Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2017年1月号掲載
宇宙に広がる長い歴史と多くの人生

2016年に発表された天文ニュースの中で、もっとも話題となったのは「重力波の直接検出」だろう(1回目の検出2015年9月14日、発表2016年2月12日。2回目の検出2015年12月26日、発表2016年6月16日)。“アインシュタイン最後の宿題”といわれた謎は、奇しくも一般相対性理論から100年目に解かれた。『重力波は歌う』 は、長年にわたりこの謎に取り組んだ科学者たちを直接取材し、わかりやすく紹介したサイエンス・ドキュメント。著者のジャンナ・レヴィン氏はコロンビア大学バーナードカレッジの物理学・天文学教授で、重力波について丁寧に解説してくれる。しかしこの本の最大の読みどころは研究現場で繰り広げられる人間ドラマだ。著者がアメリカの重力波観測施設LIGO(ライゴ)に何年も足を運び、当事者や関係者に会い直接話を聞き、彼らの発言を引用しながら物語を進める。そこには、科学者たちの波瀾万丈の人生や異なる性格のぶつかり合いなど、ブラックホール同士の衝突に負けない魅力がある。原題は「Black Hole Blues (and Other Songs from Outer Space)」。ブラックホールから響いてくるのはブルースで、それはブラックホールの歌を聴きたいと願った科学者たちの人生にも重なる。

そんなブラックホールについて、歴史的な視点から科学エピソードを集めて紹介したのが、ズバリ『ブラックホール』 だ。一般的に“ブラックホール”という語は1967年、アメリカの理論物理学者ジョン・アーチボルド・ホイーラーが使い始めたことになっているが、当然ながらそこにはもっと段階的な流れがあり、物語がある。著者のマーシャ・バトゥーシャク氏は、「ブラックホールの最新理論モデルや魅惑的な振る舞いについて説明する本はあるが、この異様な天体が確認された激動の歴史にスポットを当てたものがほとんどない」として、一般相対性理論100年を祝う方法のひとつとして著した。彼女いわく「本書は、ブラックホールの解説書でもなければ、天文学の最新の発見や理論的発見を報じるものでもない。アイデアの歴史書である」。原書発刊後まもなく(翻訳終盤ごろ)重力波が直接検出され、またひとつブラックホール研究の歴史に大きな項目が加わったことになる。

ここまでブラックホールにまつわる人々をテーマにしてきたが、天文学に関わる人はほかにも大勢いる。そんななかから、宇宙の膨張を発見した天文学者エドウィン・ハッブルのドラマを書いたのが『ハッブル』 だ。「アンドロメダ大星雲」までの距離を測り、それが「銀河系」の外にあることを示した。また、銀河の分類法を確立したことで人類の宇宙観を大きく変えたのである。16歳という若さでシカゴ大学に入学した彼は、スポーツ万能で容姿端麗だが、エキセントリックな人柄でもあった。非常に興味深い人物を通して、観測的宇宙論の展開を読むことは面白い。

さて、宇宙を観測し天文学を深めた人間は、外国人ばかりではない。日本にも昔から天体を観測し、宇宙について理解しようとする人々は大勢いた。『天文学者たちの江戸時代』 では、江戸時代の幕府天文方とその周辺の人物をとりあげている。暦の渋川春海、西洋天文学の徳川吉宗と麻田剛立、測量の伊能忠敬、地動説の高橋至時、町人学者の間重富、シーボルト事件の高橋景保など、それぞれの物語をたどりながら、日本における天文学の発展や宇宙観の変遷を感じる。ちなみに2016年は間重富の没後200年(生誕260年)で、彼に関する貴重な資料が重要文化財に指定された。

しかし実のところ、今も昔も、星空を見上げるのは学者だけでなく、むしろ市井の人々の瞳のほうが多いだろう。そんな市民にプラネタリウムで語りかけたきた著者が、課題として見つめ直したのが、『人はなぜ星を見上げるのか』 である。同書に描かれた、星が紡ぐ無数の物語を読むと、「星は人に生きる力を与える」ことが伝わってくる。それは私たち市民だけでなく、多くの科学者を刺激するパワーにもなっていたのだろう。星があるから見上げる、宇宙があるから知りたい、そういうことかもしれない。

(紹介:原智子)