Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2016年1月号掲載
宇宙を見つめる人、支える人、伝える番組

一口に天文ファンといっても人によって宇宙への関心の寄せ方は違い、「地面に寝転んで満天の星を眺めたい」とか、「大きな望遠鏡で遠くの銀河を探りたい」とか、その内容も行動もさまざまだ。岩谷圭介さんはなんと『宇宙を撮りたい、風船で。』 と思ったそうだ。宇宙に風船を上げるというと、ラジオゾンデによる高層気象観測やバルーンを利用した通信実験などがあるが、彼は小型カメラを吊るして宇宙を撮影するという。その名も「ふうせん宇宙撮影」。このような高高度気球による観測はJAXAやNASAも行っていることだが、彼はたった1人で始めた個人の活動なのだ。掲載写真を見ると、鳥の目で見たような地上の景色から、飛行機の窓から見たような雲海の風景に変わり、そして国際宇宙ステーションから撮影したような「水色の地球と真っ黒な宇宙空間とその間にある薄い大気の層」が写った写真になる。これを、ロケットも飛ばさずに自分ひとりで作った装置で撮影したときはさぞ興奮したことだろう。ところが彼は「僕がずっとやっていたことは、宇宙を撮影することではなかったのです。宇宙と向き合っていると思っていましたが、本当にやっていたことは『自分と向き合うこと』だった」と気づいたという。彼がどのように自分と向き合いながら宇宙を撮影しているかが詰まっている一冊。

『白河天体観測所』 といえば多くの星ナビ読者もご存じのように、1969(昭和44)年に藤井旭さんと星仲間の5人が中心メンバーとなって那須高原に設立した私設天文台だ。台長は、日本中の天文ファンに愛された北海道犬のチロ。今や天文台はなく、チロも星になってしまったが、2014年までの半世紀にわたって日本の天文界を支えた場所である。そこで繰り広げられた人間ドラマや観測記録などを綴っている。時代的に天体観測がブームになり、天文を研究する科学者や普及活動をする人たちが次々に登場した。そんな天文熱がダイレクトに伝わってくるエッセイ集。

さて、この秋の話題のテレビドラマといえば『下町ロケット』 だ。下町の中小企業が自社の研究力と技術力を武器に、巨大企業を相手にプライドをかけて渡り合う。人気作家・池井戸潤さんならではの、胸がすくような展開の社会派エンターテインメント。実社会でもつい先日、H-IIAロケット29号機による国産初の純商業打ち上げが成功した。ロケットがどれほど多くの人の技術と熱意によって支えられているか、筆者も多少はわかっているつもりだったが、あらためてそのひとつひとつにさまざまなドラマがあることを想像させてくれる物語だ。第145回直木賞を受賞した単行本は2010年に発売され、13年に文庫判が出版されている。そして2015年11月、待望の続編である『下町ロケット2 ガウディ計画』 が発売された。新作では「ガウディ」と名付けられた医療機器の製作がテーマになり、新たな展開を見せる。「ロケットから人体へ」という広告のキャッチコピーの通り、話題は宇宙開発から医療へと移り、そこにはびこる問題点や、地位と名誉に群がる者たちの妨害が描かれている。せっかくだからこの機会に両作を読み、日本の技術力に思いを馳せるのもいいだろう。

最後は、同じ内容を扱った書籍とDVDを紹介しよう。今春に放送されたNHK BSプレミアムの宇宙番組『138億年の超絶景!宇宙遺産』を書籍化した『宇宙遺産 138億年の超絶景』 と、同番組を再編集したDVDブック『NHK ザ・プレミアム 138億年の超絶景! 宇宙遺産DVD BOOK』 だ。“宇宙遺産”とは、NASAやJAXA、JPL、国立天文台など世界中の宇宙関連機関や個人が厳選した、「次世代に残したい宇宙の風景」のこと。繊細なガスが表情豊かに光るカラフルな星雲や、衝突してバラの花のような形に並んだ2つの銀河など、神秘的な天体画像の数々。そして、人類が初めて月面に残した足跡や、命綱なしで行う宇宙遊泳の姿など、歴史的な写真。さらにはISSから撮影した、ジャングルの三日月湖や、人間の息づかいを感じる地上の夜景など、さまざまな絶景が集められた。

今回紹介した書籍はいずれも、そこに“感動”が込められていた。個人が低予算で挑戦する宇宙開発、天文仲間が集う人生を豊かにしてくれる天体観測所、中小企業が高い技術力でロケット作りに立ち向かう挑戦物語、美しく魅力的な天体画像や人間や自然の息づかいが伝わる風景。多くの人にこの感動を、ゆっくり味わってほしい。

(紹介:原智子)