メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第9回 「プラネタリウムを作りました。」テレビドラマ化

星ナビ2005年9月号に掲載)

すでに新聞記事などでご存じの方も多いと思うけれど、僕のプラネタリウム人生がテレビドラマ化される。タイトルは「星に願いを〜 七畳間で生まれた410万の星」。こういうことは初めてなので、僕にはまだ最終的なイメージは今ひとつわかないけれども、素晴らしい作品になりそうだ

まず、いきさつを話そう。ドラマ化の話が来たのはおよそ1年前。脚本家の金子ありささんから届いた一通のメールだった。金子さん曰く、偶然見つけた僕のホームページで製作日誌を見て非常に共感してくれ、ドラマにしたいとのこと。僕は興味を持ったけれど、一方でプラネタリウムづくりなんていう地味なテーマが果たして大衆受けするテレビドラマになるのだろうか、という疑問もあった。しかし金子さんがフジテレビに企画を持ち込んだところ、強い興味を示したのが今回のドラマ担当の関谷正征プロデューサーだった。関谷氏はこれを、フジテレビがディズニーと数年来暖めていた実写ドラマ共同制作構想に持ち込み、ディズニー側の初めてのゴーサインを得たことで、一気に具体化していったのである。主演は、なんとKinKi Kidsの堂本 剛さん。他にも豪華キャストが並ぶ大きなプロジェクトである。僕は、地味だと思っていたプラネタリウムづくりがこんなに人の共感や関心を得ることができた驚きと、ドラマ化が色々な意味で強い意義を持つことを感じ、制作にも全面的に協力することになった。

しかし華やかなドラマも、実際の制作は大変である。6月27日にクランクインし、ほぼ1ヶ月で2時間の全シーンを撮り終える。今回の企画は百戦錬磨の制作陣にとっても難題をはらんでいたようだ。一つはプラネタリウムという題材そのもの。何しろ暗い星が相手なのでテレビカメラで撮影するのが非常に難しい。そこでスタッフに僕が提示したのが、開発中のデジタルメガスターの技術を応用した映像制作だった。メガスターで実際に投影する恒星データを使い、超高解像度の星空映像を作ることができるシステムである。フジの映像チームにサンプル映像を見せて、問題は解決となった。

そしてもう一つ制作陣を苦労させたのが、プラネタリウム、およびモノづくりの世界特有の、特殊な機材や環境の再現だった。たとえばマイクロプロッターによる恒星原板の製作などの面倒なシーンは、ほとんどの人が見ても意味がわからない分、ごまかす手もあったろうが、僕が感銘したのは、彼らはそうした技術考証や再現にも極力手を抜くことをしなかったことである。僕が貸し出した本物のレーザー装置などの機材と、わずかな情報を頼りに、フジの美術スタッフがかつての機材や作業環境を、ほとんど忠実に再現してみせたのだ。圧巻は、学生時代に製作し、今はほとんど原型をとどめていない初のレンズ式自作プラネタリウム「アストロライナー」であろう。これが完成当時の姿で現れたときは本当に驚いて、タイムスリップしたのではないかという気分にさえなった。

そんな制作陣と、堂本さんはじめ役者さんたちは連日連夜、過酷なスケジュールでの撮影を日々こなし、この原稿を書いている今この瞬間にも、1シーンずつ着実に撮影を進めている。こうして作り上げられる映像が、素晴らしいものにならないはずがない。

また僕は、このドラマは、プラネタリウムに興味を持つ人が増えることだけではなく、科学や技術開発の世界をフィーチャーする意味でも興味深い企画だと思う。科学技術がテレビで取り上げられることは少なくない。けれどもほとんどが教養番組やドキュメンタリーで、そこで描かれるのは事実の忠実な再現と説明で、どうしてもその世界にある程度関心を持つ人を想定するものになっていたと思う。しかしこの「星に願いを」は、実話を極めて忠実なベースにしながら、様々なストーリーや人間模様を織り交ぜ、民放局の金曜日のゴールデン枠で放送し、一般人に楽しませるエンターテインメント性を持つ物語に昇華させようとしているのだ。難解な開発の場面を、どうやったら一般人が見ても興味の持てる形で表現できるだろうか? これは壮大なチャレンジである。これは世界的にみてもおそらく画期的なことで、だからこそ難攻不落とされた米ディズニーが太鼓判を押したのだろう。

今まで、技術開発という世界に興味を持たなかった人たちが、大勢このドラマを見ることになるだろう。そしてそこから何を感じてくれるだろうか。夢は叶うという単純明快にして重要なメッセージ。そしてモノづくりという世界のカッコ良さ、おもしろさ、無限の可能性を、きっと感じ取ってくれることだろう。

立て看板と

撮影用に再現された、大学時代の学園祭の立て看板と記念撮影です。

作業部屋

スタジオ内に作られた大平の作業部屋での撮影準備。

メガスターI

メガスターIの投影シーンをつくばエキスポセンターで撮影。スモークを焚いたため、光筋がでている。

星ナビ表紙

ドラマには天文雑誌のカメラマンや、メガスターを紹介した架空の記事が登場する。画像は、作中で小道具として使われる予定の架空の「星ナビ2000年6月号」表紙。

ディズニードラマスペシャル「星に願いを」
大平貴之の半生をフジテレビがドラマ化。8月26日21時放送終了。