メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第27回 ロケット打ち上げを見る 第2章
直前のハプニング

星ナビ2007年4月号に掲載)

かねてより憧れていたH-IIAロケットの打ち上げ見学顛末記の続きです。鹿児島県種子島へ飛んだ僕が、カウントダウンの先に見たものとは。

打ち上げ前日の緊張

僕たちが打ち上げを見守るのは、種子島宇宙センターの竹崎観望台で、射点(発射台)から3kmあまり離れた場所にある。報道陣もここで取材するわけで、お茶の間で見られる打ち上げ中継もここで撮影される。

12月15日はセンター内の見学のあと、翌日の打ち上げに備え、撮影の段取りの確認。打ち上げの瞬間は、JAXAと共同で用意したハイビジョンカメラ数台と撮影クルーがとらえる。しかしそれだけではない。打ち上げの翌日には、ヘリコプターをチャーターし、センター上空の空撮を行う。そして、総合指令棟で、職員の方々にエキストラ協力していただいての、打ち上げ管制の撮影も行う。どれも楽しみな内容である。

しかしハプニングがあった。天候不良のため打ち上げが2日、延期されてしまったのである。ロケットの打ち上げ延期は珍しくない。日程には多少の余裕は織り込み済みではあったけれど、それによりスケジュールが圧迫されることになった。

もっとも、打ち上げの映像を撮影する点では逆に良かったかもしれない。当初の予定日より天気が良く、快晴に近い状態の中となったからだ。しかし本当のハプニングは打ち上げ直前にやってきた。

打ち上げの瞬間!そのとき……

満を持して打ち上げを待っていた僕。打ち上げ5分ほど前だったろうか。なんということだろうか、携帯が鳴った。この日投影が始まった日本橋HD DVDプラネタリウム「北斎の宇宙」の現場から、メガスターのトラブルを知らせる電話だった。至急、リカバリを求める電話で、対応しないわけにいかない。

結局、電話応対に時間を取られ、打ち上げをしっかり見ることができなかったのだ。しかし、ハイビジョンカメラは打ち上げの瞬間をとらえることに成功していた。最初の目的は達成したのである。

H-IIAロケット11号機の打ち上げは終始完璧であった。全ての段取りが計画通りに行われ、衛星「きく8号」は静止トランスファ軌道に投入された。竹崎観望台に安堵の拍手が広がった。

そのとき、IACでもご一緒したJAXAの“いはもと氏”から声をかけられた。「どうです? ロケットをもっと作りたくなりましたか?」。しかし本音を言うと僕はストレートにYESと言えない気分だった。あまりに素晴らしすぎ、完璧すぎ、これだけ大勢の人たちがきちんと職務を遂行してこの打ち上げが成功している。こんな光景を見せられて、逆に「自分がとてもできることではない、関われることではない」と少し怖じ気づいてしまった、というのが本音だったからだ(でもロケットへの感動と憧れは強まった)。

その夜、熱狂的なもうひとつの打ち上げ、夜の宴にも参加させていただいた。本当にGood Job! 素晴らしい場面に立ち会わせていただいた、感動的な種子島ロケであった。

ハイビジョンカメラで撮影(のフリ)をする大平

ハイビジョンカメラで撮影(のフリ)をする大平。実際にはプロのカメラマンにお願いしました。