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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

ファーストマン(下) ニール・アームストロングの人生

表紙写真

  • ジェイムズ・R.ハンセン 著/日暮 雅通、水谷 淳 訳
  • ソフトバンククリエイティブ
  • 四六判、580ページ
  • ISBN4-7973-3667-6
  • 価格 2,499円

評者が、いつも日本が科学史的に二流国だと思うのは、重要な科学史エポックに関して日本語で書かれた原典がないからだ。月面に初めて立った人が米国人ということは、科学史的に圧倒的に米国優位である。この本を読むと、国粋主義者がなんと言おうと、日本は歴史的にその後塵を拝すしかなく、世界主義に立つしかないことを認識させられる。それほどアポロ宇宙船による月面探査の意義は人類にとって大きいのだ。

本書は宇宙開発の歴史を専門研究課題とする教授の著作で非常に読み応えのある本だ。主役アームストロングのエピソードは勿論、オルドリンとの月面第一歩の確執など、原典やインタビューなどの資料に基づく圧倒的裏付けは目を見張るものがある。特に著書「裸者と死者」で著名なピュリッツアー賞受賞作家ノーマン・メイラーによる冴えたアームストロング評は、きわめて興味をそそるもの。

評者は、一番知りたかったアポロ11号を主に扱った下巻しか読んでいないが、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー・リストに載ったり、本書刊行前に映画化権をイーストウッド監督が買ったほどの評判にたがわず、凄い。表記はメートル法になおすべきだし、米国人でないと理解できない表現には注釈をつけてほしいし、ニールと名で呼んだ直後にアームストロングと姓で呼ぶのは日本人にとって慣用的でないなど、訳者には注文をつけたいが、それでも上巻を含め精読されることをおすすめしたい。

3年間に及ぶ最初の妻との気持ちのすれ違いから離婚に至る過程や、両親の相次ぐ死を通して悩む主人公の心理的内面も克明に記され、人生論としても勉強になる。しかしながら一番の主題、月探査船長としてのアームストロングの人柄に魅力を感じるのは評者だけではあるまい。何度も読み返したくなる好書である。

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