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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

隕石コレクター 鉱物学、岩石学、天文学が解き明かす「宇宙からの石」

表紙写真

  • リチャード・ノートン 著/江口 あとか 訳
  • 築地書館
  • 四六判、377ページ
  • ISBN4-8067-1345-7
  • 価格 3,675円

宇宙から届けられる星のかけら・隕石。かつては一部の研究者やコレクター間でのみ細々と売買されていたが、年々その人気は高まり、ここ10年あまりのあいだに隕石の価格は大幅に上がっている。

欧米では、18世紀初頭から世界中の隕石を標本として探索・改修を続けており、その過程においてじつに人間味あふれるドラマが展開されてきた。他人の土地で巨大隕石を見つけた家族が、高値で取引されると知って起こした奇妙な行動、資金繰りのために幻の巨大パラサイト隕石をでっちあげた人物など…。また、隕石ハンティングの歴史だけでなく、隕石と天文学の関係や隕石クレーターの検証、見つけ方などを、それにまつわる興味深い逸話とともに紹介している。写真や図説も豊富で、用語の解説も丁寧なので、隕石初心者(?)でもぐいぐぎ読み進むことができるだろう。学術的な好奇心を十分に満たすことができ、なおかつ楽しい読み物としてもおすすめの一冊だ。

大規模書店の書棚を観察しても分かるように、日本には隕石に関する良い図書が極めて少ない。研究者が限られ教育普及面からも大きく立ち遅れているが、最大の理由は隕石天文学の歩み方にある。日本の隕石学は明治・大正・昭和初期には化学から入った。東大ではこの頃少なくとも隕石学者が化学科に属していたのだ。米国でも20世紀前半までは同様だったが、わが国は後半に至ってもそのままだった。

元々天文学の資源がなく、狭く急峻で地形変動も大きなわが国では隕石は化学的「点」でしかなく、天文学的「面」とは捉えられなかった。日本の隕石学が博物学・分類学だけと酷評されても仕方ない状況だったのだ。それに対し、バリンジャー隕石孔などフィールド・ワークの対象に恵まれた米国は、元々面的思考機会に恵まれていた。だから、隕石学は天文学の一分野としても発達したのだ。そんな解釈を本書ですることができよう。

著者はカリフォルニア大学で天文学と隕石学を学び、プラネタリウムの館長を歴任した人。だから、原始太陽と太陽系誕生から小惑星帯形成に至る議論は物理学的にしっかりとしており、本書は評者にとっても非常に勉強になる。また、いわゆるアルバレス説に基づくメキシコ湾巨大クレーター形成や惑星ネメシスの話は、セドナなど続々見つかる太陽系外縁天体の知見と関連し、これから議論が大きく発展するのを期待させてくれる。

さらにまた、隕石学の基本が易しく具体的に記され、隕石ハンター(山師・詐欺師を含む)の実態、世界初の自営専任隕石学者ナイニンガーの活躍、「隕石男」と呼ばれる快男児等数々のエピソードも語られる。日本では入門書形式で原書を大幅カットして出版されたが、欧米で隕石ブームの火付け役となったと言われる評判どおりの好書だ。

訳者もカリフォルニア大学地質学科卒業という輝かしい経歴を持つ新進翻訳家で、女性らしい気配りがきいた丁寧で正確な科学的訳文であり読みやすい。評者は、今から40年も前の学生時代にお付き合いさせていただいた鉱物学研究室の面々、元有名プラネタリウム館長などの姿を思い浮かべながら、隅々まで愉しく読ませて頂いた。日本にも拡大しつつある隕石ブームの、さらなるきっかけになることを期待したい。

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