メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第21回 火事場の馬鹿力か?神の慈悲か? ギリギリスケジュールの結末は…

星ナビ2006年9月号に掲載)

イベントの嵐の中で

静岡県御前崎にある中部電力・浜岡原子力館での、メガスターIIの上映についてお話ししたい。このイベントは、愛知万博関連のイベントでお世話になった堀内氏からの依頼だったということもあり、引き受けることになった。しかし、「七夕ランデブー」制作と時期が完全に重なっていたのが最大の悩みだった。

会場は、浜岡原子力館にあるオムニマックスシアターで、直径18メートルの傾斜型ドームがある。プラネタリウムとしても立派な施設だが、ここはフィルムによる全天周映像施設で、プラネタリウム投影機は設置されていない。だからドームの中心はそっくり空いていて、メガスターIIの設置には申し分なかった。

開催前日の夕刻、スタッフの隅田氏と共に現場に到着した僕は、メガスターIIタイタンを設置、星空の投影テストをした。ここで一つ発見したのが、星の映り具合が思いのほか良いことだった。オムニマックスシアターは、一般にスクリーンの反射率が低く(灰色っぽく)設定されているのだが、ここでメガスターIIを投影すると、いっそう星空の奥行き感が増し、本物の星空に近く見えるのだ。これは幸先がよい。番組制作に割ける時間が限られている分、星空がより重要である。精密調整はできなかったものの、投影機のピント調整だけは念入りに行った。

当日朝。最終リハを迎えた。ホテルでの選曲がうまくいき、番組の流れが急速につかめたこと、そしてメガスターIIの映り具合が良かったことで、僕の意気は高揚していた。

メガスター公演の難しさ

そして本番。1日計6回の連続生解説は、久々に行った僕にとっては楽ではなかった。けれど、無事、予定された2日間、計12回をすべてこなし、イベントは成功をおさめたのだった。

その結果は、お客さんの反応、そして堀内氏、中部電力の担当者ら、スタッフ全員の笑顔が物語っていた。大勢のお客さんが握手を求めてくださり、口々に嬉しい感想を伝えてくれた。

僕は嬉しかったが、少しだけ複雑でもあった。なぜなら、同時期に開催された「七夕ランデブー」は、何週間もかかりきりで制作し、費用と情熱を注いだ番組。しかし、お客さんの反響は、ごく短時間に怒涛の勢いで作り上げた浜岡のほうが良かったようにも思えるからだ。成功は嬉しい。でも同時にメガスターのコンテンツの難しさを思い知るところでもある。投入した時間や情熱と結果が必ずしも比例しないのが、メガスター上映の不思議なところで、そこが面白いところともいえる。

今回の成功の要因は何か? 切羽詰った開発者による火事場の馬鹿力、オートには替えられない生解説の魅力、色々あるけれど、結局は、土壇場まで追いつめられた僕に対して、神様が与えてくれた慈悲だったような気もする。

ともかく、浜岡の仕事は大成功に終わった。ほんとうに気持ちよく仕事ができて、堀内氏にも義理を果たせたし、早くも来年またやりましょうという話も出ている。メガスターを使ったイベントの難しさに、複雑な心境になることはあるけれど、こういう声を聞くと、この仕事をやっていてほんとうに良かったと思うのだ。

浜岡原子力館のスタッフと

イベントを大成功に導いてくれた、浜岡原子力館のスタッフの方々とメガスターIIタイタン。写真提供/中部電力