写野は12゚.8×8゚.5、画素サイズは7.85μmです。中心位置は19h46m.0、+17゚13'です。PNの画像上のピクセル位置は、X=2195、Y=331です。静止で撮影していますので、北の方向は右上になります。露出は4秒です。今回は雪雲の通過で、写りは普段よりも悪いです。連続する3枚の画像に写っています。ただ、時間間隔が短いため移動はまったく分かりません。そのため、静止衛星ではないか、という疑問があります。お手数をおかけしますが、よろしくお願い致します」というメイルが発見画像とともに届きます。その画像を見ながら、23時11分に氏の発見をダンに伝えました。もちろん現地は12月25日朝です。「Have a Merry Christmas, today!」とともに、『金田氏は、過去に多数の小惑星を発見している信頼できる観測者だ』ということも伝えておきました。

すると、23時43分に金田氏から「早速にIAUにご報告いただきましてありがとうございます。その後、残りの撮影画像をチェックしていましたら、同じ位置を3分後に撮っていました。これにも確実に写っていますので、ほぼ新星に間違いないものと思います(静止衛星のように止まっていない)。この新たな測定値も報告します。光度は8.2等と測光されます。光度は発見画像よりも0.5等明るくなっていますが、これは発見画像は、雲の中だったため、暗く見積もったものと思われます。恐らくは8.2等あたりが、真に近いものと思います。サーベイの検査は測定ソフト(CCDF)で自動でやっています。参考までに検出した画面を添付しました。ありがとうございました」というメイルが届きます。そこで、この報告を12月26日00時04分にダンに伝えておきました。実は、金田氏の小惑星自動検出ソフトは、広く一般に使われています。その自動検出を新星に適用したようです。新星捜索者にとっては、またまた強敵が現れたものです。「新星なんて、動かんからつまらん……」と氏がすぐに飽きることを祈っていた方が良いのかもしれません。

01時05分になって、上尾の門田健一氏から「今、終電で帰宅しました。発見が続きますね。夕方の空ですので、帰宅が間にあわないため、こちらでの確認は見送りになりそうです。なお、年内は12月28日(金)まで出勤です」という連絡があります。また、山形の板垣公一氏から02時24分に「山形は晴れの予報ですが、全天べた曇りです。粘っていましたがあきらめました。もう寝ます。金田さんの新星、明るくなることを期待しています。明日の夕方は晴れますように……」というメイルも届きます。この夜は、07時40分に業務を終了し、実家に寄って、08時30分に帰宅しました。空は、どんよりと曇っていました。

金田氏の報告から、ちょうど1日ほどが過ぎた12月26日夜、21時20分に携帯が鳴ります。しかし、すぐ切れました。表示を見ると、津山の多胡昭彦氏でした。とっさに『氏も、この新星を見つけたな』と気づきました。そう思って、出かける準備を急いでいると、21時50分に再び、携帯に電話があります。多胡氏です。『何か、見つけましたか……』とたずねると、氏は「こぎつね座に新星らしきものを見つけました。でも、この前にも、この星座に新星(2008年4月号参照)が発見されているので、ちょっと、おかしいなと思うのですが……」と話します。もちろん『金田氏のPNを独立発見したんだ』と直感しました。しかし、多胡氏には金田氏の発見は何も伝えず、『メイルで発見報告をしてください』と頼みました。

そして、22時10分に自宅を出発して、ジャスコでその夜の買い物をしてから、オフィスに出向いてきたのは、22時40分のことでした。多胡氏からのメイルは21時51分に届いていました。そこには「今夜(12月26日)、Canon 20D+105-mm f/3.2レンズで15秒露光で撮影した2枚の捜索画像に8.3等の明るい新星状天体の姿が写っていました。確認依頼のため、メイルを送信します。写真は、最初に撮影したもの(18時06分50秒)を添付します。一応、The Sky等で小惑星と変光星に該当するものがあるのかどうか確認しました。なお、該当位置は、12月18日以後は、月光と曇天のため撮影していません」という報告と、その出現位置が書かれてありました。その位置を比較すると、金田氏と同じ星です。

さらに、その日の午後13時53分には、金田氏より「新星状天体につきましては、お手数をおかけしましたが、ありがとうございました。昨夜は雪雲が行きかい、南と西にやや晴れ間がある程度でした。30分後にはベタ曇りとなったので、本当にラッキーでした。今夜は札幌でも観測できそうですので、早い時刻から確認を行う予定です。昨夜は6枚の画像が得られていますので、まずは新星に間違いないと思うのですが、もう1夜観測するまでは心配なものです……。では、今後もよろしくお願い致します……」とメイルが届いていました。そして、14時13分には、門田氏より金田氏宛てに「帰宅が遅いため、夕空の確認観測ができず、申し訳ないです。札幌は晴れそうとのことで、少し安心しました。確認成功を期待しています」という連絡がありました。そして、17時25分には板垣氏からメイルがあります。氏は早々とこの新星を確認したようです。そこには「金田さんのPNです。60-cm f/5.7反射+CCDで12月26日17時13分に撮影した画像では、その光度は7.1等でした。明るくなっているようです」とその出現位置が報告されていました。その氏のメイルを見た門田氏から19時06分に「おおっ……、山形は晴れましたか! これで間違いないですね。ずいぶん早く観測できましたね。2つの星表からの位置と光度を整約されていますが、カタログの違いによる位置(光度)の差は微妙ですね。恒星の数と残差は、それぞれどれぐらいでしょうか。板垣さんの測定位置から、USNO-A2.0の恒星データを同定した結果です。ピタリの恒星はないようです」と新星出現以前にあった暗い星の検索結果が送られてきていました。また、門田氏からは「PNが眼視観測され、明るくなっているらしい」という情報も届いていました。

20時16分には、発見者の金田氏からも「私も確認観測ができましたので報告します。光度は、7.7等に増光していました。使用器材は発見と同じものです。18枚の画像の平均値で、光度は±0.2等以内に収まっています。色々とお手数をおかけしましたが、どうもありがとうございました」と新星が確認できたという報告があります。さらに氏は「USNO-B1.0カタログには、板垣さんの測定位置の近く0.6"ほどの位置に20等級の恒星があります。これが第一候補かもしれません」という検索結果がつけられていました。このメイルを見た門田氏からは、21時00分に「確認されたとのことで、おめでとうございます。クリスマス新星ですね。こちらでも、USNO-B1.0を確認してみました。お調べのとおり、同じ星が見つかりました。位置は極めて近いですので、金田さんの同定は間違いないように思います」という返答が金田氏に送られていました。

そこで、多胡氏の独立発見、板垣氏の精測位置、金田氏の再観測、暗い恒星との同定などをまとめて、ダンに報告しました。12月26日23時20分のことです。さらに、私の方で、多胡氏の発見画像から測定した新星の位置と光度を23時44分にダンに送っておきました。多胡氏の画像からも、新星の光度は、7.8等と新星は発見時から1等級近く増光していました。それから約2時間後にダンは、以上の報告をまとめて、金田氏の発見と多胡氏の独立発見を12月27日01時34分に到着のCBET 1181で公表しました。

この日の朝は、この年、最後の発行となる山本速報No.2576とNo.2577を発行して、10時15分に帰宅しました。その夜、オフィスに出向いてきたのは、12月28日00時05分のことでした。すると、その日の昼間、10時45分に多胡氏から「疑問天体について何かとお手配いただきましたことを厚くお礼申し上げます。また大変参考になる情報をお届けいただき、ありがとうございました。意味のないご迷惑な誤報でなかったことにほっとしています。少し体調を崩していましたので、メイル送信後すぐ休息し、中野様からのメイルを拝見するのが遅くなりました。改めてお礼申し上げます」、さらに10時47分には、金田氏から「このたびは本当にお世話になりました。ありがとうございました。板垣さんからCBET 1181を送っていただき、正式に公表されたことを知りました。私は「静止(固定)撮影で天体を発見」してみたい。固定でも、絶対に発見できるはずだと思っていました。この希望が叶い、今はとても満足しています。本当にありがとうございました。今後も、どうぞよろしくお願い致します」というお礼状が届いていました。

そこで、お二方には、12月28日01時08分に『今朝(12月27日)、新天体発見情報No.115を報道各社に送っておきました。ご連絡が遅くなりました。また、発行にご了解を得ませんでした。お詫び申し上げます。またがんばってください。ところで金田さん。OAAに入っていますか。そうならば賞金がもらえます』というメイルを送っておきました。その日の夜、20時31分には、金田氏より「新天体発見情報No.115やCBETを送っていただきましてありがとうございました。その後、昨夜(27日)、今夜とあまり天気が良くないものの観測ができました。光度は、12月27日17時に7.4等、28日17時に7.3等と見積もりました。いずれも同じ機材で4秒露光です。整約星表はヒッパルコスです。だいぶ増光幅が狭まってきたようです。今回は色々とお手数をおかけしましたが、本当にありがとうございました」というメイルが届いていました。

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超新星 SN2007uy in NGC2770

2007年12月31日は、その日の朝に大そうじをしたせいか、ぐっすりと眠ってしまいました。そのため、自宅を離れたのは、年が明けた2008年1月1日01時35分になっていました。しかし、近くのコンビニに寄ったとき、携帯を忘れてきたことに気づきます。仕方なく、もう一度自宅に戻り、オフィスに出向いてきたのは、02時05分になってしまいました。この夜は、最近の年始にしてはめずらしく快晴の空でした。

オフィスに出向いて、コンピュータに電源を入れ、まず一杯目のコーヒーを飲んでいたときのできごとです。02時48分に茅ヶ崎の広瀬洋治氏からメイルが届きます。「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。超新星状天体(PSN)を発見しましたので報告します。写真を貼付します」という超新星の発見報告でした。氏の報告には「2008年1月1日01時04分に、35-cm f/6.8 シュミット・カセグレン反射望遠鏡+CCDカメラを使用して、やまねこ座にある系外銀河NGC 2770(光度12等級)を25秒露光で撮影した10枚のサーベイ・フレーム上に17.2等の超新星らしき天体を発見しました。超新星は、銀河核から東に21"、南に15"の位置に出現しています。移動は見られません。2007年3月7日と12月18日(極限等級18等級)に、この銀河をサーベイしたときには、まだ出現していませんでした。また、DSS上にも写っていません」という発見報告とその概略位置が書かれていました。氏は、これまでに3個の超新星を発見しています。そのため、氏の発見は、1月1日03時19分にダンに連絡しました。

すると、03時38分に上尾の門田健一氏から「年末年始のご対応、ご苦労さまです。今、撮像を始めました。やや暗いため、何枚か撮像しますので、しばらくお待ちください」とさっそく返答があります。その間、広瀬氏が送ってきた画像から、超新星の位置と光度を測定することにしました。その結果、氏から報告のあった概略位置は、良くあっていることがわかります。また、出現光度は17.0等と測光されます。この測定は、03時46分にダンに報告しておきました。また、03時49分に門田氏に『暗いね……』という注釈をつけて、その確認のために広瀬氏の発見画像を送っておきました。また、04時01分に広瀬氏に『明けましておめでとうございます。我が国は、新年ですが、世界時ではまだ昨年ですね。おそらく、時刻的には昨年最後の超新星となるでしょう。関東は良く晴れていることと存じます。門田氏が今撮っているようですが、少し暗いので難儀するかもしれません。なお、明日の確認をお願い致します』というメイルを送っておきました。

04時02分、門田氏から「まだ撮像中です。暗いようですので、3分露出を繰り返しています。その位置に星が存在しています。DSS(1998年と2000年撮影)では、該当位置には星は存在しないようです。添付画像は、上下左右の反転で向きを合わせてください」というメイルとともにDSSの2枚の画像が送られてきます。そして、それから1時間以上が過ぎた05時22分に「遅くなりました。銀河の腕が明るいため、位置が測りづらかったです。次の位置に恒星らしき像があります。位置と光度は多少不確かです。超新星の光度は03時52分に17.3等でした。FITS画像を添付します。3分露出を10枚コンポジットしました。DSSの画像では、PSNの位置が少し集光しています。PSNのすぐ南側には明るい部分があります」というメイルとともに、超新星の出現位置と銀河中心の測定位置が書かれてありました。門田氏の測定位置は、私が広瀬氏の画像から測定した出現位置とほぼ1"以内に一致していました。氏の観測は、05時45分にダンに送付しました。そこには『Kadotaが送ってきたDSS画像の発見位置には、星はない。しかし、そのそばにHII領域の小さな淡い塊がある』ことを書いておきました。

元旦の朝は、実家に立ち寄って、09時10分に帰宅しました。快晴でしたが、室温が11度と、この冬一番寒い朝でした。元旦の夜も、オフィスに出向いてきたのは1月2日01時45分になっていました。すると、その日の夕刻、16時16分に広瀬氏から「元旦の朝なのに、いろいろお骨折りいただきありがとうございました。今朝、薄明が始まってからでしたが、サーべイの最後に撮った画像をお送りします。人工衛星(スペースデブリ)が飛び込みました。私の家は幹線道路際で、普段ですとトラック等の振動で、透明度が良くてもここまでは写らないのですが、ちょうど正月で交通量も少なく、透明度も大変良く、だいぶ暗い星まで写すことができました。今、少し雲が出ていますが、晴れたら今晩確認してみます」というメイルが届いていました。社会活動が鈍くなるお正月は、都会でも捜索の好機なのです。

そして23時54分には、広瀬氏から「1月1日23時17分に確認しました。画像を添付します。昨日より少し明るくなっているようです。アストロ・メトリカで測定したところ、位置は同じで17.0等でした」という確認が届いていました。さらに01時08分には、山形の板垣公一氏からも「確実に存在します。1月2日00時37分の観測では16.9等です。栃木での観測です」というメイルとともにその確認観測が報告されていました。板垣氏は冬場の悪天候を避けて、栃木に来ているようです。もちろん、両氏の確認は01時58分にダンに送っておきました。それを見た門田氏からは02時29分に「今夜の観測にて確認できたとのことで、安心しました。上尾の画像ではなんとか測定できる写りだったのですが、さすが長焦点では分解能が違いますね。こちらのピクセル分解能は3".3角ですので、PSNが銀河中心に近かったり、腕に重なってS/N比が低かったりすると、複数フレームでコンポジットが必須です」という返事があります。『門田さん。お手数をおかけして、ご苦労さまでした。』この夜も朝まで業務をし、自宅に戻ったのは09時00分になっていました。空は、まだ、良く晴れていました。

さて、1月2日夜、自宅で出勤の準備をしていたそのとき、22時54分に吉見の市村義美氏から「12月21日に発見した超新星2007ss(2008年7月号参照)とはまた別の超新星を見つけました」という連絡があります。さらにオフィスに向かう途中の23時41分に「うお座に10等級の新彗星を見つけた」という報告、さらに、オフィスに出向くと広瀬氏から「別の超新星状天体」の発見報告が届いていました。いずれも発見経験者からのもので、信憑性の高いものした。お正月早々、忙しくなりました。でも、これは私にとって大変うれしいことなのです。以下、次号に続きます。

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