Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2022年6月号掲載
「始まり」からはじめる宇宙論

何事にも「始まり」がある。もちろん、宇宙にも。今回は「始まり」に注目しながら、宇宙論に関する本を紹介しよう。

まずは、基礎をおさえるための教科書から。『入門 現代の宇宙論』は、大学の学部生レベルを対象にした入門書。宇宙膨張の記述、宇宙初期から後期までの進化、インフレーション理論、物質の生成、原始密度揺らぎと宇宙背景放射の温度揺らぎ、宇宙の大規模構造、暗黒エネルギーなどを解説する。著者は、宇宙論のなかでも特に「宇宙初期のインフレーション」と「宇宙後期の加速膨張を引き起こす暗黒エネルギー」に関心を寄せている。この2つの“宇宙の加速膨張”については、宇宙背景放射・銀河分布・遠方の超新星などの観測によって検証され、ノーベル賞の対象になっている。その一方で、インフレーションと暗黒エネルギーの起源は何なのか明らかになっていない。この本で宇宙論の基礎を学んだ研究者が、いつか謎を解き明かしてくれることを著者は期待している。

『6つの物語でたどるビッグバンから地球外生命まで』の始まりは、1995年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で開かれた「宇宙の起源と進化」をテーマにしたシンポジウムだった。このとき6人の講師が語った内容を拡充して、翌年に出版したのが『宇宙の起源と進化−ビッグバンから宇宙生物学まで(初版)』だ。それから20年以上たち、天文学の急速な発展で大幅に進化した研究内容を盛り込んだ改訂版が、2021年に発刊された今作(第2版)。講演者は当時から各分野で活躍する研究者だったが、さらに世界を代表するリーダーに成長した。そんな6人のスピーカーによる語り口調も、個性的でユニークだ。

『ファーストスター 宇宙最初の星の光』はその名の通り、宇宙で最初に光った星をめぐる話。ビッグバンから約2億年後に誕生したファーストスターは、水素とヘリウムで満たされていた宇宙に、核融合反応や超新星爆発を起こして、多様な元素をもたらした。それはやがて恒星や惑星になり、ひいては生命の源になった。すべてのルーツである初代星を求め世界中で様々なプロジェクトが進行しているが、まだ見つかっていないという。そんなファーストスター研究の最前線をイギリスの天体物理学者がつづった科学書。

宇宙の始まりを語るときに必ず登場する言葉が「インフレーション」や「ビッグバン」だ。つまり、宇宙は“爆発現象”によって始まった。ほかにも「超新星爆発」や「ガンマ線バースト」など、宇宙では様々な爆発が起きている。そんな「爆発」をキーワードに宇宙を俯瞰した本が『爆発する宇宙』だ。宇宙の誕生、星の誕生、生命の誕生、あらゆるドラマが“爆発”という切り口で語れることにとても感心し、私の知的好奇心にも火がついた。

宇宙の始まりを知るためには、宇宙の姿を知らなくてはならない。かつては可視光線・赤外線・電波・X線などの電磁波による天文学が中心だったが、近年はニュートリノを使った素粒子天文学や重力波天文学も用いられる。このような様々なメッセンジャー(伝達者)を総動員することで宇宙の歴史や謎を読み解くのが『マルチメッセンジャー天文学が捉えた 新しい宇宙の姿』。マルチメッセンジャー天文学の黎明期(始まり)をお見逃しなく。

(紹介:原智子)